第29話 それでも必要だ
――受け入れる。
その一言が、空気を裂いた。
「……殿下」
セレナの声は、明確に揺れていた。
「それは――」
「……わかっている」
アルトレインは、遮る。
低く。
だが、迷いなく。
「何を意味するかも」
「何を失うかも」
一拍。
「全部、理解した上で言っている」
「……」
沈黙。
その言葉には、逃げがなかった。
「……」
カイルが、小さく息を吐く。
「……ここまで来ますか」
半ば呆れたような、だが確かに興味を含んだ声。
「……」
「……いいでしょう」
続ける。
「少なくとも、“決断”としては一貫している」
「……」
ミレイユが、ゆっくりと目を閉じる。
そして。
開く。
「……合理的です」
短く言った。
「……」
「損失は大きい」
「ですが」
一拍。
「得られるものの方が、大きい」
その評価は、冷静だった。
「……」
エルナは、何も言えない。
ただ。
見ている。
「……」
その時。
女が、静かに口を開いた。
「……理解が、早いですね」
「……」
アルトレインは、答えない。
ただ、視線を返す。
「……」
「……ですが」
女は続ける。
「これで終わりではありません」
「……」
空気が、わずかに張り詰める。
「……」
「……何だ」
アルトレインが、低く問う。
「……」
女は、ほんの少しだけ視線を逸らす。
そして。
「……王宮の中だけでは、足りません」
その言葉で。
場が、再び動く。
「……」
「……どういう意味だ」
「……」
「“調整”は」
一拍。
「王宮だけで完結していません」
静かに。
だが、確実に。
「……」
「南区でも、同じことが起きていました」
「……」
「他の区域でも、起きている可能性がある」
その一言で。
空気が、重くなる。
「……」
アルトレインは、何も言わない。
だが。
理解している。
「……」
これは。
王宮の問題ではない。
「……」
都市全体の問題だ。
「……」
「……つまり」
ミレイユが、低く言う。
「王都全体を、対象にする必要がある」
「……」
「……ええ」
女は頷く。
「……」
「王宮だけを整えても」
「外が崩れれば、また影響が戻る」
「……」
「だから」
一拍。
「全体で、整える必要がある」
沈黙。
重い。
「……」
カイルが、小さく笑う。
「……話が大きくなってきましたね」
「……」
「王宮の運用変更どころではない」
「……」
「都市の構造に、手を入れる」
その言葉は。
軽くはない。
「……」
セレナが、ゆっくりと息を吐く。
「……殿下」
視線が向く。
「……これは」
一拍。
「王族の判断だけで決めてよい規模ではありません」
その通りだった。
「……」
「議会、貴族、商人」
「すべてに影響します」
「……」
だが。
「……だからこそだ」
アルトレインは、言った。
「……」
「今、止める」
一拍。
「そして」
「……」
「整える」
その言葉は。
単純だった。
だが。
揺るがない。
「……」
セレナは、何も言えない。
言葉が、見つからない。
「……」
その時。
「……では」
女が、静かに言う。
「……」
「どこまで、やりますか」
問いだった。
だが。
試すようでもある。
「……」
アルトレインは、迷わない。
「……全部だ」
即答だった。
「……」
空気が、変わる。
完全に。
「……」
「王宮も」
「王都も」
「……」
「全部、整える」
その宣言は。
あまりにも大きかった。
「……」
エルナの目が、大きく見開かれる。
「……」
ミレイユが、わずかに息を止める。
「……」
カイルが、静かに笑う。
「……面白い」
「……」
「それなら」
一拍。
「試す価値はある」
その言葉は。
完全に敵ではない。
「……」
女は、何も言わない。
ただ。
見ている。
「……」
長い沈黙。
誰も、口を挟まない。
「……」
やがて。
「……わかりました」
女が、静かに言った。
「……」
「条件は、すべて受け入れられました」
「……」
「……」
アルトレインの目が、わずかに動く。
「……」
そして。
「……戻ります」
その一言で。
すべてが、決まった。
ついに「決断」が形になりました。
ただし、これは終わりではなく“始まり”です。
ここから先は、さらに大きな戦いになります。
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