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夕焼けの散花  作者: 智枝 理子
Ⅳ.桜と精霊
35/100

05-3 Demi-esprit

『ここが光の柱だ』

 明るい。

 輝く柱が洞窟に光を放っている。

 天井の穴から降り注ぐ光が集まってるらしい。でも、ただ差し込んでるだけなら、ここまで強い光にはならないだろう。

 不思議だな。

 それに、心地好い。

 精霊の気配を感じる。

「ありがとう、メラニー」

『契約に従ったまでだ』

 そう言って、メラニーが姿を消す。

「精霊に案内してもらうなんて、ずるしたことにならないかしら」

「目的は、ここに来ることだ。方法なんて指定されてない」

「そうだけど……」

「早くして」

 亜精霊だって、いつ現れるか分からない。

「わかったわ」

 マリーが光の柱の方へ行く。

「私の名前は、マリアンヌ・ド・オルロワール。光の精霊と契約しに来ました。どうか、私の力になってくれませんか」

『待ってたよ、マリアンヌ』

 光の精霊が顕現する。

 聞こえていた声の一つだ。

 ずっと、俺たちを見守ってくれてたんだろう。

「あなたの名前は?」

『私はナインシェ。さぁ、契約を』

「はい」

 マリーが自分の髪を一房、短剣で切り取る。

 精霊と契約するには、自分の体の一部を捧げなければならない。

「ナインシェ。温度を上げる神に祝福された光の精霊よ。請い願う。我と共に歩み、その力、我のために捧げよ。代償として、この身の尽きるまで、汝をわが友とし、守り抜くことを誓う」

『マリアンヌ。我は応えよう』

 ナインシェがマリーの髪をその身に取り込んで、契約完了。

『よろしくね。マリアンヌ』

「マリーでいいわ」

『ふふふ。よろしく、マリー。あなたもね、エルロック』

「エルでいいよ」

 ナインシェの姿が消える。

『わかったわ。エル』

「ん」

 契約に立ち会ったから、ナインシェが顕現を解いた後も声が聞こえる。

「それより、亜精霊って?」

『昨日、人間が置いて行ったのよ』

「え?」

「そんな。ここは国が管理してる安全な場所なのに」

『君たちが戦う予定じゃなかったの?』

「まさか」

『そうなんだ』

『私たち、今年はすごい子が来ると思ってたのよ』

『そうそう』

『そうしたら、こんなに可愛い女の子が来たんだもの。びっくりしちゃった』

「褒められてるのかしら、それ」

『褒めてるのよ。私、とっても楽しみにしてたんだから』

「それ、気になってたんだけど。次にオルロワール家の人間と契約する精霊って決まってるのか?」

『そうよ。最初に決めておかなきゃ、喧嘩になっちゃうもの。マリーって可愛いから得しちゃったな』

「ありがとう。私も、ずっと楽しみにしていたの。よろしくね」

『もちろん。よろしくね』

 精霊同士が契約したがる家系なんて。

 オルロワール家と光の精霊の繋がりって、本当に深いんだな。

『ねぇ、のんびりしてて良いの?』

『亜精霊と戦わないなら、逃げた方が良いんじゃない?』

『そうね。なんだか怖い感じの亜精霊だったもの』

「怖い感じって?」

『わからない』

『あんなの見たことないから』

『ねー』

 精霊が見たことのない亜精霊?

「似てる生き物は?」

 亜精霊は、素体となる生き物の特徴を残していることが多い。

『獅子の頭と山羊の頭』

『双頭だった』

『胴体も山羊だよ』

『大きかったね』

『尻尾は蛇だったな』

「なんだ、それ」

「何よそれ……」

 意味が分からない。

 複数の生き物の特徴が詰まった亜精霊なんて?

『誰かがキマイラって呼んでたよ』

「キマイラ?」

『近づいてる』

『こっちに来るよ』

『隠れて』

「どこに?」

『光の柱の中へ』

『あそこなら守ってあげられる』

 マリーの手を引いて、光の柱の中へ。

「眩しい……」

 目も眩むような光の中。

 目を閉じていても明るい。

 外がどうなっているのかさっぱりわからない。

 けど。

 咆哮が響く。

 ……近くに居るんだ。

『変だね、遠ざかる気配がない』

『人間が隠れてるってわかってるのかな』

『追い払ってあげようか?』

「だめだ」

 精霊を戦わせるなんて。

「マリー。俺が囮になるから、走って逃げろ」

「え?」

「はい、これ」

 光の玉がついた杖をマリーに持たせる。

「ナインシェ。出口は解るだろ?マリーを案内してあげて」

『エルはどうするの?』

「上手くやる」

「エル、」

 マリーの手を離して光の柱から出る。

 

 眩しい場所から出たせいで、視界が変だ。

 ……でも、亜精霊は見つけた。

 思ったより近くに居る。

 ちゃんと武器を持っていて良かった。

 右手と左手に短剣を持って、構える。

 呼吸を整えて……。

「こっちだ!」

 声を上げると、俺に気付いたキマイラが走って来た。

 注意を向けることは出来た。

 そのまま、光の柱から遠ざかるようにして走る。

 ……早い。

 あっという間に距離を詰められる。

『エルロック!』

 体当たりをされて吹き飛ばされた。

 けど、そこまでのダメージじゃないし、光の柱からは遠ざかってる。

 宙返りして着地して、走る。

 このまま、もっと引き離そう。

 マリー、ちゃんと逃げろよ。

『無茶するね、君』

『助けてあげるって言ったのに』

「人間のことは人間でどうにかする」

『契約しようよ』

「しない」

『君一人じゃ戦えないのに?』

 戦えなくても、マリーを逃がす時間は稼げるはずだ。

 急に、後ろが光った。

 まさか、魔法?

 振り返ると、亜精霊を挟んだ向こうにマリーが立っている。

「わ、私……。逃げないわ」

 馬鹿。

「逃げろ!」

 なんで、こういう時に限って逃げないんだよ!

 キマイラがマリーの方を向く。

 行かせない。

 短剣を一本投げると、キマイラの獅子の首に突き刺さった。

 咆哮を上げたキマイラがこっちを向く。

 ……短剣一本で戦うのは無理。

 短剣を鞘に戻して、片手剣を抜く。

『気をつけろ。尻尾の蛇は毒を吐く』

 メラニー。

 ……了解。

 じゃあ、先に尻尾を切り落とそう。

 片手剣の基礎は授業でやってるし、カミーユからも教わってる。

 大丈夫。

 戦える。

 良く観察して……。

 キマイラに向かって片手剣を振ると、キマイラが山羊の角で応戦してきた。弾かれそうになったのを何とか耐えると、左側で獅子の頭が口を開いた。

 噛みつかれる?

『避けろ。ブレスだ』

 ブレス?

 避けるって……。

 しゃがんで山羊の頭をくぐり抜けた瞬間、後ろで轟音が鳴った。上手くかわせたらしい。

『斬れ!』

 言われた通り持っていた片手剣をキマイラに向かって振り上げると、蛇の尻尾に当たって、尻尾が斬れ……、ない。

 そうだ。

 亜精霊だから、いくら斬っても斬れないんだ。

 でも、片手剣の攻撃を受けた蛇の尻尾は、力を失ったかのように項垂れた。つまり、切り離せなくても部位ごとに動けなくすることは可能みたいだ。

 色んな生き物が合体しているし、個々に体力を持つ生き物なのかもしれない。胴体が繋がってる以上、回復の手段を持っている可能性もありそうだけど。

『逃げろ』

 その場から離脱すると、キマイラが大きく振りかぶった山羊の角を振り回した。

 危なかった。

 そう思った瞬間、上から光の矢が降り注ぐ。

 マリー?

 確実にダメージを食らって暴れるキマイラを、片手剣で思い切りなぎ払う。

 いける。

 続けて二度斬りつけると、キマイラが咆哮を上げて後ずさり、口を開く。

『ブレスに気をつけろ』

 あれ、ブレスの予備動作なのか。

 まっすぐ走って、キマイラがブレスを吐いた瞬間に右手に避ける。そして、そのまま下から山羊の首を斬り上げる。

 ついでに尻尾を確認したけど、尻尾は項垂れたまま動かない。戦闘中は、これ以上、回復しないと思って良いかもしれない。山羊の頭も倒せたみたいだ。不格好に、獅子の首だけが起き上がってる。

 もう一度ブレスを吐こうとするキマイラの口の中に片手剣を突き刺すと、剣が噛まれた。

 剣ごと振り回されて、慌てて片手剣を離して腰の短剣を抜き、暴れる獅子の首に向かって短剣で斬りつける。

 すると、獅子の首から片手剣が落ちて、獅子の首も項垂れた。

 やった。

『気を抜くな!』

 え?

「エル!」

 反射的に両腕で体を守った瞬間、何かに吹き飛ばされて後ろの壁にぶつかった。

「いってぇ……」

 背中を強打して、地面にずり落ちる。

 何が起きたんだ……?

 遠くを見ると、山羊の胴体がその場で飛んだり跳ねたりしながら暴れてるのが見えた。

 そうか。あの胴体も別なんだ。

 でも、首を失ったせいで視覚がないのか、その場から移動する様子はない。

 静かに近づいていって、短剣を胴体に向かって投げつける。

 すると、ようやく胴体が倒れて大人しくなった。

 でも、まだだ。

 落ちていた片手剣を拾って、亜精霊に突き刺す。

 すると、ようやく亜精霊が消滅した。

 ……これで、終わり。

 亜精霊は普通の生き物とは違う。ダメージが蓄積して体力をすべて失えば、跡形もなく消滅する存在だ。

 逆に言えば、それまでは気を抜いちゃいけない相手でもある。

 そんな当たり前のことを忘れるなんて。

「エル、大丈夫?」

 杖を持ったマリーが走って来た。

「なんで、逃げなかったんだ」

「逃げるわけないじゃない」

「なんで」

「エル一人を置いて行くなんて出来ないわ」

「俺が囮になるって言っただろ」

「だって、エルが死んじゃったら……」

「別に、俺が死んだところで気にする必要なんてない」

 落ちている武器をすべて拾って、鞘に納める。

 アレクの言う通り、片手剣を持ち歩いてて良かった。

「だいたい。俺が殺されたらどうするつもりだったんだ。次はマリーが狙われてたんだぞ。そうなったら逃げられない」

「私、逃げないわ」

「二人で死ぬより一人でも助かった方が良いだろ」

「そんなの、間違ってる」

「どこが?」

 近付いてきたマリーが、両手で俺の頬を思い切り掴む。

 いってぇ。

「間違ってるって言ってるのよ!」

 理由になってない。

 マリーの両手を掴んで離す。

「何するんだよ」

 めちゃくちゃ痛い。

「もう少し自分を大事にしてよ。頭良いんだから、二人一緒に助かる方法ぐらい考えてよ!馬鹿!」

 二人一緒に助かる方法……。

「あ」

 そういえば、持ってたな。

 逃走用の煙幕の玉。

 あれを使えば、二人で逃げられたかも。

「あったの?」

 今言ったら絶対怒られる。

「ないよ」

 頬をつねられる奴、まだ痛いし。

『エルロック』

「メラニー。ありがとう」

 ずっと、サポートしてくれた。

 メラニーが手伝ってくれなかったら、たぶん死んでた。

『頼みがある』

「良いよ。何でも聞く」

『精霊相手に、その約束は危険だぞ』

「だって、助けてもらったから」

 命の恩人だ。

 メラニーが顕現する。

『私と契約してくれ』

「え?」

『久しぶりに外に行きたい』

『ね、エル。契約してあげて。メラニーは私の友達なんだ』

 あぁ。そういうことか。

 ナインシェはマリーを助けたいけど助けられなかったから、メラニーにマリーのサポートを頼んでいたんだ。

 でも……。

「俺、あんまり良い契約者じゃないと思うけど」

『契約者に良いも悪いもない』

 そういうものかな。

 どうしよう。

 断る理由が思いつかない。

 精霊は好きだし、メラニーには感謝してる。

 今、一緒に上手くやれたんだから、この先も一緒に居られるかも……。

「わかった。契約しよう」

 髪の毛を一房切り取る。

「私、離れてた方が良い?」

「いいよ。俺はマリーとナインシェの契約に立ち会ったんだから、マリーも立ち会って」

「わかったわ」

 メラニーとナインシェは友達だから。問題ないだろう。

「メラニー。温度を下げる神に祝福された闇の精霊よ。請い願う。我と共に歩み、その力、我のために捧げよ。代償としてこの身の尽きるまで、汝をわが友とし、守り抜くことを誓う」

『エルロック。我は応えよう』

 メラニーが俺の髪をその身に取り込む。

「エルで良いよ。よろしく、メラニー」

『あぁ。よろしく頼む。手始めに、設置されたトラップを壊していくとしよう』

 そういえば、魔法の罠があるって言ってたっけ。

「どうやってやるんだ?」

『あの辺りに向かって魔法を集中すれば、トラップを強制発動させられる』

 言われた通り、その方向に手をかざす。

 強制発動……。

 魔力を込めれば行けるのかな。

 こんな感じ?

 急に、周囲に煙が舞う。

「何よ、あれ」

『催眠、麻痺毒、煙幕、捕縛。昨日、人間がこの洞窟に入り込んで仕掛けて行ったものだ』

「どこの誰よ。そんなトラップを仕掛けるなんて」

『人間だ』

『いっぱい来てたよね』

「そんなに?」

 亜精霊を放ったのも人間。

 トラップを仕掛けたのも人間。

『設置した人間は、かなり周到に隠していた』

『私たち、今年はよっぽどすごい子が来るんだと思ってたわ』

『こんな試練、初めてじゃないかなって』

「こんなの試練じゃないわ。一体、何が起きてるの……?」

 今日はオルロワール家の花見で、マリーの試練の日。

 マリーを狙った誰かの仕業?

『帰りは、皆で付いて行ってあげよっか』

『そうだね』

「でも……」

『私たちの洞窟で悪さするなんて許せない』

『怖い思いをさせてごめんね』

『君たちが大怪我する前に、ちゃんと助けるつもりだったんだよ』

「皆が、ずっと見守ってくれてたのは知ってるよ。ありがとう」

『まぁね』

『トラップもなくなったし、行こう』

「そうね。帰りましょう」

 マリーと一緒に歩き出す。

 精霊が増えただけでこんなに心強くて、賑やかになるから不思議だ。

『あ、さっきの歌、聞きたいな』

『歌って』

「わかったわ」

 マリーが微笑んで、歌い出す。

 ……また、精霊と一緒に居るなんて。

 しかも、契約までして。

「メラニー。絶対、俺が守るから」

『そんなことを言う契約者など初めてだ』

「契約の時に約束してる」

『人間は忘れっぽい生き物だからな』

「……そうかも」

 忘れっぽいから。

 いずれ、すべて忘れられる日が来るのかも。

 

 ※

 

「亜精霊と、戦ったぁ?」

「うるさいな」

 カミーユに叫ばれて、耳を塞ぐ。

 マリーと一緒に洞窟を抜けて、帰って来るなり、これだ。

「エル、怪我をしているね」

「あ」

 吹き飛ばされた時に擦り剥いたんだろう。手の甲に怪我をしてる。

「治してやるぜ」

 アルベールが傷口に触れると、見る間に傷が癒やされた。傷跡だけがうっすらと残ってる。

「他に痛いところはないか?」

「大丈夫」

 あちこちぶつけたけど、もう平気。

「お前なぁ。なんで逃げずに戦ってんだよ。普通、亜精霊なんかに会ったら、全力で逃げるだろ」

「だって、逃げろって言ったのにマリーが逃げないから」

「また蒸し返す気?」

 なんでそんなに怒るんだ。

「別に、無事だったんだから良いだろ」

 マリーだって目的を達成出来たんだから。

「エル。どんな亜精霊だった?」

「獅子の首、山羊の首、山羊の胴体、蛇の口を持った尻尾」

「なんだその恐ろしい生物は」

『あの亜精霊を放った人間はキマイラと言っていたな』

『なんだったんだろうね。トラップもたくさん仕掛けちゃって』

「キマイラか……。トラップは魔法で仕掛けられていたのかな」

『魔法だ』

「魔法だと思う」

 闇の精霊じゃないと解らないものだったから。

「アル、調査に行こう。早い方が魔法の痕跡を探しやすい」

「いいぜ。レオ、お父様に報告を。みんなも戻ってるんだ」

「はい」

 アレクとアルベールを見送ってから、レオナールを先頭に歩き出す。

 ツァレンとレンシールも一緒だ。

 ……アレクは洞窟に入ったのに、一緒に行かないらしい。

「オルロワール家に喧嘩売るなんて、一体誰の仕業かしら」

 マリーが狙われてたのは確かだろう。

 ……でも、変だよな。

 ここは光の洞窟だ。

 光の精霊にとってオルロワール家の人間は特別な存在で、精霊たちはずっと俺たちを気にかけていた。何かあれば守るつもりで。たぶん、俺が亜精霊に負けそうになったり大怪我をしたなら、迷わず助けてくれたんだろう。

 だから、光の洞窟でマリーに危害を加えることは不可能なはずだ。

 亜精霊や罠を仕掛けた奴は、そのことを知らなかったのか?

 

 ※

 

 その後は、調査を終えたアレクと桜を楽しんで、のんびりお茶をしてから帰路につく。

 帰りは、伯爵の馬車の列に入ったアレクの馬に乗せて貰えた。

 アレクが手綱を握っていて、俺は、アレクの前に乗せて貰ってる。

「そろそろ日暮れだね」

 燃えるような夕日が辺りを照らす。

 地平線上の太陽はすごく大きい。

 反対側は闇の精霊の瞳のように深い色になってきた。

 太陽が沈んで月が昇る。

 今日は十五日だから満月だ。

「楽しかったかい」

「楽しかった」

 一日中、遊べて。

「精霊と契約したんだ」

 メラニーと。

「気が合う子に会えたんだね」

 気は合うと思う。

 一緒にやっていけるって思えた。

「優しい精霊なんだ。洞窟でも、たくさん助けてくれた」

『あんな亜精霊に一人で挑むなんて無謀過ぎる』

「マリーが逃げる時間を稼ぐつもりだったんだ」

『それぐらいのことなら、精霊に頼めば良かっただろう』

「だって……」

『私たちだって、エルとマリーが怪我をするところは見たくない』

 あ……。

 そっか。

 あそこに居た精霊は、俺とマリーを助けたいって思ってくれてたんだ。

 なのに、俺が断ったから。

「ごめん」

『契約したのだから、もう少し頼れば良い』

 契約すれば、契約者は契約した精霊の属性の魔法を使えるようになる。その代わり、精霊は魔法を使う時に契約者の魔力を利用出来るようになる。つまり、精霊は自分の魔力を使うことがほとんどなくなるのだ。

 でも。

 だからといって、頼って良いのか……。

「エルは精霊が好きだね」

「好きだよ」

「精霊もエルが好きなんだよ。その気持ちを大切にね」

 気持ち……。

 一緒に居たいと思ったから契約した。

 それは間違いない。

『エルは、まず自分のことを大切にした方が良い』

 アレクが笑う。

「君は、エルのことを良く知っているね」

『エルは危なっかしい』

 危なっかしいって……。

 あれ?

 会話してる?

「なんで?契約したら、契約者以外には声が聞こえないはずじゃ……」

『アレクはラングリオンの王族だ』

「知っていたのかい」

『グラム湖の精霊ならば皆、知っている』

「どういうこと?」

「ラングリオンの王族は耳が良くてね。精霊と同じように、どんな精霊のお喋りも聞こえるんだよ」

 精霊と同じ?

 本来なら、精霊が人間と契約すると、精霊は契約者の許可なく契約者以外の人間と会話が出来なくなる。

 でも、精霊同士にそんなルールはない。精霊のお喋りは、どんな精霊にも筒抜けだ。

 アレクは、精霊と同じように精霊のお喋りを自由に聞けるらしい。

 これが、ラングリオンの王族が持つ特別な力?

「フラーダリーも?」

「姉上は、ないと仰っているね」

 仰ってる?

 アレクを見上げると、アレクが微笑む。

「それが事実だよ」

 事実。

 ……本当に?

 でも、フラーダリーのことだから。本当はどうなのか聞いても、ないとしか言ってくれないんだろう。

 

 


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