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lose my mind

初夏めいてきた。天気予報によれば、29度になるとかならないとか。

どおりで虫が多くなったわけで、名前の存じ上げない、羽根のついた虫に頬を蹴られた。

なんかそいつがそれで満足なら、まぁ満足か否かはよくわからないが、それでいいんじゃないかと思ったし、ムカつきもしなかった。もしかしたら、人に頬を打たれても、それ自体にあんまり興味はないというか、関与もしたくないというか、どうでもいいとしか。

痛みは走るのかもしれないが、そういった諦念が痛みを軽減するような気もした。

今日は快晴で、で、だから何なのかと言われても困ってしまうけれど、そう思ってみても、やっぱり空は晴れわたっていた。車種のわからない車が、ちょっとせわしなく通り過ぎる。

私は車に乗れない。維持費も払えないし、反射的注意力も散漫だ。でもその件に関しては、一般人にカテゴライズしていただきたい私としては、あんまりどうでもよくない。

でも、精神病だからしょうがないよね、アハハとも言えまい。車の話題だの、免許の話題だのには、ちょっとした屈辱と狼狽の念を味わせていただく。どうもね。

なんかどうでもいいことばっかだけど、歩いてれば歩いてしまうわけで、進んで進んで駅も鼻の先になる。どこの中学生だかよくわからないが、夏服を身に纏った男子学生が、生気なさそうによたよたと歩を進める。すれ違って、振り向かない。多分、あのひとは私に興味があって、ないのだろう。多分あの子は老婆とすれ違う時、あんな目はしない。どんな目って、ひどく疲れた目。でも、やはり人が二人いれば、違う視線が当てられると、それは必然だと思ってしまう私だった。

どうも駅のロータリーは、鈍行しか停まらなくても、往来が激しい。

なぜかこの駅では、乗車前、お手洗いに行くのが習慣づけられた私は、一歩ごとに尿意が増してくるような、むずがゆさを覚える。

はたしてトイレは照明が街灯のようだった。いつももっと、蛍光灯のような、健全さを醸し出している電球が、急に色気づいたみたいだった。バーの照明を想起させるような、そんな小洒落た電球さんだった。

用を済ませて、鏡の前に佇む。化粧が微妙だ。ファンデもろくにしなかったから、うん十年後にはどうなることやらと思ってみたけど、瞬きしたらなんかそこまで生きてる自信がたちどころになくなった。

まぁ概してそういう人間こそ、やれ還暦だ、喜寿だ、ととんとん拍子に結構行ったりもするとか言われるけど、23の私には、そこまで行けと言われたら、ぶるぶると身震いするしか為す術がないだろう。

人生のボーナスステージと呼ばれる四年間の大学生活が幕を閉じ、味気ない日常に首の皮一枚で繋がっているような、ロープでぶらんぶらんのような。


体が揺れる。電車特有のゆらゆら。車窓から眺める景色も虚ろに白くなり、私はまた狼狽の笑み(なんかよろしくないことらしいが)というか、落胆ともとれる、それでいて焦燥がかったふてきな笑みを漏らした。危うく声を立てて笑いそうになるが、別段おもしろいことがあったわけではないし、電車の中で独り笑っていてはちょっとアレなので、口元をぎゅっと締めてみた。自覚はあった。今の笑みの理由も、体の感覚も。それはまるで体中の水という水が皮膚を浸透しながらかさを増して、この景色がベネチアみたいな水の街になるんだと、意味不明だけど、なんとなくそう感じてしまった。そんな思考を持つ私は、奇抜でありたいと希う反面、マジョリティーに属することを切に願っているように見えると、近しい方に言われていた。

今現在の私の髪は黒く短く、社会から疎外されたような瞳は少しかげり、精神を少し病んでいるのだった。

眼光が鈍い光を放ちながら、車窓から射し込んだり和らいだりする光と、手を取り合っては離してを一つ覚えみたいに繰り返している。

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