41話 ジュディ国へ
お久しぶりです。
とても遅くなりましたが、ジュディ王国編が始まります。
生存確認としてとりあえず1話で、残りは数日後からUPします。
ジュディ王国編はすでに書きあがり、次のレイモンド王国編の構想も考え終わっております。
そして短編も一つ。ご期待ください。
岩が無数に転がる荒野で、魔物の群れに囲まれる二人の男がいた。
「ふんっ!」
だが、大柄の男が大剣を振ると、熊型の魔獣が、あっさりと縦に真っ二つとなる。
「ぬぉぉぉ」
返す刀で、大剣を右に振る。すると、別の角熊の首が飛んだ。
しかし、がら空きになった男の背に向かって、三頭目の角熊が襲い掛かる。
そこで、小柄の方の男が地面で何やら足踏みをすると、切っ先が跳ね上がった短槍が、つっかえ棒のようにして熊に突き刺さり、角熊の動きを止める。
そこに、大柄の男が地面と平行にぶん回した大剣が襲い掛かり、角熊の上半身と下半身を分断した。
荒野に、角熊の体が、三つ横たわった。
「魔獣が束になろうと、俺には敵わん!」
「さすがっ! Aランク冒険者カイザーの兄貴っ!」
大柄の男は、ミスチェル王国が誇る、若手筆頭株の冒険者、カイザーだった。小柄な方は、その腰巾着であるスネイルである。スネイルは、カイザーを褒め称えながらも、素早く角熊の角を刈り取り、素材を手に入れた。
「とは言え、もうすぐ王都だってのに、角熊が纏めて三匹も出るたぁ……ジュディ王国はレベルが高けぇな」
カイザーは、背に大剣を戻し、王都へ向かって歩き出す。スネイルも、リュックに素材や短槍を詰め込み、カイザーの後を素早く付いて行く。
「しかし兄貴、腕を更に上げましたね! Aランクに昇格するだけありますぜ!」
「まあな! 俺の実力だと、遅すぎるくらいだぜ! 我らミスチェル王国は小国だとは言え、そこで最強の戦士だしな!」
「兄貴はほんと無敵っ! 負けた事なんて・・・・・・、まあ、あのタブ・・・なんとかって奴にわざと勝ちを譲ってやった時を除けば、一切ありませんしねっ!」
「うーん。あれはホントなんだったんだろうな・・・・・・。体調悪かったのかもな。うん……そうだ……な」
「たぶん、魔獣の毒でやられてたんっすよ! 兄貴は強すぎて、少量の毒なんて気が付かないんだからっ!」
「そういやぁ、その何日か前に、ジャイアントスネークと戦ってたなっ!」
街道を歩きながら、二人は、大声で笑った。
スネイルは、鼻の下を指で擦りながら嬉しそうに言う。
「んで、今回はミスチェルを代表しての任務なんですから、あっしも舎弟として鼻が高いっすよ!」
それを聞き、カイザーは、懐の書状を確認する。がさつなカイザーがこのような事をするほど、この書状は重要な物だった。
「ふぅ。あった。ロン王子から預かった、レイモンド王家とロン王子連盟の書状だからな……。任務が失敗すれば、さすがの俺の地位も危ういぜ……」
「ほら兄貴、王都が見えてきましたぜ」
二人の前に、城壁に囲まれた、大きな街が見えて来た。だが、王城のような物は、街の西側と東側、左右に一つずつ、計二つある。
「あん? どっちだ? 左か?」
取り敢えず手前にある、やや近い方の建物をカイザーは指さすが、スネイルは首を横に振る。
「あの刺々しい王城みたいなのは、魔法学院です。王城は、右のヤツですぜ」
小高い丘で足を止めたカイザーは、じっくりと二つの建物を眺める。確かに、右の建物は、一般的なずんぐりとした王城の形をしていた。そして左の魔法学院は、比べるとやや細身の建物で、攻撃的な印象だ。どちらの建物も、王都を真っ二つにして考えた時、それぞれの中心に立っている。
右地区の中心が王都で、左地区の中心が魔法学院だ。
カイザーは、丘を下る街道を王都へと進みながら、街を二分して立っている二つの建物の感想を言う。
「なんか……仲が悪そうだな」
「悪いらしいですぜ」
カイザーの珍しく鋭い意見を、スネイルは肯定した。
「十五年前くらいに魔法学院を創立した今の学院長が、かなりの曲者らしいんです。王様でも口出しできない感じで、魔法学院自体が独立機関になっているとか」
「ほーう。学院長は強いのか?」
「職業が、魔法職最強の一角、『魔女』らしいですぜ。その学院長を筆頭に、魔道騎士団が常時五十人いて、更に有事の際は、各地に散った卒業生が終結する強固な組織だって聞いてますぜ……」
「それだけで一国以上の戦力だな……。で、王側にも戦力があるんだろ?」
「一般的ですが、騎士団員が五十と、兵士が百くらいかと」
「全部合わせると、上級職が百以上で、下級職が二百くらいか? 我がミスチェル王国に、姉妹同盟国のスピツ王国を足しても、・・・・・・負けそうだな。さすがジュディ王国だぜ」
「周辺では、レイモンド王国と共に、ジュディ王国は頭一つ抜けてますからねぇ。まあ最近では、大量の勇者を召喚したアスカ王国が一番じゃないかって話になってますが。で、その三国に続くのが、拳聖を擁するビズ王国と、謎多き東のティーラル王国、で、一番下が、我がミスチェル王国と、その同盟国のスピツ王国ってなりますねぇ。残念ですが」
「それで……なんとかしようと、最弱の二か国、ミスチェルとスピツの上層部は、イチャコラやってんのか……?」
「少し前の騒動ですね。その後、スピツ騎士団 団長のドラン様が更迭されたとか? 兄貴、詳しい話を聞いてます?」
「細けぇ事は知らねぇなぁ」
カイザーは肩をすくめた。
先の魔族ゼラによる動乱は、極秘扱いにされているので、Aランク冒険者のカイザーと言えど、何も聞かされていない。
「まあその話はともかく、兄貴の今回の任務が、我らミスチェル王国と、ここ魔法大国であるジュディ王国との同盟を結ぶって事なら……、こりゃスゲー事になりやすぜ! もしかするとレイモンドともすでに同盟が確約されていて、ミスチェル・スピツ同盟に、レイモンドとジュディの大国が二つ加わって……」
「地理的に、横並びの国の連合かぁ。こりゃ、北のクラブ連邦にも一目置かれる程の戦力になるなぁ」
「さっ、兄貴! とっとと同盟を結びに行きやしょう!」
「おう! 任せておけ! 『デコボコブラザーズ』、書状を渡して任務完了だぜ!」
「兄貴……そのPT名なんですけど……」
「なんだ? やっぱ、あっちにするか? デコボコゴールデンボンバー。ちょっと言いにくいんだよなぁ……」
「兄貴っ! 兄貴とあっしの名前を取って、『カイザーズネイル』とかどうですかい?」
「……まあ、語呂は良いな。でもやっぱり、デコボコは外せないっつーか…」
「兄貴っ! その話はまたにして、日が暮れる前に王都へ急ぎましょう!」
カイザーは空をちらりと見てから、走り出すスネイルの背に言う。
「いや、まだ昼過ぎ……、おい、スネイル待てって!」
カイザーとスネイルは、街道の分岐を右に曲がり、王城側の城門へ向かった。
……その二人を見下ろす丘の上に、二人の男女が立った。
「今、あの背格好のずいぶん違う、デコボコ冒険者達が向かっている方が、王城方面だお。で、左側の街道の先、あっちがワタシ達の目指す、魔法学院だお」
「珍しい作りの街だね。……ところで、あの二人の冒険者、どこかで見たような?」
「ガタイの良い冒険者は、異世界に多いお」
「そだね。じゃ、行こう。用事を済ませて、美味しい物食べて、お土産買って、一泊して帰ろう!」
田渕と大家は、初めて訪れる街へ、足取り軽く向かった。
やや丸みを帯びた作りの王城とは対照的に、細身の塔が突き出る魔法学院。
その、魔法学院の一室で、田渕と大家はある女性と面会した。女性は、ヌーノと言う名前の女性で、魔法学院の教諭だ。その女性に、ナンの村のガワからある素材を渡すように頼まれていた。ヌーノとガワは、アスカ王国の同じ村で育った、幼馴染との事だった。
素材を受け取ったヌーノは、目を輝かせる。
「素晴らしい……。この軽さ、そして強度、魔法職でも身に付けられる鎧が作れるわ……」
ヌーノは、三メートル四方の板状の物を、両手で持ったまま軽々と向きを変えて眺めている。木材はもちろん、革よりも軽い。
ヌーノは、腕を下ろすと、ふと、何かを考える。
「ギリーの甲羅にしては、余りにも薄いわ。じゃ、甲羅じゃなくて、足の外殻? でもこの大きさになると……ギリーじゃなくて、まさかA級魔獣のインセクギリー? いや、幅が三メートルよ。ならインセクギリーよりも更に大きい……?」
そこで、田渕が慌てて言う。
「あ……あのっ! 僕達も詳しい事は聞かされていないんですけど、ガワは、『幼馴染なんだから秘密だぞ』って言ってましたよ!」
「あっ……そうよね。ごめん! けど、ガワも、いつの間にかこんな素材を手に入れられる程の、素材屋の店主になったのね。すぐにお腹が痛くなるだけの普通の男の子だったのに……変わったなぁ……」
ヌーノは、感慨に浸っている。
そのヌーノの横顔に、田渕と大家は、『すぐにお腹が痛くなる』部分は未だに健在だぞ、と思っていた。
教諭であるヌーノの個室から出て来た田渕達は、興奮冷めやらぬ顔をしていた。
「金貨を二百枚も貰っちゃったね!」
「日本円で、二千万円だお!」
「ナンの村の人達の、傷んでいた農具や道具をやっと買い換えられるね!」
「わ……ワタシ達にお小遣いは無いのかお?」
「お駄賃は適当にって言われてるから、金貨一枚ずつくらいは良いんじゃない?」
「一人 十万円相当かお! ルムに美味しいお菓子を買ってあげられるお!」
「ルムのママにも、美容オイルを買ってあげられるね! ガワには腹痛の薬も!」
ワイワイと廊下を歩いていると、田渕達の正面から、女性が歩いてきた。
「あっ……すみません、こんにちは……」
騒がしかったかなと口をつぐみ、田渕は小声で挨拶をした。大家は無言で会釈をする。
廊下を歩いてきた女性は、田渕達を一瞥すると、何も言わず通り過ぎて行った。
(高校を思い出すね!)
(怒られる前に、退散するお!)
田渕と大家は、ひそひそと話すと、廊下を早歩きして魔法学院の外へ向かった。
女性は、ぴたりと足を止め、振り返った。
そして彼女は、田渕と大家の背に、鋭い視線を向けながら、口を開く。
「…………日本語?」
女性は、そう呟いた。
続きは、遅くとも次週、4/15・16にはUP致します。




