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第25話 届かない声

 ――邪魔です。


 その一言が、場の空気を完全に凍らせた。


「……」


 誰も、動かない。


 騎士たちも、侍女も、商人も。


 ただ、固まる。


「……」


 アルトレインだけが、動いた。


 一歩、横へ。


 何も言わずに。


「……」


 道が空く。


 流れが、通る。


 それだけで。


 空気が、わずかに戻る。


「……」


 女性は、もうこちらを見ていない。


 視線は、すでに全体へ。


「左、止めないで」


「荷はそのまま流して」


「……」


 何事もなかったかのように。


 調整が続く。


「……」


 だが。


 “何もなかった”わけではない。


「……」


 エルナが、息を呑む。


「……今の」


 言葉が出ない。


「……」


 ミレイユも、何も言えない。


 ただ。


 見ている。


「……」


 カイルだけが、わずかに口元を緩めた。


「……明確ですね」


 小さく呟く。


「……」


「必要なものと、そうでないものの線引きが」


 その言葉は、冷静だった。


 だが。


 核心を突いている。


「……」


 アルトレインは、何も言わない。


 ただ。


 その場に立っている。


 今度は、邪魔にならない位置で。


「……」


 胸の奥に、何かが沈む。


 重い。


 だが。


 拒まない。


「……」


 その時だった。


「……」


 女性の指示が、一瞬だけ遅れる。


 ほんのわずか。


「……!」


 少女が、息を呑む。


 今度は、はっきりわかる。


 流れが、崩れかける。


「……」


 女性は、すぐに修正する。


「そのまま、進めて」


 流れは戻る。


 だが。


「……」


 今のは、偶然じゃない。


「……」


 アルトレインは、静かに口を開く。


「……人を、増やせ」


「……?」


 近くの騎士が、戸惑う。


「……あの列だ」


 指差す。


 水の搬送。


 詰まりかけている。


「……三人、回せ」


「は、はい!」


 騎士が動く。


 すぐに、三人が流れに加わる。


「……」


 詰まりが、消える。


 流れが、滑らかになる。


「……」


 その瞬間。


 女性の視線が、こちらに向いた。


 今度は、はっきりと。


「……」


 一瞬だけ。


 動きが止まる。


 ほんの僅かに。


「……」


 少女は、息を止める。


 今。


 初めて。


「……」


 “噛み合った”。


 そう感じた。


「……」


 女性は、何も言わない。


 だが。


 すぐに視線を戻す。


 そして。


 調整を続ける。


「……」


 アルトレインも、何も言わない。


 ただ。


 少しだけ、位置を変える。


 邪魔にならない場所へ。


 それでも。


 全体が見える場所へ。


「……」


 再び。


 動きが揃う。


「……」


 エルナが、小さく呟く。


「……今の」


「……ああ」


 アルトレインは、短く答える。


「……補完した」


「……」


「足りない部分だけを」


「……」


 エルナの目が、見開かれる。


「……」


 ミレイユが、静かに言う。


「……干渉しすぎない」


 一拍。


「必要なところだけ」


「……」


 カイルが、小さく笑う。


「……面白い」


「……」


「完全な再現ではないが」


 一拍。


「“共存”はできる」


 その言葉に。


 空気が、わずかに変わる。


「……」


 アルトレインは、何も言わない。


 だが。


 確かに。


 理解している。


「……」


 これは。


 命令ではない。


 支配でもない。


「……」


 “届く距離”での介入だ。


「……」


 その時。


 女性の声が、止まる。


 今度は。


 完全に。


「……」


 全体の動きが、止まる。


 ゆっくりと。


 だが、確実に。


「……」


 全員が、視線を向ける。


「……」


 女性が、こちらを見る。


 まっすぐに。


「……」


 そして。


 一歩、近づく。


「……」


 今度は。


 距離が、違う。


「……」


 少女の心臓が、激しく跳ねる。


「……」


 女性が、口を開く。


「……あなた」


 アルトレインを見て。


「……」


「……邪魔では、なくなりました」


 その言葉で。


 空気が、変わる。


 ほんの少しだけ。


 だが。


 確実に。


「……」


 アルトレインは、何も言わない。


 ただ。


 その言葉を、受け止める。


「……」


 だが。


 続く言葉があった。


「……ですが」


 一拍。


「……まだ、足りません」


 その一言が。


 すべてを、次へ進めた。

ついに「関係性」が動き始めました。


拒絶から、条件付きの認識へ。

ここからが、本当の交渉になります。


続きが気になったら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。

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