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翡翠の焔が世界を焦がす  作者: 借屍還魂
大罪スキル
33/67

33.辛勝

 どうして。鏡花は、そう思うものの、既に脱力し始めた体は言うことを聞かない。その場に倒れ込むことは避けたが、立っているのがやっとだった。


 そんな鏡花を見た御門が、鋭く叫ぶ。


「立て直す!! 蓬莱、眞金を下がらせろ!!」

「う、うん」


 指示を受けた輝夜が鏡花を引っ張り、馬車にもたれかからせる。御門は横目で怪我がないことだけ確認してから、京に問う。


「八月一日、無事か!!」

「今ので数は減ったけど……」


 正直、決定力が足りない。それは、誰の目にも明らかだった。このまま消耗していけば、負けるかもしれない。


 そんな真綿で首を絞められているような恐怖を振り払うように、御門は声を張り上げた。


「やられなきゃいい、敵の数も無限じゃない」


 現実感のない景色の中で、鏡花は途切れることなく迫り来るゴブリンの群れを見る。


「まだ結構いるね……」

「蓬莱、数えろ」

「えーと、1、2、3、4……」


 動かなきゃ、いけないのに。任せきりにしてはいけないのに、どうしても、スキルを使った反動で体が動かない。動かせる気がしない。


 戦いなんて、本当ならもっと怖いはずなのに、音も視界もクリアなのに、何故か現実味を感じない。


「15、の、はず!!」


 良くないことだ。そう理解できても、どこか遠く、他人事のように感じる。


「……半分か。俺も外れるぞ」


 じわじわと増える敵の数に、御門が荒く溜息を吐いた。慣れないことをしているせいか、短杖を握る手には血が滲んでいる。


 それでも、御門は手を緩めなかった。


 京の【強欲】も輝夜の【悪食】も、倒した敵の魔力や能力を奪うものだが、ゴブリン一体の強さはそこまでではない。大した強化は期待できない。

 スキルのデメリットを考えると、主力である京を失う方が勝ち目がなくなる。


 そう考えたのだろう。御門は、二人に下がるよう指示を出した。


「俺の視界に収まるように、なるべく下がれ」


 京が、大きく一歩後退する。逆に輝夜は、すぐにトドメをさせるように前に出て。


「今だ!!」


 杖を投げつけると同時に、【傲慢】を発動させた御門の瞳が、金色に光る。御門の視界に入っていたゴブリン達が一斉に動きを止める。


 一拍置いて、ぽん、と軽い音と共に御門の体が縮んだ。御門は軽く舌打ちをして、杖を蹴り飛ばし、服の裾を押さえて後ろに下がる。


 入れ替わるように、京と輝夜が、動きを止めたゴブリン達に飛び込んでいく。


 動いてないならタダの的だ。二人は一体、二体、と確実にトドメを刺していったが。


「こいつ、速い!!」

「抜けられた!! 黛くん!!」


 【傲慢】の範囲外にいたのだろう。木々の奥から飛び出したゴブリンが、京の横をすり抜け、棍棒を振り上げ鏡花と御門に襲い掛かる。


「__クソ!!」


 動けない鏡花を庇おうと、御門が小さな体で一歩前に出た時。御門の体が軽く引かれた。


「【無感動】」


 虚な瞳の鏡花が、静かに言葉を紡ぎ、スキルを発動させた。鏡花を中心として張られた【無感動】の壁は、振り下ろされた棍棒を弾く。


「眞金、助かった」

「……うん」


 しかし、【無感動】の壁は一度の防御で消えてしまった。更に二度のスキル使用で、鏡花の体が糸の切れた人形のように、完全に脱力した。


 御門がなんとか頭を抱えるも、鏡花は今度こそ動けないな、と目だけで戦況を見る。


「__残りは」

「7!!」

「これで、6!!」


 二人に迫っていたゴブリンに、背後から輝夜がトドメを刺して。残りは6体。焦らず、順に倒せば勝てると、光明が見えた矢先に。


「あ」


 長引く戦闘により、とうに限界を迎えていたらしい。京の手から鋼の剣がすっぽ抜けた。その拍子に京がバランスを崩す。


 いくら、人間より知能で劣るとはいえ、明らかな隙を見逃すようなゴブリンではない。


『ギギッ!!』


 と、しゃがれた声で一体が合図をすると、残った6体が一斉に棍棒を掲げる。鏡花は動けず、その頭を抱えている御門も間に合わない。


 輝夜のナイフでは、棍棒を防ぐことも不可能だ。そう誰もが思ったが、輝夜は京とゴブリンの間に立ち塞がった。


 輝夜の肩が、荒れた呼吸で大きく揺れる。それでも、耳に髪を掛けながら、輝夜はなるべく、妖艶に笑った。


 __そうすべきだと、本能的に知っているように。


「__【色欲】」


 輝夜の瞳が、紫に輝く。目があったゴブリン達は、輝夜と同じ紫色の瞳に変わる。だらん、とゴブリン達の腕から、力が抜けた。


 輝夜は幼い子供を褒めるかのように、棍棒を一度下ろしたゴブリン達に微笑み、告げた。


「__俺のために、争って?」


 輝夜の言葉を皮切りに、ゴブリン達は互いに顔を見合わせると、同士討ちを始めた。


 辺りに、鈍い水音が響く。しかし、当の輝夜は指示が守られていることを確認すると、ゴブリン達から視線を外し、京の姿を確認した。


「良かった……、大丈夫?」

「……うん、ありがとう、蓬莱くん」


 最後のゴブリンが、相討ちになって倒る音を背に、輝夜は今度こそ、綺麗な笑みを浮かべた。

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