40話 オーバーキル
「科学の力を見せてやるお」
「カガク? ふん……。燃え尽きろっ!」
ゼラの右手から炎が、左手から風が放たれる。それが合わさり、巨大な炎の竜巻となり、大家へと向かう。
大家はタブレットを操作し、二メートル程の大きな鉄の塊を出した。それは、巨大なロボットの頭部だった。
「ガイグダンヘッド! ルストトルネード!」
ガイグダンの口を覆っていたシャッターが開き、鉄格子のような口が露出した。そこから、何かキラキラとした物が混じった強力な風が吹き出した。
ゴオォォォ ドッ ゴォォォ
炎風陣と、ルストトルネードが衝突した。お互いに一歩も引かないが、ゼラの様子に異変が現れ始める。
「な……なんだ?」
ゼラの全身に痛みが走った。体のいたる場所から、出血をしている。羽根も、ボロボロになり、修復が追い付かない。
「何かが……目に見えない何かが……飛んできている……」
炎風陣と、ルストトルネードの威力は、一見して互角だった。だが、ルストトルネードには、微細な金属粒子が混ざっている。それが、炎風陣の中を、突き切ってゼラの体に突き刺さっていた。
「ぐっ……ぐぉぉぉ!」
ゼラの体が削り取られていく。だが、痛みはそれだけでは無い。ルストトルネードの金属粒子の中には、ナノテクノロジーにより、生物・金属を腐食させる機能、つまり、毒の要素も備えている。
「これは……くっ!」
ゼラは、炎風陣の方向を変え、その反動によって空中を横に逃げ、ルストトルネードの範囲から外れた。ガイグダンは首から上だけなので、ゼラを追うように、器用にはルストトルネードの方向を調整出来ない。
「ガイグダンっ! ロケットパァァァンチ!」
周囲の木は倒されて、少し開けた場所。そして、相手は空。ガイグダンアームの動きを、阻害するものは何も無かった。
「巨岩撃!」
現れた巨岩と、ガイグダンの拳が激突する。ガイグダンの拳は巨岩を砕いたが、その先に、ゼラはいなかった。
「確かにあれを食らえば、かなりのダメージだったろうな」
ゼラは、砕けた岩に掴まり、ガイグダンの腕を見送った。そして、大家の渾身の攻撃を躱したと、笑みを浮かべながら下を見る。
……だが、地面に、大家の姿は無い。
「なるほど。この隙に、また逃げ…」
ドッ ォォォォォォ ズドンッ
ゼラの体は、何かに攫われた。そして、その空に、巨大な衝撃波が広がった。
「ぐっ……ぐぉぉぉ! なっ……何が……」
「細工は流々、仕上げは五郎と次郎……太郎と次郎? まあ、そんな感じだお」
ゼラの体は、大家が乗る偵察機の先端に張り付いていた。偵察機の尖った先がゼラの腹を貫いたのと、音速を越える偵察機の速度とで、ゼラの体はべったりと張り付いたまま、ぴくりとも動けない。
偵察機は、ぐんぐんと高度を上げて行く。まるで宇宙へと向かっているようだった。
「こっ……こいつめ……どうするつもり……だ……」
ゼラは、生まれて初めて危機感を抱いた。これは、魔王領を出る事を、魔王に告げた時にも感じた事が無い感情だった。
ウゥゥゥン ブォォォン
偵察機は宙返りをした。今度は、地表に向けて、真っ逆さまに落ちて行く。
「わ……分かったぞ……。自らの命を犠牲にして、俺を殺す気だな……」
「んな訳、ないお」
実際には、ゼラの声は聞こえていない。だが、風防の向こうで口をパクパクしているゼラを見て、大家は何となく言っている事が分かった。
ピシッ ピシシッ
ゼラは、じりじりと腕を動かし、風防に手のひらを当てた。そこを起点に、風防のガラスにヒビが入った。
「か……火炎海」
ついに風防に穴が開き、そこから偵察機の操縦席に炎が雪崩れ込む。
バンッ
突然、全ての風防が弾け飛んだ。ゼラの魔法の炎は、後方に流れて消える。空になった操縦席には、誰も乗っていない。
「馬鹿な……。あいつ、どこへ……」
ゼラは、首に力を込め、僅かに動かす。すると、パラシュートを開いた、大家の姿が見えた。
「あれは……恐らく翼の役目をする道具か……。しかし……俺を最後まで監視せずに逃げた事を、後悔するだろう……」
ゼラは、両手から火炎を出した。だが、炎はあっと言う間に風に流されて消える上に、偵察機は金属なので燃やす事は困難だ。
「きょ……巨岩撃」
巨岩にぶつかれば、偵察機は破壊されるだろう。だが、巨岩が現れた時には、偵察機はとっくにその場所を通り過ぎている。
「ぐぅぅぅ……。い……良いだろう。この速度で地面とぶつかれば……俺もすぐには動けない程のダメージを負うに違いない。だが……傷が癒えた時……必ずお前の命を奪いに行くぞ……。顔は覚えたからな……」
垂直に落下する偵察機だが、僅かに機首が上がり、何やら進路を微調整している様子に、ゼラは気が付いた。ゼラは知らないが、自動操縦が働いていた。
「なんだ……?」
ゼラは、偵察機に張り付きながら、進路の先を確認する。その場所に、ゼラは戦慄した。
「しまったぁぁぁ! まさかっ! くっそぉぉぉ!」
地面に衝突する瞬間、ゼラは絶望した。
そこには、大家がばら撒いた、ロケットランチャーの弾や、数々の爆弾、大量の爆発物が置かれていた。
「あれは、わざと…」
ズッ ドォォォガァァァンゴワァァァンドグァァァン
大家が投げ捨てた物に、一メートルの大きさの円盤も含まれていた。二十メートル級ロボットすら吹き飛ばす、対ロボット用地雷だ。タブレットに保存していた殆ど全ての爆発物と、ロボット用地雷の連鎖爆発で、異世界では空前絶後の大爆発が起こった。それは、直径百メートルのクレーターを作り出した。
「うぉぉぉっと、危ないお……」
かなりの距離があるはずだが、パラシュートに乗った大家は、爆風に煽られた。そちらを見ると、森の中に、広範囲の地面が露出していた。森林火災はというと、爆風により、炎の大半が消えてしまったようだ。
「恐ろしいほどの森林破壊をしてしまったお……。たかがゴブリン一匹に……多分王様は激オコだお……。お金の請求が怖いお」
目撃の可能性があるスピツ騎士団だが、催涙弾により大家の姿は見ていないので、大家の犯行は明るみに出る事は無かった。
ただ、スピツ騎士団は、催涙弾の効力がやや収まった団員の数人が、騎士団参謀であるゼラの衣服を身に纏った、魔族の姿を目撃していた。そして、妙な仮面を付けた黒装束の者と戦っている姿も見られている。この事から、参謀であるゼラの正体は魔族で、追手である黒装束の魔族に見つかり、連れ去られた、もしくは、殺害されたと結論付けた。
魔族は、人類最大、最悪の敵とされており、これに協力する事は、世界中から非難の対象になる禁異とされている。その魔族がミスチェル進行を立案したと言う事で、スピツ王国は、即座に作戦が撤回され、全面的に謝罪をした。
そして責任の大部分は、騎士団長であるドランとされた。ただ、主犯は魔族なので、ドランが魔法で操られていた可能性が否めないのと、幸運にも死人が出ていないのとで、ドランの死罪は回避された。
そんなごたごたな最中である祭りの最終日、海賊系アイドルレイラのライブは、大盛況を治めた。その一因には、バトルトーナメントを優勝した田渕が、率先してレイラファンを率いてオタ芸をした事にもあるかもしれない。
祭りは終わり、翌日の早朝、田渕達は、港で船の出向を待っていた。
相変わらずマゼランは、忙しそうに指揮を飛ばし、自らも荷物を運んでいる。
「優勝賞金とかは貰えなかったのかお?」
「親善試合みたいなのだから、元から無かったみたい。何かトラブルがあったみたいで、僕達一般人はすぐに闘技場を追い出されたしね」
「優勝者なのに、追い出されたのかお?」
「いや、本当は兵士の人に引き留められたんだけど、レイラのステージ作りを手伝わないといけなかったし、無理やり闘技場から逃げたんだ」
「うむ。まあ、田渕君の疲労解消スキルのお陰で、徹夜作業も苦にならなかったお」
本来、祭りの二日目は、全員でステージ作りに専念する予定だったのだが、田渕はトーナメント、大家は王城へ潜入で、半日を無駄にし、そのしわ寄せで、夜通しのステージ作りとなってしまった。何とか朝方に完成し、休む事無く、村の人達のお土産を買い込み、リハーサルをして、夕方からライブと、慌ただしく最終日を終えた。
ファンからの握手をねだられるレイラを見ながら、田渕はぽつりと言う。
「結局、武器の買い込みって何だったんだろうね?」
「古くなったから、買い替えとかかお? レイモンド王国で、在庫処分の投げ売りでもやってたから、多めに買ったとかかお?」
「僕もネットで、型落ちを安く買った事があるよ。まあ、戦争が無くて良かったよ」
ミスチェル王国、スピツ王国、両国の戦争は、魔族が関係していた事と、同盟国同士である事により、即座に箝口令が敷かれた。さすがのマリーも、この事は田渕達に話せなかった。
「タブチっ! オーヤっ!」
マリーが現れた。今日は、平民に近い簡素な服では無く、ドレスのような少し洒落た服を着ている。その後ろには、護衛であるボンドが付いてきている。
「タブチ……あの……行ってしまうのよね?」
マリーは、顔を赤らめながら聞いた。田渕は、即座に首を縦に振る。
「あの……タブチからの告白の事だけど……あの……その……」
もじもじしながら言うマリーの言葉に、大家、レイラ、アーサーは驚く。
「告白かおっ?」「うそっ!」「会長っ! マジでありますか?」
しかし、田渕は誰の話をしているのか分からないと言った風に、きょとんとしている。
そこに、大家が改めて聞く。
「田渕君、マリーさんに……告白とかしたのかお?」
「ううん。していないよ。マリーさん、誰かと間違えているんじゃないかな?」
田渕の圧倒的平常心に、マリーの心はずがんと打ち砕かれた。
「た……タブチ…………。し……死刑よっ!」
マリーに指さされ、田渕は仰け反った。その様子を見ているボンドは、いつもの硬い表情では無く、少しだけ柔らかいものだった。
時間が来て、田渕達は船に乗ってしまった。その船が、港から遠ざかっていく。
いつまでも見送るマリーは、隣のボンドに言う。
「タブチは平民だけど、バトルトーナメントで優勝したわ。結婚相手として、どうなの?」
「あのトーナメント自体に、権威はありません。ただ、この目で見ていないので信じ難いが、他の団員や兵士が言う事を信じれば……、王族と婚姻関係を結んでも、まったく問題の無い戦士です。見た目からは、とても想像できない」
「でしょっ!」
マリーは、満面の笑みを浮かべる。だが、ボンドの表情は、少し浮かない。
「しかし……タブチに対して一番不可解なのが……あのトーナメントの状況下で、何故……スピツ騎士団の反乱に……まったく気が付かないのかと。鈍感にも、程が……」
「天然なのよ! 可愛いでしょ! タブチに体を治してもらったくせに、悪口を言わないのっ!」
「は……はぁ……」
ボンドは視線を落とし、自分の胸を撫でた。
昨日の晩、胸に受けた十字傷のせいで、死線をさまよっていた。マリーがそれを田渕に伝えると、「風邪を甘くみちゃダメだよ。インフルエンザかも」と、訳の分からない事を言って、ものの数秒で、完全に治してしまった。
しかもその時、田渕はライブ終わりでテンションが頂点に達した、『漲っている』状態だったので、全治癒の効果は、治療所にいた騎士団全員と、ついでにカイザーをも完全に治癒させてしまった。
マリーは、水平線のかなたに船が消えてしまうと、俯いた。
「三か月に一度、ライブに訪れてくれるって……。三か月が長いものだって、不思議と、今日、初めて気が付いたわ」
「マリー様が、大人になったと言う事です」
ボンドは、懐からハンカチを取り出し、マリーに差し出した。
船上では、ミスチェルの港が完全に消えたのを確認した大家が、ぴょんと木樽に飛び乗り、腰掛けた。
「さて、ワタシが今回 最強の敵、ゴブリンと戦った時の話をするお」
「大家さんっ! ゴブリンと戦ったのっ!?」
「ゴブリンって、ビズやアスカ国では、駆逐されてほぼ全滅した魔獣よね!」
「Fランク冒険者の宿敵でありますね! しかし、どうして今?」
「それが……下手したら賠償金……、いや、まあ、今 突然思い出したんだお」
大家は、マゼランの船の船員が、近くにいない事をもう一度確認した。
「はてさて、ゴブリンは、聞いていた話より、少し大きくて、そして、聞いていた話と違い、人の言葉をしゃべったが、ワタシはこいつが、一目でゴブリンだと見抜いたお。そんなワタシとの戦闘の最中、奴の戦闘力は五十三万から……」
船は、アスカ国へ向かって、大海原を進んでゆく。
彼らの大した事の無い日常は、まだまだ続きます。
追放オタはチートでも慎ましく……
お読みいただきありがとうございました。
次回は、魔法大国ジュディ王国編を予定しています!




