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第24話 選ばなかった側

 ――“必要だ”。


 その確信は、すでに言葉にしなくても存在していた。


「……」


 アルトレインは、その場から動かなかった。


 命じない。


 割り込まない。


 ただ、見ている。


「……」


 周囲の騎士たちが、戸惑いながら視線を交わす。


「……殿下、我々は」


「……そのままでいい」


 短く制する。


 それだけで、誰も動かなくなる。


「……」


 再び、静けさ。


 だが。


 それは、無力ではない。


 選んだ沈黙だ。


「……」


 視線の先。


 あの女は、相変わらず動き続けている。


「そこ、詰まってる」


「荷は後回し、先に人を通して」


「……」


 無駄がない。


 言葉も、動きも。


「……」


 アルトレインは、わずかに目を細める。


 気づく。


 さっきの揺れ。


 あの一瞬。


「……」


 自分が視線を向けたとき。


 流れが、乱れた。


 ほんの僅かに。


「……」


 つまり。


「……」


 影響を与えている。


 自分が。


「……」


 その時だった。


「……」


 視線が、こちらを向く。


 あの女だ。


「……」


 ほんの一瞬。


 目が合う。


「……」


 そして。


 逸らされる。


「……」


 その動きに。


 何も感情は乗っていない。


 ただ。


 必要がないから、見ない。


 それだけ。


「……」


 アルトレインは、ゆっくりと息を吐く。


 理解する。


 完全に。


「……」


 自分は。


 “今は必要ない側”だ。


「……」


 その事実が。


 胸に落ちる。


 重く。


 だが、逃げずに。


「……」


 その時。


「……殿下」


 エルナの声。


「……何だ」


「……」


 少しだけ迷い。


 それでも言う。


「……すごいです」


「……」


 アルトレインは、何も答えない。


 だが。


 否定もしない。


「……」


「……同じ場所なのに」


 エルナは、周囲を見る。


「さっきとは、全然違う」


 その通りだった。


 同じ人間。


 同じ荷物。


 同じ場所。


 だが。


 まったく違う。


「……」


「……何が違うのか」


 エルナは、ぽつりと呟く。


「……」


 アルトレインは、答える。


「……無駄だ」


「……?」


「無駄がない」


 一拍。


「すべてが、必要な動きだけになっている」


「……」


 エルナの目が、わずかに見開かれる。


「……」


 ミレイユが、小さく息を吐く。


「……最適化、ですか」


「……ああ」


「……」


 その言葉で。


 全員が、同じものを見る。


「……」


 そして。


 気づく。


「……」


 今まで、自分たちがやっていたこと。


 それが。


 どれだけ“無駄”を含んでいたのか。


「……」


 その時だった。


「……そこ、止まらない」


 女性の声。


 短く。


 正確に。


「……」


 一人の男が、立ち止まっていた。


 荷を抱えたまま。


 迷っている。


「……」


 女性は、一歩だけ近づく。


「右に三歩、そこから左」


 それだけ。


「……」


 男は、迷わず動く。


 そして。


 流れに戻る。


「……」


 アルトレインは、その様子を見ていた。


 そして。


 確信する。


「……」


 これは。


 命令ではない。


「……」


 “迷いを消している”。


「……」


 だから、動ける。


 だから、止まらない。


「……」


 その時。


「……殿下」


 ミレイユが、小さく言う。


「……何だ」


「……あの方」


 一拍。


「……戻る理由が、ありません」


 その言葉は。


 静かだった。


 だが。


 決定的だった。


「……」


 アルトレインは、何も言わない。


 だが。


 理解している。


「……」


 ここには。


 無駄がない。


 混乱もない。


 求められている。


 機能している。


「……」


 王宮とは、違う。


「……」


 その時。


 女性の声が、止まる。


 再び。


 今度は、長い。


「……」


 流れが、ほんの少しだけ鈍る。


「……」


 全員が気づく。


 今度は、明確に。


「……」


 女性が、こちらを見る。


 まっすぐに。


「……」


 そして。


 初めて。


 言葉を投げた。


「……そこ」


 アルトレインに向かって。


「……邪魔です」


 その一言で。


 空気が、凍りついた。

ついに「立場の逆転」が起きました。


王宮では絶対だった存在が、ここでは“邪魔”と切り捨てられる。

この感覚が、この作品の核心です。


続きが気になったら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。

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