第30話 戻る意味
――戻ります。
その一言が、静かに落ちた。
「……」
誰も、すぐには動けなかった。
それは、歓喜でも安堵でもない。
もっと別の。
重い感情だった。
「……」
エルナが、息を吐く。
「……戻るんだ」
小さく。
確認するように。
「……」
女は、何も答えない。
ただ。
視線を、周囲へ向ける。
「……」
整った現場。
流れ続ける人。
もう、混乱はない。
「……」
「……ここは」
女が、ぽつりと呟く。
「……しばらく、回ります」
それだけで。
十分だった。
「……」
アルトレインは、頷く。
「……引き継ぎは?」
「必要ありません」
即答だった。
「……」
「記録は、残してあります」
「……」
短い会話。
だが。
無駄がない。
「……」
その時。
「……あの」
小さな声。
少女だった。
「……」
女が、視線を向ける。
「……」
少女は、少しだけ迷って。
それでも、言う。
「……行っちゃうの?」
その言葉に。
空気が、少しだけ変わる。
「……」
女は、少しだけ考える。
そして。
「……ええ」
短く答える。
「……」
少女の目が、揺れる。
「……」
「……でも」
一拍。
「また、来ます」
その一言で。
少女の表情が、少しだけ明るくなる。
「……うん」
小さく、頷く。
「……」
そのやり取りを。
アルトレインは、静かに見ていた。
「……」
理解する。
この女は。
どこでも、同じことをする。
場所に縛られない。
「……」
だから。
必要なのだ。
「……」
「……行くぞ」
アルトレインが、短く言う。
「……」
騎士たちが、動き出す。
だが。
さっきまでとは違う。
無理に仕切らない。
流れを壊さない。
「……」
女は、何も言わない。
ただ。
歩き出す。
「……」
王宮へ。
戻るために。
「……」
その時。
「……」
ふと。
足が止まる。
「……?」
エルナが、顔を上げる。
「……」
女は、振り返らない。
だが。
視線だけが、後ろへ向く。
「……」
南区。
人の流れ。
整った空気。
「……」
一瞬だけ。
ほんの一瞬だけ。
目が、細くなる。
「……」
そして。
何も言わずに、歩き出す。
「……」
アルトレインは、その横を歩く。
並ばない。
半歩、後ろ。
「……」
それだけで。
十分だった。
「……」
やがて。
南区の喧騒が、遠ざかる。
「……」
代わりに。
静かな道が続く。
「……」
その時だった。
「……殿下」
ミレイユが、低く言う。
「……何だ」
「……これから」
一拍。
「かなり、揉めます」
その言葉に。
誰も、否定しない。
「……」
「貴族、議会、軍」
「……」
「すべてが、反発します」
「……」
アルトレインは、少しだけ息を吐く。
「……ああ」
「……」
「だが」
一拍。
「やる」
短く。
それだけ。
「……」
カイルが、小さく笑う。
「……いいですね」
「……」
「これでようやく」
一拍。
「面白くなる」
その言葉は。
予兆だった。
「……」
女は、何も言わない。
ただ。
前を見ている。
「……」
王宮が、見えてくる。
あの場所。
崩れた場所。
「……」
だが。
もう、同じではない。
「……」
構造が、変わる。
人が、変わる。
意味が、変わる。
「……」
その時。
「……」
女が、初めて言った。
「……最初に、整えるのは」
一拍。
「……“情報”です」
その一言で。
次の戦いが、始まった。
ここで、この物語は一度幕を閉じます。
彼女がいなくなったことで崩れ、
そして、彼女がいなくても回る形へと変わった王宮。
これは終わりであり、
同時に、“依存から自立へ”という一つの答えです。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。
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