【第478話:魂を巡る術式】
通路をさらに奥へ進むにつれて、壁に刻まれた術式は少しずつ複雑になっていった。
同じように見える術式でも細かな違いがあり、それぞれが別の役割を持っているようだった。
ルーニーは歩みを止めては術式を確認し、そのたびに杖の先から僅かな魔力を流していく。
イエガンもそんなルーニーを急かすことなく、周囲を警戒しながら待っていた。
「……ここも同じだね」
「また封印術式か?」
「ああ。ただ、さっきまでのものとは少し違う」
ルーニーは壁へ近づき、刻まれた文字を目で追っていった。
術式の中央には円形の紋様があり、その周囲を細かな文字が取り囲んでいる。
「この部分だけ、術式の流れが逆になっている」
「逆?」
「他の術式は外側から中央へ力を集めている。でも、これは中央から外側へ力が流れる構造になっているね」
イエガンは眉を寄せた。
それだけ聞いても、その違いが何を意味するのかまでは分からない。
「何かを封じる術式なのに、外へ力を流すのか?」
「それが不思議なんだよ」
ルーニーは中央の紋様へ杖を向けた。
淡い光が術式を照らし、その奥に刻まれた文字が僅かに浮かび上がる。
「……この文字」
「読めるか?」
「古すぎるけど、いくつかは読めるね」
ルーニーは文字を一つずつ確認していった。
しばらくすると、その表情が僅かに変化する。
「『魂』……」
「魂?」
「ああ。そう書かれているように見える」
イエガンも壁へ視線を向けた。
しかし、風化した文字を見ても、それが本当にそう書かれているのかまでは判断できない。
「確かなのか?」
「完全にはね。ただ、他の文字と組み合わせると、その意味になる可能性が高い」
ルーニーはそう言いながら、さらに術式を調べていく。
「こっちは『器』……それから、こっちは……」
そこでルーニーの言葉が止まった。
「どうした?」
「いや……」
ルーニーは僅かに首を傾げた。
「この術式、魂そのものを封じているようには見えないね」
「では何をしている?」
「それが分からないんだよ」
ルーニーは苦笑した。
それでも、その目は真剣なままだった。
「魂に関係しているのは間違いなさそうだけど、封じるだけならこんな構造にはならない」
「何か別の術式と組み合わせているのか?」
「たぶんね」
ルーニーは周囲を見回した。
すると、通路の壁に刻まれた術式が一本の線で繋がっていることに気づく。
「……これだ」
「何かあったか?」
「この術式、全部繋がっている」
ルーニーが杖を向けると、淡い光が壁を走っていく。
これまで確認してきた術式が一つずつ光り、その先へと繋がっていった。
「一つ一つは別の術式に見えるけど、全部で一つの大きな術式になっているみたいだね」
「つまり、この洞窟全体が一つの術式ということか?」
「そこまでは分からない。でも、少なくとも無関係に配置されているわけじゃない」
二人はしばらく光の流れを追った。
その光は通路の奥へ進み、やがて一つの扉の前で止まった。
「……ここか」
イエガンが扉の前へ立つ。
そこには大きな円形の術式が刻まれていた。
そして、その中央にはこれまで見てきたものよりもはっきりと、クロナの紋章に似た形が刻まれている。
「これは……」
イエガンが言葉を失う。
ルーニーも黙ったまま扉を見つめていた。
「かなり似ているね」
「ああ」
「でも、やっぱり同じものじゃない」
ルーニーは扉へ近づき、術式の周囲を確認する。
「この術式が何なのかは、まだ分からない」
「開けられるか?」
「試してみるよ」
ルーニーが杖を構えると、扉に刻まれた術式が僅かに光った。
しかし、すぐに光は消えてしまう。
「……駄目だね」
「反応はしたぞ」
「鍵が一つじゃないみたいだ」
ルーニーは扉の周囲を調べながら答えた。
「いくつかの術式が連動している。たぶん、別の場所にある術式も動かさないと開かないね」
「ならば、まずは周囲を調べるか」
「そうしよう」
イエガンは頷いた。
まだ、この扉の先に何があるのかは分からない。
クロナの紋章に似た術式が何を意味しているのかも分からない。
それでも、ここまで調べてきたことで一つだけ新しい手掛かりが生まれていた。
この古代遺跡に残された術式は、どうやら**魂に関係する何か**を封じるために作られている。
そして、その術式の一部がクロナの紋章と似ている。
二人はその事実を胸に刻みながら、扉を開くための手掛かりを探して、さらに周囲の調査を続けていった。




