05 Amour sans espoir
王国暦六〇二年 ヴェルソ三十日
アリス礼拝堂。
今日はチャリティーイベントは行わずに、医療ボランティアのみを行う為に来た。
前と違って、広場に並ぶ店は少ないし、人出も落ち着いてる。
これが普段の様子なんだろう。
以前と同じホール横の部屋を借りて準備をしていると、早速、前に薬を渡した人が顔を出しに来た。
「こんにちは」
「こんにちは。……まだ、症状が続いてる?」
この患者は、重篤な症状じゃなかったと思うけど。
相手が笑う。
「覚えててくれたんですね。もう平気。今日は、お礼に来たんです」
「お礼?」
「どうぞ」
バスケットいっぱいの焼菓子だ。
「貴族の方のお口に合うかわからないですが、皆さんで召し上がって下さい」
俺は貴族じゃないんだけど。
どうしよう。
「先生!」
先生を呼ぶと、先生がこっちに来た。
「どうした?」
「お礼だって」
「お礼?……わざわざ、ありがとうございます」
「いいえ。学生さんなのに、もう立派なお医者さんですね」
「勉強中の身とはいえ、優秀な子たちですよ」
……話し相手は任せよう。
バスケットを持って、皆の方に行く。
「皆、お菓子だって」
「おー。サブレだ」
「フィナンシェもある」
「良い匂い」
「誰から貰ったんだ?」
「今、先生と話してる人」
「ちゃんと、お礼言ったか?」
言ってないかも。
先生と話してる人の方に振り返る。
「ありがとうございます!」
皆でお礼を言うと、気付いた相手がこちらに手を振る。
「頑張ってね!」
そして、先生に頭を下げて帰って行った。
お菓子を渡しに来ただけだったらしい。
その後も、お礼をくれる人がたくさん訪ねて来てくれた。
症状の残っている患者も、もう薬は必要ないぐらいに回復してる。
良かった。
風邪の流行は収まったと言えるだろう。
「あの」
声をかけられて、振り返る。
「これ、どうぞ」
花束を受け取る。
……見覚えのない患者だ。
「この前の演奏を聞いてファンになりました。今日は演奏されないんですか?」
患者じゃなかった。
「今日はバイオリンを持ってきてない」
「え?バイオリニストなのに?」
「違う。ここには学生医療ボランティアで来てるんだ」
今日は、人を集める必要はないから、演奏はしない。
「ヴュータン・ソーレのようでした」
「え?」
先生のよう?
「スケルツォ・タランテラ。一音目から別の世界に叩き落されるような感覚……。あんな演奏を聞けるなんて。本当に素晴らしかった。感動しました」
先生のツィガーヌを初めて聴いた時のあの感動……。
伝わったんだ。
俺が目指してる音楽を、感動を、感じてくれた人が居た。
「お名前を聞いても良いですか?」
「エルロック」
「エルロックさん。お医者さんの勉強をされてるんですね。でも、バイオリンも続けて下さい。いつかまた聞けるのを楽しみにしてます。……失礼しました」
帰っていく相手を見送りながら、貰った花を頬に寄せる。
……嬉しい。
また、演奏しよう。
誰かに聞いてもらう為に。
「良かったな」
「カミーユ」
「可愛い子じゃないか。惚れたか?」
「……?」
意味がわからない。
「そんな簡単に人を好きになるわけないだろ」
「だって、ラナンキュラスとブーゲンビリアだぞ?」
「この花の名前?」
名前だけは聞いたことがある。
「花言葉は、どっちも魅力的。熱烈なアプローチじゃないか」
「バイオリンのことだよ」
先生のファンなんだろうな。
俺が目指してる世界は先生が見せてくれた世界だから。
先生みたいに音楽が魅せる世界に、俺も誰かを連れて行けたんだ。
「一段落したし、休憩するか」
「ん」
前よりも来る人は少ないし、早めに切り上げて良いかもしれない。
「さっき貰った菓子もあるし、コーヒーを淹れてこようぜ」
「給湯室って、どこ?」
「給湯室なんかあるのか?台所はあるだろうけど」
「台所の場所は?」
「どっかにあるだろ」
適当だな。
「先生!コーヒー淹れてくるから、花、預かっておいて」
「あぁ。良いぞ」
先生に花を渡して、カミーユと一緒に廊下に出る。
長い廊下だ。ホールの外周は全部、廊下になってるんだろう。
いや。この廊下、ホールよりも長くないか?
「礼拝堂って、どれぐらいの広さがあるんだ?」
礼拝堂の入口から見えるのは天井の高い祈りのホールだけ。でも、脇にある扉を出ると、ホールの外周を巡るような廊下沿いにたくさんの部屋が付いているのがわかる。なんなら、ホールの裏手に別の棟が続いてそうだ。
「礼拝堂は市民生活の拠点だからな。色んな設備が集まってるんだ」
「どんな?」
「例えば、俺らが使ってるような活動室。会議や集会なんかに使われる部屋で、複数ある。後は、台所、音楽室、図書室、託児施設……」
色々あるらしい。
「奥は?」
「宿舎だよ。礼拝堂には、一人暮らしが難しい老人や障害者、孤児、貧困者の居住施設がくっついてることが多いんだ」
社会的弱者を受け入れている場所らしい。
「まぁ、礼拝堂によって設備は違うけど。困ったら頼れる場所で、小さい子供が読み書き歴史を教わる場所でもある」
「教師も居るのか」
「養成所みたいな教師じゃないぞ。礼拝堂を運営してる事務局とか、裏に住んでる年寄りとか、地域のボランティアが子供の面倒を見てくれるんだ」
「それが、託児施設?」
「託児施設っていうか……。礼拝堂は場所を無償で提供してるだけで、子供を預かる契約はしない。ちゃんと預ける場合はナニーやシッターと一緒だ」
「ナニー?……乳母のこと?」
「違う。乳母は赤ん坊に乳をやるだけだろ?」
「俺が知ってるのと違う」
「ラングリオンと違ったのか?……ナニーってのは保育係だ。親代わりとなって、子供の世話をする。シッターは見守り係。一緒に遊ぶだけの仕事で複数の子供を同時に預かることもある。お前のところはどうだったんだ?」
「赤ん坊の時からずっと俺の世話をし続けてたのは乳母って呼ばれてた。他は知らない」
俺の父親の世話もしてたベテランで、ずっと家に居るから家族のようなものだった。
「ラングリオンでは、貴族が赤ん坊に乳をやる目的で雇うのが乳母だ。それ以外の世話はナニーが担当する」
「じゃあ、ナニーに近いかも」
「やってたのは、お前の世話だけ?勉強も乳母が教えてくれてたのか?」
「乳母がやってたのは躾と生活の面倒だけ」
俺に読み書きや生きることに必要なことや、短剣の扱いを教えてくれてたのは……。
「俺のナニーは読み書きまで担当してたぜ。後は、礼拝堂に住んでる爺さんからラングリオンの歴史とか釣りを教わってたな」
「貴族なのに?」
貴族なら家庭教師が付いてそうだけど。
「うちは王都の連中ほど厳しい教育環境じゃなかったからな。それに、田舎の身分なんて、あってないようなもんだ。小さい頃から街に出て兄弟で走り回ってたし、同年代の友達と悪さしては周りの大人たちに叱られてたぜ」
普通の子供と変わらない生活をしてたらしい。
「まぁ、おかげで養成所に入る為の勉強は苦労したけど」
「そういえば、兄弟は養成所に入らないのか?」
「魔法使いの素質を持ってたのは俺だけだったからな」
「素質がなくても養成所には入れるんだろ?」
入学試験に合格すれば良いだけだ。
「あのなぁ。騎士を目指すなら、わざわざ養成所になんか入らないぞ。騎士の修行が遠ざかる。身に付けなきゃいけない技術だって山程あるんだ。……弟は剣のセンスがあるから、追い抜かれそうになってるってのに」
そういえば……。
―カミーユは騎士になるのよ。
―錬金術なんて勉強するわけないじゃない。
昔、誰かが言ってたな。
「カミーユって、魔法科を目指す予定だったのか?」
「そうだよ。俺は元々、魔法剣士になることを期待されて入学したんだ。でも、錬金術をやるって決めた」
あぁ。
そうか。
―カミーユも錬金術を選んだんだね。
俺が中等部の進路を選んだ時に、アレクがわざわざ言ってた意味がわかった。
「馬鹿だな」
「なんだって?」
アレクはカミーユを近衛騎士にしたかったんだ。
カミーユとシャルロを花見に誘ってたぐらいだし、二人を気に入ってたのは間違いない。
でも、アレクはカミーユに錬金術師にもなってもらいたかったんだろう。カミーユが中心になる薬学研究会の設立まで見越していたのかもしれない。
「卒業までは手伝うから、やりたいこと全部言って」
「……は?」
「俺は錬金術研究所には行かないから、先の手伝いは出来ない。でも、研究会がやるべき課題はいくつか見つけてる」
「待て待て。……お前、本当に来ないつもりか?」
「行かない。他のことはまだ何も決めてないけど、それだけは決めてる」
「まじかよ」
薬学はカミーユに任せる。
「エル、カミーユ」
「シャルロ」
シャルロがこっちに来る。
「台所に行くんじゃなかったのか」
「そのつもり」
「どこにあるか知らないんだ」
「こっちじゃない。向こう側だぞ」
「向こうか」
ホールを挟んだ向こう側。
つまり、借りてる部屋から一度、ホールに戻ってから、反対側の廊下に出るのが正解だったんだろう。
「こっちの廊下からも行ける。ついて来い」
ホールの外周を歩いて行っても着くらしい。
「シャルロ。後で、手伝って欲しいことがあるんだ」
「なんだ」
「薬学研究会が研究を行う上での倫理規定の策定」
「倫理規定?研究は、元々、現行の法に則ったやり方しか許可されていないだろう」
「それだけじゃ足りないし具体性に欠ける。禁書の間に、アルファド帝国時代の錬金術の歴史について書かれた本があったんだ」
「……読んだのか」
頷く。
「シャルロは読んだことある?」
「いや。概要を知っているぐらいだ。俺が読んだ帝国時代の法律書でも、錬金術師は特別な地位にあった。高位の錬金術師は、あらゆる実験を行える特権を持っていたとされている。……閲覧制限がかかる内容もあったんだろう」
「そんなにやばい内容なのか?」
頷く。
読んでいて気分の良いものじゃない。
それでも、知らないままでは進めない。
「読んだ内容をまとめるから、養成所に戻ったら……」
「お前、今日は真っ直ぐ家に帰るって言ってなかったか?」
そうだった。
「休み明けにまとめとく」
「わかった」
フラーダリーが、手紙で魔法部隊のことを教えてくれたから。お祝いしに帰るって伝えてある。
「この近くに花屋ってある?」
「花屋なんてどこにでもある。サウスストリート沿いにもあったはずだ」
「広場にも花屋が出てなかったか?」
あったっけ?
エンドって、薬屋はなくても花屋はあるんだな。
帰りに寄っていこう。
※
夕方。
礼拝堂前の広場で花を買う。
「白百合はある?」
「あるよ。葬式か?」
「違う」
葬式なんて。
「白百合って、葬式に使われる花なのか?」
「何にでも使われるぜ。でも、こんな時間に結婚式なんかないだろ」
「結婚式じゃない」
「じゃあ、なんだ?」
魔法部隊が正規軍になることは、まだ公表されていない秘密だ。
なんて言うかな……。
「祝い事なら、白百合は一輪じゃ駄目だぞ。ちゃんと花束にしないと」
「なんで?」
「一輪の白百合は死者に捧ぐ花だからだ」
……気を付けよう。
ラングリオンは、花の贈り方にも意味があるらしい。
「告白か?」
「違う」
「目的によって合わせる花は変わるんだ。誕生日か?記念日?昇進祝い?」
それだ。
「昇進祝い」
「おぉ。なら、少し値は張るが、カサブランカも入れておくか?」
大きな白百合だ。
「種類が違うやつ?」
「一般的なのはマドンナリリーだからな。こいつはカサブランカって言って、豪華な百合なんだ」
可憐な白百合と豪華な白百合。
どっちもフラーダリーに似合いそう。
「じゃあ、それを中心に花束を作って。銀貨一枚……。二枚までなら出せる」
「おいおい、どんだけでかい花束にするつもりだよ。昇進祝いぐらいでそんな花束を持ってこられたら引くぞ。銀貨半分ぐらいにしとけって」
「わかった」
銀貨半分ってことは銅貨十枚だ。
いまいち、ラングリオンの金銭感覚はわからない。
花屋が花を選ぶ。
「それは?」
「グリーンレースフラワー。これに、黄色いチューリップを……。本当に、告白とか恋人に渡すんじゃないよな?」
「なんで?」
「黄色いチューリップの花言葉は名声だ。昇進祝いには良いが、他の花言葉が恋愛向きじゃないからな」
「他って?」
「お前なぁ。もう少し花言葉に詳しくなっておけ。告白する時に困るぞ」
「告白の予定なんてない。でも、花言葉は覚えるから教えて」
「黄色いチューリップの花言葉は……」
あぁ。
ぴったりだ。
※
その後は、皆で中央広場まで戻って解散。外出届けも提出済みだから、花束を持って真っ直ぐ家に帰る。
久しぶりだ。
相変わらず鍵がかかってない。
無用心だな。
扉を開く。
「ただいま」
あれ?
薄暗いし、夕飯を作ってる様子もない。
「フラーダリー?」
『二階だな』
鍵を開けっ放しで二階に行くなんて。
すぐに、階段を駆け下りる音と共にフラーダリーが顔を出した。
「エル!おかえりなさい」
「ただいま、フラーダリー」
フラーダリーの方へ行って、花束を渡す。
「魔法部隊の正規軍昇格、おめでとう。フラーダリーが頑張って来たことが認められて、俺も嬉しいよ」
「ありがとう」
フラーダリーが柔らかく微笑んで、花の香りを嗅ぐ。
カサブランカとマドンナリリー、グリーンレースフラワー。そして、黄色いチューリップ。
「君が祝ってくれて本当に嬉しいよ。エル、元気だったかい」
また、それか。
「見ての通りだよ」
フラーダリーが笑う。
「制服姿も久しぶりだね」
確かに。
家に帰る時は私服だから。
……いや、違う。
「この前、護衛任務に就いてたんだろ?」
「気付いていたの?」
「ガラハドが言ってた。どこに居たんだ?」
「見えるところには居なかったよ」
ガラハドもそう言ってたっけ。
「どこか聞いても良い?」
「単眼鏡の距離かな」
「そんな遠くから?」
「本当は、もう少し近くで護衛したかったのだけど……」
「理由は?」
少し悩む仕草をした後、フラーダリーがこちらを見る。
「理由は二つあるよ」
教えてくれるらしい。
「一つは、その条件でも護衛任務を果たせると考えたから。私たちは、視認できる範囲なら魔法の行使が可能だ。馬車が襲われかけた瞬間に防御魔法を放って時間を稼ぎつつ、距離を詰めて護衛対象を保護する余裕は充分にあると判断した」
……本当に?
「単眼鏡が必要な程、離れた地点から魔法を使えば目測を誤る可能性がある」
魔法を使うということは、言葉で言うほど簡単じゃない。
下手をすれば護衛対象を巻き込みかねないのに。
「良い見立てだね。でも、魔法部隊はこういったことを想定した訓練を重ねてるから可能だよ」
自信があるらしい。
かなり実践的な訓練を積んでるのか。
「もう一つの理由は?」
「わかるかい」
問題にされた。
理由……。
近づけなかった理由。
「魔法部隊の護衛があるって、敵にバレたら困るから?」
「惜しいね」
違った。
なんだろう。
そこまで離れてたら守備隊との連携だって取りにくいのに。
……むしろ、それが目的?
「魔法部隊が手柄を取ることに反対してる勢力からの嫌がらせ?」
フラーダリーが唸る。
「君は聡いね。それは、裏の理由だ」
「裏の理由?」
「そう。表向きの理由は、乱戦時に貴族の護衛騎士の邪魔をしない為だよ」
護衛騎士か。
俺以外は皆、貴族なんだし、皆の護衛が派遣されていてもおかしくない。
「乱戦が始まると、守備隊の制服を身に付けていない彼らに魔法攻撃をしてしまう可能性があるからね。戦いは守備隊と騎士に任せ、護衛対象に危険が及ぼない限り手を出さないよう言われていたんだ。もちろん、居場所がバレては護衛にならないから、隠密行動に徹していたのは間違いないよ」
隠密行動は、わざわざ問題にするまでもない当然の理由だったらしい。
フラーダリーが問題として出した理由は貴族との兼ね合いの必要性。護衛騎士の顔を立てる為にも、魔法部隊は邪魔だったのか。
「ガラハドの指示?」
「違うよ。貴族が関わる案件は一番隊の指揮なんだ」
活動先はイーストだったのに。
表向きは三番隊に任せて、裏では一番隊がまとめてたのか。
「ガラハドは元傭兵だけあって、魔法使いにも詳しいし理解もあるよ。彼が指揮をしていたら、もう少し近くで護衛出来ていたかもね」
一番隊は魔法部隊に反対してる?
……そうだよな。
―騎士が率いているわけでもないのに一軍として扱われることに反対する者も居れば、魔法研究所があれば軍に魔法使いなんて不要だという人も居るね。
魔法部隊に反対してるのは貴族だ。
「怖い思いをさせてごめんね。でも、君たちには指一本触れさせるつもりはなかったよ」
「心配しなくても、誰も怖がってなんかいなかった。むしろ、俺が闇の魔法を使って大丈夫だった?」
「問題ないよ。ガラハドが、学生が魔法を使って追い払ったと報告していたからね」
「護衛騎士は巻き込んでなかった?」
俺は、守備隊の制服を着ていない奴を全員狙った。
「大丈夫。乱戦に騎士が加わる前だったから」
良かった。
フラーダリーが俺の頭を撫でる。
「君は本当に素晴らしいね。私の言葉から当時の状況を正しく分析し、周囲への気配りも忘れない。養成所でも一から百を学ぶごとく聡明な意見をいくつも出して勉強に励んでいるんだろう」
……はじまった。
フラーダリーは、すぐに俺を褒めたがる。
早めに止めよう。
「夕飯は?」
「そうだ。美味しいお店を予約してあるんだよ。君も、着替えてくるかい」
頷く。
……あ。
「フラーダリー。ちょっと良い?」
「うん?」
フラーダリーの首に手を伸ばして、曲がって結ばれていたスカーフを結び直す。
仕事から帰った後、急いで出かける支度をしてたんだろう。俺が早くに帰ったから焦ってたのかもしれない。
白百合が刺繍されたスカーフ。
懐かしい。
昔、ウエストの店で皆で選んだものだ。ユリアから色んな結び方を教わったっけ。
前は、フラーダリーがしゃがんでくれないと届かなかったのに。
今は、届く。
「ありがとう」
フラーダリーが微笑んで。
そして、俺の頬にキスをした。
……え?
「花を花瓶に入れてくるね」
そう言って、鼻歌を歌いながら台所に行った。
……不意打ち過ぎる。
部屋に響くフラーダリーの歌を聞きながら階段まで歩き、壁に手を添えながら階段を上がる。
『大丈夫か?』
くらくらする。
平静を装うって決めてるのに。
気持ちに気づかれないようにしようって決めてるのに。
こんなの……。
あぁ。
こんなの、フラーダリーにとっては何でもないんだ。
フラーダリーは出会った頃から何も変らない。
いくら俺の背が伸びようと年を重ねようと関係ない。
フラーダリーの目に映る俺は、いつまで経っても子供。
こんなに変わったのに。
何も変えられない。
黄色いチューリップの花言葉のように。
望みのない恋。
01-1 Créer un groupe d'étude pharmaceutique
「薬学研究会発足」
01-2 Peinture lumineuse
「蓄光塗料」
02 Un pas en avant
「一歩踏み出す」
03-1 Bibliothèque royale
「王立図書館」
03-2 Fatalité
「運命」
04-1 Évènement de charité
「チャリティーイベント」
04-2 Orphelinat
「孤児院」
04-3 Rue de la Faim de loup
「狼の腹通り」
05 Amour sans espoir
「望みのない恋」




