表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/186

【第5話:目覚める感覚】

夜の森は、静寂と危険に包まれていた。


クロは一人、群れから少し離れた場所に立っていた。

空は曇り、月の光すら差さない。

だが、彼の視界は闇に沈んでいなかった。


(……やっぱり、これは前よりずっと“見えてる”)


木の陰の起伏。枝の揺れ。遠くで虫が這う音さえも、頭の中に“像”として浮かび上がる。

肌に触れる空気の流れすら、方向と強さを感じ取れるほどだ。


(ノスラに噛まれた直後——いや、“倒した”直後。確かに、何かが身体に流れ込んだ感覚があった)


それは、言葉では説明できない確信だった。

あの時のノスラと、今の自分は何かが“繋がって”いた。


——そして、その結果として得られたこの力。


《スキル取得:感覚鋭化(初級)》

※説明:聴覚・嗅覚・視覚補助機能を強化。


文字が脳裏をかすめる。

あの日以来、クロは何度もこの“表示”を目にしていた。


(……やっぱり、これは俺だけのものだ)


ガンジたちは誰も気づいていない。

ノスラを仕留めても、何も起こらなかったように振る舞っていた。

そもそも、スキルという言葉すら知らないようだった。


(この世界には、“そういう理”がある。そして俺は——それに選ばれてる)


クロはしゃがみ込み、地面の小石を拾う。

指先で転がすたび、わずかな質感の違いすら伝わってくる。


(強くなれる……。この力を使えば)


そのとき——


木陰の先で、カサ、と葉の擦れる音がした。


すぐさま気配を感じ取り、体が自然と低く構える。


草をかき分けて現れたのは、小型のノスラ。

先日の個体よりも一回り小さいが、油断すれば簡単に喉元を裂かれる。


(……テストには、ちょうどいい)


クロは、獣と目を合わせた。

風の流れ。足の踏み出す角度。わずかな緊張の変化。


(来る——!)


ノスラが飛びかかる瞬間、クロは真横に跳び、木の幹を使って反転。

間合いを詰め、喉元に拳を叩き込んだ。


ぐしゃ、と鈍い音が響き、獣が動かなくなる。


(……悪くない)


息を整え、冷静に獲物を見下ろす。

そのとき、また脳裏に流れ込む“表示”が走った。


《スキル獲得条件を満たしました》

※重複スキルのため変化はありません。


クロは静かに目を細めた。


(やっぱり、俺は“喰うことで”得ている)


敵の命を奪うたび、彼の中にその一部が取り込まれていく。

それは“スキル”という形で。

——まるで、自分自身が進化していくかのように。


(……だったら)


クロはノスラの死骸から一部を切り取り、腰の袋にしまった。

目を伏せ、深く息を吐く。


(この力を、もっと深く理解しよう。もっと強くならなきゃ)


この世界で生き残るために。

喰われる側から、喰らう側へ。

その境界を、もう一歩、越えてみせる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ