表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最弱から始めるゴブリン成り上がり譚 〜進化する俺はもう雑魚とは呼ばせない〜  作者: AI+


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

373/376

【第372話:残された構造】

砕けた仮面の破片が、ゆっくりと地面に落ちていった。

乾いた音が連なり、戦場の終わりを静かに告げる。


仮面の男は膝をついたまま動かない。

その姿勢は崩れているが、完全には倒れていなかった。


ティナは一歩だけ距離を取る。

視線を外さず、呼吸を整える。


周囲では黒装束たちの動きが止まっていた。

統率を失い、判断を失ったように立ち尽くしている。


人間側の兵が慎重に包囲を狭める。

だが無闇に踏み込む者はいない。


戦いは終わった。

だが終わり切ってはいなかった。


「……まだ終わっていないように見えるな。完全に落ちたわけではなさそうだ」


指揮官の男が低く言う。

距離を保ったまま状況を見極めていた。


ティナは小さく頷く。

同じ認識だった。


「……はい。動けないだけで、意識は残っているはずです」


静かに答える。

目の前の存在を観察する。


仮面の男の肩が、わずかに上下した。

かすかな呼吸が戻り始めている。


先ほどまでの無機質さは薄れていた。

どこか疲労のような重さが混じる。


ティナは一歩だけ踏み出す。

警戒を解かずに距離を詰める。


砕けた仮面の奥にある顔を見据える。

整いすぎた輪郭が、かえって不自然に映った。


だがその目は、わずかに揺れている。

完全に感情を捨てた存在ではなかった。


ゆっくりと視線が上がる。

ティナを捉える。


「……やるな。正面から崩されるとは思っていなかった」


低い声が漏れる。

先ほどよりも人間らしい響きだった。


ティナはその言葉を受け止める。

表情は変えないまま問いを投げる。


「……なぜ村人をさらっていたのですか」


短く、核心だけを聞く。

余計な前置きはない。


男はわずかに目を伏せた。

ほんの一瞬だけ、言葉を探す間があった。


やがて小さく息を吐く。


「……試していた。あの森の外でも、生きていられるかどうかをな。環境を変えると、人間は簡単に壊れる」


淡々とした声だった。

だが完全に割り切れてはいない響きがあった。


ティナはわずかに眉を寄せる。

言葉の意味を掴みにいく。


「……環境、とは何を指していますか」


短く問う。

視線は外さない。


男はかすかに口元を歪める。

それは自嘲にも似ていた。


「詳しくは言えない。ただ、あそこは普通の人間が長くいられる場所じゃない。それでも耐えられる個体が、一定数いる」


言葉は選ばれていた。

だが核心は隠しきれていない。


ティナは沈黙する。

必要な要素だけを拾い上げる。


男は視線を横に流す。

遠くの森の奥を見るように。


「……連れていったのは、その“適応できるかもしれない”連中だ。結果は半々といったところだな。耐えた者だけを奥に残している」


静かに続ける。

どこか疲れた声音だった。


ティナの目がわずかに細まる。

情報が繋がっていく。


ただの拉致ではない。

明確な実験だった。


人間側の指揮官が一歩前に出る。

状況を引き取る位置に立つ。


「その奥というのは拠点だな。場所は分かるか。案内しろ」


落ち着いた調子で問う。


男はゆっくりと首を振る。

体力は限界に近い。


「……この身体では案内は無理だ。だが道は単純だ。この先を真っ直ぐ進めば、嫌でも分かる。隠す気もない」


息を切らしながら答える。

それが最後の情報だった。


視線が落ちる。

身体から力が抜けていく。


そのまま崩れ落ちた。

今度こそ完全に動かない。


周囲の黒装束たちも同時に膝をつく。

統率が完全に途切れた証だった。


人間側の兵が一斉に動く。

迅速に拘束へと移行する。


指揮官の男がティナの横に並ぶ。

距離は一定に保たれていた。


「これで片は付いたな。だが終わりじゃない。奥にいる連中を助けに行く必要がある」


静かに言う。

次の行動を示す言葉だった。


ティナは小さく頷く。

視線を森の奥へ向ける。


「……はい。実験場がある以上、放置はできません。急ぎましょう」


短く答える。

迷いはなかった。


森の奥は再び静まり返る。

だがその先には、まだ解決すべきものが残っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ