34話 バトルトーナメント
翌日、祭りの二日目、バトルトーナメントが開かれる日だ。
大家のプランはこうなっている。
王城では、レイラとアーサーが、歌などを歌う事により、門番の注意を引きつける。これは、翌日のライブの宣伝と言う事で、逮捕される事はまず無い。
その隙に、大家が王城の上階より侵入する。そして、トーナメントに潜入した田渕が、出来るだけ派手な事をして、トーナメントを盛り上げる。その歓声が、すぐ隣にある王城にまで届くはずなので、王城の守備兵士達はそわそわとし始める。それにより、王城の下階の守備が緩くなり、大家が下階の捜索をする。
ざっくりと、このような感じだ。穴だらけなのは否めないが、諜報活動が苦手な田渕と大家なので仕方がない。
尚、エンの村から付いてきた大道具四人衆だが、明日がライブなので、現在は目が回るくらいの忙しさでセット作りに勤しんでいる。
「♪ドラゴン、オーク、ぴょんぴょこぴょん♪」
「うーん、心に染み渡るいい歌だなぁ……」
門の前で歌うレイラの後ろでは、アーサーがオタ芸で盛り上げる。それを聞いている四人の門番は、うっとりとした顔でレイラを見つめている。
ブーン
その上空では、プロペラ音が響いていたが、門番達は、まったく気が付いていない様子だった。
「もうあの歌には突っ込まないでおくお……」
大家は、最上階に近い場所にあるバルコニーに着地した。すぐさまタブレットを操作して、ドローンを消す。そばの部屋を覗くと、女性っぽい内装をしており、恐らくマリーの部屋だと思われた。
振り返ってバルコニーの外を見ると、五十メートル程に離れた場所にある闘技場が見下ろせる。ただ、舞台に上がった人数が二人だって分かる程度で、人物が見分けられる距離では無い。
「とりあえず上階を捜索するお。次に下階だお。田渕君、盛り上げてくれお!」
ガッ
バターン
扉窓の縁に足を引っかけた大家は、絶望的な音を響かせて、マリーの部屋の床に大の字になった。だが、この部屋に近づいて来る足音は無かった。
むくりと起き上がった大家は、自分が倒れていた絨毯を撫でる。
「これの品質には問題が無さそうだお。じゃあ、次行くお!」
トタトタと走り、ガチャリと無造作に部屋の扉を開ける。廊下には、誰の姿も無かった。
「スパイって結構 簡単だお」
大家は、次の部屋に向かった。
歓声が響く。
闘技場は石造りで、地球にあるコロッセオに非常によく似ていた。観客席も、舞台をぐるりと取り囲むようにして階段状に作られ、現代の野球場やサッカー場のように、観戦がしやすいように作られている。
「ボンド団長率いる、ミスチェル騎士団ぁぁぁん!」
職業が『アナウンサー』な事は無いはずだが、声を拡声する技術を持つ職業があるようで、司会の声がミスチェルご自慢の騎士団を紹介する。
南の入場口から、ボンド団長を先頭に、副団長であるバットや、その他の団員、総勢二十人程が出て来る。規律が厳しいようで、全員が短髪に整えられている。
「ドラン団長率いる、スピツ騎士団ぁぁぁん! 相変わらず副団長のジンバ様はイケメェェェン!」
闘技場に、女性の黄色い声がこだまする。
ドランは長髪だが、顔はミスチェルのボンドに負けず劣らず、いかつい。そしてその後ろにいる副団長のジンバは、髪は程よい長さに切られた、かなりのイケメンだった。身長も、ドランとほぼ同じで、百八十五センチ程だろう。こちらは隣国より遠征だからなのか、ミスチェル騎士団よりは、やや少ないようだった。
両国が出そろい、主賓席にいる王族に礼をする。
王族は、ミスチェル王国より、王、皇后、そして、マリー王女だ。そしてスピツ王国からは、王、皇后、である。このスピツの皇后は、マリーの姉のローラである。
横一列に並んでいる主賓達の、端に座っているマリーが、逆側の端のローラ皇后に、大きな声で聞く。
「ローラ姉様、そちらに行って良いですか? 姉様の隣で、観戦したいなぁって」
しかし、ローラは目を泳がせて少し間を開けた後、
「マリー、もう……子供みたいな事を言っちゃあダメよ。今日は、大人しく座っているのよ。……分かった?」
と、答えた。
「えー……、楽しみにしてたのになぁ……。はぁーい」
「……大人しくよ!」
がっくりとうな垂れるマリーに、ローラは念を押すように言った。
マリーの隣に立つ警護のミスチェルの騎士団員は、余計な仕事が増えないようで、ほっと胸を撫でおろした。逆側に立つスピツの警護騎士団員は、我関せずと言った様子で、身じろぎ一つしない。
マリーは、席が少し離れていようと、間に王達がいようと、遠慮なしにローラに話しかける。
「ローラ姉様、私、友達が出来たのっ!」
「えっ? 友達? あなたが?」
「うん! 遠慮がちな子達なんだけど、妙に距離が近い感じで接してくれるの! まるで、考え方の違う、別の国から来た人達みたいな、素敵な子達なんだよ!」
「そ……そうなの。それは良かったわ。本当に」
「でね、その二人の内の一人が、トーナメントの一般人枠で出場するの! 私の友達を、見てあげてね!」
その言葉に、ローラは顔を歪める程に驚いた。
「ど……どうして!? 一般枠は、ミスチェルの乱暴な冒険者が出るって聞いてたけど?」
「昨日、その子がどうしても出たいって言うから、入れ替わったのよ! 友達の私に見て欲しいのかもね! 友情ね!」
「そ……そんな……」
ローラは、愕然とした様子で、舞台の上に並ぶ面々に目を凝らした。
舞台では、ミスチェルの騎士と、スピツの騎士が、向かい合って立っている。ミスチェルの方は、副団長のバットであった。
歓声の中、舞台の外にいる審判が合図をすると、二人の騎士は、抜刀をした。
「じゃあ、今日はよろし…」
「竜巻突き!」
「なにっ!」
スピツ騎士が繰り出した攻撃が、無防備に立っていたミスチェル副団長、バットを襲う。
グサッ
螺旋の風の刃を伴った槍が、バットの肩を貫いた。
「がっ……馬鹿な……。何を……?」
片膝を突いて驚いた顔を上げるバットの前で、スピツ騎士は、頭上で槍を回転させる。
「真空斬!」
放たれた横一線の巨大な風の刃を、バットは、後ろへ飛び退き、体を仰け反らして避ける。だが、胸と両腕を、横に深く切り裂かれた。
「ぐわぁぁぁ!」
血が激しく噴き出た。万が一の事故を考え、場外にいた治療職が駆け寄る。治療師達が手をかざすと、なんとか噴き出す血の量は減っていった。
「し……試合終了ぉぉぉ!」
司会が叫ぶと、副団長が一般騎士に負けたと、観客は大いに盛り上がった。舞台上の揉める声は、歓声にかき消されていた。
「どういう事だ! 何故技を当てた!」
ミスチェルの騎士団長ボンドが、スピツの騎士団長のドランに詰め寄った。だが、ドランはボンドの手を払いのけると、舞台に上がる。
「次は、俺とお前の戦いだ」
「き……貴様……」
ボンドも舞台に上がり、ドランの正面に立って向かい合う。
「お前達のやっている事は、同盟関係にヒビを入れる事だぞ? 分からないはずは無いだろう?」
「ふふふ……。ついに、お前と本気でやり合える日が来たな」
「本気? ドラン……お前……、いや、お前達、まさか……」
「本来なら決勝でやりたかったが、そんな時間も無いからな。ここでお前を戦闘不能にする。本気でやらなければ……死ぬぞ?」
ドランは背から盾を取り外して左手に持つと、右手で腰の長剣を抜いた。対するボンドも、同じく盾と長剣を構える。
両者の用意が整ったと判断した舞台の外にいる審判は、腕を振り下ろす。
「始め…」
ガキンッ
ドランが一足飛びで間を詰めると、長剣を振り下ろす。ボンドは、それを盾で受け止めた。剣と盾の間に、火花が飛ぶ。
次話は 8/12 本日21時投稿です。




