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第39話 止まる一点

 ――一箇所でも止まれば、全てが崩れる。


「止まった!」


 その声は、鋭かった。


「……」


 女の視線が、瞬時にそちらへ向く。


 南側の通り。


 荷が詰まり、人が押し合っている。


「……」


 エルナが叫ぶ。


「……やばい!」


「……」


 流れが、揺れる。


 中央市場から伸びた一本の流れが。


 わずかに歪む。


「……」


「……崩れる」


 ミレイユが低く言う。


「……」


 カイルは、黙って見ている。


「……」


 女は、動かない。


 ただ。


 その一点を、見続ける。


「……」


 時間は、ない。


 判断は、一度きり。


「……」


「……誰が止めている」


 静かに呟く。


「……」


 エルナが、目を凝らす。


「……」


「……あれ」


 一人の男。


 荷車を動かさず、腕を組んでいる。


「……」


「……あの人、動かない」


「……」


 女は、頷く。


「……」


「……理由は」


「……」


 カイルが、答える。


「……賭けだな」


「……」


「……は?」


 エルナが振り返る。


「……」


「……流れが崩れるのを待ってる」


 一拍。


「そうすりゃ、また元に戻る」


「……」


 その言葉。


「……」


 女の目が、わずかに細くなる。


「……」


 理解した。


「……」


「……一人で止められる」


 小さく呟く。


「……」


「……だから」


 一歩。


「全員で動かします」


 その言葉。


「……」


 エルナが、息を呑む。


「……」


「……どうやって」


「……」


 女は、答えない。


 ただ。


 声を張る。


「……全員、聞いてください!」


 強く。


 今までで一番。


「……」


 市場全体が、揺れる。


「……」


「今、この流れが止まれば」


 一拍。


「全員が損をします」


 その一言。


「……」


 全員が、そちらを見る。


「……」


「……だから」


 一歩。


「止まっている場所へ」


「全員で圧をかけてください」


「……」


「……は?」


 ざわめき。


「……」


「……押せってことか?」


「……」


 女は、首を振る。


「……違います」


「……」


「動かしてください」


 静かに言う。


「……」


「……」


「止まっている人に」


 一拍。


「“止め続ける方が損”だと、思わせてください」


 その言葉。


「……」


 カイルが、小さく笑う。


「……心理戦か」


「……」


 女は、何も言わない。


「……」


 だが。


 その瞬間。


「……行け!」


 誰かが叫ぶ。


「……」


 人が、動く。


 止まっている一点へ。


「……」


 囲む。


 視線。


 圧。


「……」


「……おい」


 止まっていた男が、顔をしかめる。


「……」


「……何だよ」


「……」


 誰も、怒鳴らない。


 ただ。


 見ている。


「……」


 動け、と。


 言葉にしない圧。


「……」


 沈黙。


「……」


 男の表情が、歪む。


「……」


「……ちっ……」


 舌打ち。


「……」


「……わかったよ」


 小さく言う。


「……」


 荷車を押す。


「……」


 その瞬間。


「……」


 止まっていた流れが。


 再び、動き出す。


「……」


 そして。


「……」


 街全体が、繋がる。


「……」


 一本の流れとして。


「……」


「……動いた」


 エルナが、呟く。


「……」


「……全部」


「……」


 ミレイユが、静かに言う。


「……維持されています」


「……」


 カイルが、笑う。


「……やったな」


「……」


 男が、ゆっくりと頷く。


「……」


「……完全に、通したか」


 低く言う。


「……」


 女は、何も言わない。


 ただ。


 その流れを見ている。


「……」


 だが。


 その時。


「……」


 ふっと。


 視界が、揺れる。


「……」


 ほんの一瞬。


 誰も気づかないほど。


「……」


 だが。


 確かに。


「……」


 女の足が、わずかに止まる。


「……」


「……?」


 エルナが、気づく。


「……」


「……大丈夫?」


 小さく聞く。


「……」


 女は、答えない。


 ただ。


 もう一度、流れを見る。


「……」


 動いている。


 止まっていない。


「……」


 それを確認して。


「……」


「……問題ありません」


 短く言う。


「……」


 だが。


 その声は。


 ほんのわずかだけ。


 いつもより、弱かった。

流れは、止まらなかった。


でも、その裏で――少しずつ無理が積み重なっていく。


次は「維持できるのか」が問われます。


続きを楽しみにしていただけたら、ブックマークや評価で応援してもらえると嬉しいです。

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