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翡翠の焔が世界を焦がす  作者: 借屍還魂
大罪スキル

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32/35

32.スキルの威力

 城壁を離れ、舗装の整った街道を進むうちは、本当に安全だった。


 勇者出立にあわせて、商品を売り込みに来た商人の馬車。働きに出るのか、不安げに周囲を見渡しながら歩く旅人。人通りは多く、魔物が出そうな気配は全くない。


「……思ったより、普通だね」


 良かった、と輝夜が微笑んだ。


「勇者が定期的に見回りしてたなら、魔物の方が様子見してるのかも」

「だといいが」


 手綱を握る御門は、輝夜や京に比べると声音が硬い。今のうちに休もう、と体を横たえた二人に変わり、鏡花は静かに外を見た。


 人の流れが、徐々に減っている。街道から大きく外れているわけではない。しかし、王都から離れれば離れるほど、移動速度の差もあって人の密度は減って行く。


 すれ違う馬車や道行く人も、王都付近に比べ、わかりやすく武装している。


「眞金、二人は」


 暫く、外を眺めていると、御者台の御門が静かに問いかけた。鏡花は周囲を見渡し、近くに人気が無いことを確認して頷いた。


「起こした方が良い?」

「ああ」


 既に、王都の城壁は見えない。行く先にも、振り返った道にも、他の人の気配はない。行く手を阻むほどではないが、まばらに生えた木々は視界を遮り、他者の気配を掻き消している。


「輝夜くん、八月一日くん、そろそろ起きて」

「ん~~」

「思ったより暗い……、結構寝てた?」

「寝過ぎだ。日が暮れた」


 意外と熟睡していたらしい二人に、呆れた御門が溜息を吐く。いつもならば、此処で小言の二つや三つ続くところだが、一際大きく吹いた風の音に止められた。


 全員が、口を噤む。そうすることで、様々な音__木々の揺れる音や、枝が折れる音が聞こえ、背筋に緊張が走る。


「__止めるぞ」


 御門が馬車を完全に止めた。アイベルクから贈られた馬は、取り乱すことなく指示に従い、静かに首を振った。


「……いるね」


 京の言葉に、鏡花たち三人も林に目を向けた。街道沿いに生えている木、その隙間に、複数の影が揺れているのが見えた。


 高さは、人の半分程度。簡素な造りの武器をそれぞれ手に持ち、足並みを揃えてこちらに向かってきている。


「__ゴブリンか」


 だが、足音が多い。普通のゴブリンでは5体単位、上位種のホブゴブリンでも20体単位でしか行動できないと聞いていたが、今、見える範囲にある影は__30程度。


「ゴブリンキングは討伐されて、残党は別の群れって話じゃなかったか?」

「別の、“ゴブリンキングの”群れがいるかも」


 そうだとしたら、かなり厄介だ。しかし、まずはこの局面を乗り切らなくてはならない。顔を見合わせ、京が鋼の剣を、輝夜が万能ナイフを、御門は短杖を、鏡花は槍を構えた。


 正直、京以外は碌に武器を扱えないが、無いよりはマシだろう。此方の迎撃姿勢が整うと同時に、相手も殺気を感じたのだろう。控えめだった足音が隠されず、真っすぐ此方に近付き始めた。


「八月一日!!」

「了解。ちゃんと助けてよ」


 戦いやすい、街道から離れないように。しかし、ゴブリンを自由に立ち回らせないように。相手が木々の隙間を潜り抜けるタイミングを狙って、京が攻撃を仕掛ける。


 グギャ、と人間とは程遠い、しゃがれた悲鳴が聞こえ、次いで地面に湿ったものがぶつかる音と、鼻につく独特の臭いが広がる。


 鏡花は一瞬、眩暈を感じるが、集中しなければ次にああなるのは自分だ。気合を入れて、京の背中を守るように、横から回り込んで来たゴブリンに槍を突き出す。


「う……」


 穂先はゴブリンの胴に突き刺さり、重い、纏わりつくような感触を振り払うように槍を引き抜く。更に後ろでは、御門が輝夜と協力して、二対一でゴブリンを相手取っている。


 ゴブリンは人に比べて小柄な分、力が弱い。一対一なら、何とか相手はできる、ものの。此方は四人に対して、相手は推定30以上だ。


 均衡は、すぐに破られた。


「ちょっと、数が多いかも……」


 真っ先に不利になったのは、最前線を守る京だ。一体ずつであれば余裕を持って相手をできるが、二体に囲まれてしまえば、剣を振る隙を狙われる。


 防戦一方となり、気付けば五体のゴブリンに囲まれてしまっていた。


「動きが、速い……」


 槍を持つ鏡花も、体力がある方ではない。二体、三体と倒した時点で、戦闘による極度の緊張もあり、上手く動けなくなっていた。


 そして、相手のゴブリンが一体から二体に増えた時点で、鏡花は完全に余裕をなくし。


「__ごめん」


 鏡花は京の横をすり抜け、木々の間に立ち塞がるように移動する。そして、自身の周りを囲む球を想像し、【無感動】を発動させた。


 すう、と恐怖や焦りと言った感情と、体の感覚が消えていく。これで自分は動けなくなるが、京たちが立て直す時間は作れたはず。


 以前同様、走って向かってきていたゴブリンは、勢いそのまま弾かれるはず。


「よし、これで隙が__」


 生まれる、と御門と輝夜も、前に出ようとした時だった。


「あれ、でも……」


 ドサリ、と軽い音の後、吹き飛ばされたゴブリンはふらつきながらも起き上がった。


 __スキルの威力が、下がっている。


 鏡花の顔から、血の気が引いた。

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