77 到着
大変大変お待たせ致しました。
クラウスのテイムしているダークウルフのシュバルツが怪我をした時、仲間が低級ポーションを差し出してくれ傷は塞がったが、思ったより深い傷だったようでまだシュバルツはびっこを引いている。
医者に見て貰ったが傷が塞がっているので、もうどうしようもないと言われたのだった。
学生時代に同じ伯爵家の三男同士で気が合ったエルンストン・フォン・ダールベルクはA級冒険者になっていた。
そのエルンストから、『王都から三日程行った所にある迷いの森の宿へシュバルツを連れて行って見ると良い』と聞いた。
何でも彼も古傷が時々痛んでいたが、あの宿に何回か泊まっているうちに痛みが無くなったんだとか。
若しかしたらあの宿のお陰というのは勘違いかもしれないが、食事が美味いので休みが取れるなら行ってみる価値はあるぞと話してくれた。
そこは女性が経営している宿だが、魔導士のバッツドルフ氏も気に入って宿の近くに家を建てて住んでいるという話だ。
何とも雲を掴むような話だが、あの偉大な魔導士様が移り住む所ならば何かあるのかもしれないと思えた。
捜査の時、シュバルツという相棒の活躍で人を攫って売買していた白髭のゲアトを捕まえる事が出来たのだ。その功績を理由に休みを勝ち取ってきた。シュバルツをしっかり休ませてあげたいし、エルンストの古傷のように治る事を願った。
団長には『シュバルツは団員の仲間なんだからしっかり治して来いよ』と暖かい言葉をかけて貰った。
ごついのに似合わずそういう繊細な心遣いをしてくれる人だ、だから皆がきつい仕事にも文句も言わずについて行ってるのだ。
宿は豪華ではないが清潔感があり、窓から外の海がガラス越しに鮮明に見える。何処の国のガラスなんだ?
いや、王都から3日の距離で何故海が見えるのだ・・・
成る程、迷いの森の宿か、ならばこういう事もあるのだろうと自分を無理やり納得させる。
水が出る蛇口も見た事のない形をしている。しかも割と広いお風呂付き。これなら体の大きなシュバルツも湯船に浸かれる。温泉では無いことが少し悔やまれるが湯に浸かると体が癒されると聞いた事がある。それはまあ、少しの疲れが取れる程の効果なのだろうが、シュバルツは湯を嫌わない、むしろ好んでいるようだ。
宿の女性に許可を貰って宿泊している間毎日湯に浸けてやった。前足と頭を浴槽の淵に乗せて何とも幸せそうなシュバルツを見ると連れて来たかいがあったというものだ。
毎日宿の主人と子供達に撫でられて子狼のモーントとゴルドも上機嫌だ。
宿の主人は犬だと思っているみたいでこんな大きな犬もいるんですねーと勘違いして撫でてくれていたが、敢えて否定はしなかった。
ダークウルフなんて聞くと普通の人は怖くて近づきもしないからな。こうやって撫でてくれる人は珍しいのだ。喜んでいる様子のダークウルフ達の為に私もニコニコと口を噤んでおいた。
二週間という長い休みを美味しい食事を摂りながら過ごしていたがあっという間に休みが終わってしまった。
エルンストの言ったとおりシュバルツはいつの間にか普通に歩けるようになっていた。何なのだろう、お風呂が良かったのか?自分の疲れも取れて身体がいつもより軽く感じられる。食事が良かったのだろうか?何とも不思議な体験をした。
何かエルンストに土産を買って帰りたいが、この宿に土産は売ってるだろうか?
ブラウンの髪と目の綺麗な異国の宿の主人に聞いてみるとまだ熟成中で甘めだがサクランボワインとサクランボの瓶詰めのコンフィがあるというのでそれらを2本ずつ購入した。
まだ正規には販売していないそうで、かなり安く売ってくれた。ワインは大きな瓶だった。
来年の今頃には熟成したサクランボワインが飲めるそうなのでまた来ようと思う。シュバルツたちもきっと喜ぶだろう。それに女性一人で二人の子供を育てている彼女の助けに少しでもなればいいなと思った。
* * *
攫われた人達の移住の話を聞いてすぐに、どの場所に住まわせようかとヴィルさんと見て周り、家の設置場所に良さそうな所を島の北の場所に決めた。
ヴィルさんは早速その場所を整地して五軒の家をマジックバックから取り出して設置した。こちらの村は家畜を飼って欲しいので、家と家の間を距離を取っている。村と同じように畑もあり、普段自分達の食べる分の野菜を植える事が出来るようにした。
村の人達にも攫われた人達が助けられてこの島に来る事を知らせたらローレンツとマルセルが二人で男泣きして喜んだ。
攫われた人達は皆、ローレンツとマルセルが住んでいた浜の人達だったので近所の仲間が助けられた事で胸がいっぱいの様子だ。
そして初めに来ていた人の村の側にも新たに家が八軒設置された。
これから移住してくる島人達が漁師の仕事をしたいと思ったら、船を停泊する場所が北に設置した場所からは遠くなるからだ。
牛乳が欲しいので牛を飼ってもらったり、卵が取れるように鶏を飼ってくれる人を募るつもりだから、何処に住むかは仕事内容によって決まるだろう。
余った家は人が住まないと傷むので後でヴィルさんが回収するそうだ。もしかしたら今住んでいる村の人も家畜を飼いたいと言う人がいるかも知れない、その時は相談に乗ろうと思っている。
出して貰った家は古い日本家屋だがクリーン魔法がかけてあるので綺麗だった。
それから一週間程経った頃、攫われた人達が森の入り口付近まで馬車で送られ、そこからは歩いてこの島へとやって来た。
彼らが到着した時にはまだ道の拡張工事が終わっていなかった。
島で攫われたのは二十人と多人数だが、家族で攫われた人達だった。五つの家族と三人。この三人のうち二人はそれぞれの祖父や祖母をあの人攫い達に殺されて天涯孤独となっていた。
それから彼等以外に六人、あの船に他国で攫われたが、元いた場所に帰っても身寄りのない者や、奴等に乱暴されてとても家族の元に帰れないという女性たちが、行く場所がないと言うので、ヴィルさんと話し合ってこの島に迎え入れた。
この話はヴィルさんがとても話しにくそうに私に伝えてくれたが、彼女達の境遇を慮って伝えてくれている事は充分に私は理解出来たので、言いにくい話もちゃんと伝えてくれた事に感謝した。
彼女達がこの島に住んで少しでも癒される事をヴィルさんと二人で願った。
人を攫う者達は攫われた人達をどう扱っても良いと何故考えるのだろう。
あの船には五十八人も攫われた人達がいたそうだ。女性に乱暴までして人間の尊厳まで刈り取るような者達に重い罰が下されるようにと強く願い、ヴィルさんにもそう話した。(もげてしまえ!)
そして中には三歳の男の子で自分が何処で攫われたか分からないと言う子もいたという。
その子は、島の皆と仲良くなった女性に懐いて離れないので、この島に行く事を希望したその女性と一緒にやって来た。
五つの家族と三人の家で八軒、そして三歳の子は一人では住めないので後五軒、合わせて十三軒の家が必要だった。
設置した家は十四軒だから大丈夫。
皆が到着したのはもう夕刻、その日はロッジに泊まってもらい、夕食にカレーを出した。
お風呂にも入ってもらって、これからこの島で出来る事を説明した。牛や鶏、豚などの飼育。飼育に必要な餌の芋とトウモロコシや麦の栽培。魚の漁師をしながら畑をやって、時々葡萄畑の剪定や収穫を手伝う仕事などだ。
もし、ほかの仕事が出来そうならば私に伝えて欲しい。例えば裁縫や大工仕事など何でもいいわと話した。
取り敢えず二、三日ゆっくり休んで、住むことになる家や村、この島を見学しながら決断してねと伝えて皆に休んでもらった。
お読みいただきありがとうございます。




