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32話 不穏な国


 レイラ達と合流し、無事本日の予定をこなした田渕達は、大道具係の四人とも合流し、夕食を終えた後、宿屋にチェックインした。部屋割りは、田渕、大家、レイラ、アーサーの四人部屋と、大道具係の四人部屋となった。



 部屋に入ると、レイラ、田渕、大家はベッドに腰を下ろす。しかし、アーサーは何やら、扉を開けて、廊下の様子をきょろきょろと探っていた。


 レイラは、柔らかいベッドで体を上下に揺らしながら言う。


「ベッドふかふかぁ。レイラ、幸せだよ、きゅんきゅん!」


 それを聞いて、片頭痛が起きたように、こめかみを押さえながら大家が言う。


「四人だけなんだから、喋り方を戻すんだお。まあ、数か月前までは、土の上に布を敷いて寝ていたマジ海賊系だったから、分からないでもないがお」


「あ、そーだオーヤ、レイラ、曲の合間に巨大魚を捌くパフォーマンスしたいから、その時に十キロのお刺身を一気食いして盛り上げて欲しいきゅんっ!」


「無茶言うなお。訳の分からない魚、アニサキス不可避だお」


 そこに、アーサーが戻ってきて、ベッドに座ると口を開いた。


「いやぉぅ、会長、ちょっと話 良いでありますか? 食堂では出来なかった話なのですが」


 田渕は頷く。


「このミスチェルって国、どうも変であります。今日街で仕事をしていた時、港近くを何度も往復したのですが、余りにも輸入している量が多いであります。それも、保存が出来るような穀物ばかりであります」


「穀物? 少し妙だね」


 田渕達は、本日はマリーに付き合わされた訳だが、マリーは祭り用に肉料理や魚料理を揃える事ばかりを気にしていた。穀物の用途が、祭りと結びつかない。


「それに……祭りと似ても似つかぬものも、目撃したのであります」


 アーサーがレイラを見ると、振られたレイラは、頷いてから話しをする。


「かなりの武器を仕入れてたよ。数百ってとこかな。他に、鎧や盾も。形状からして、ビズ製じゃない。船の航路から考えても、北西にあるレイモンド王国製だと思う」


「レイモンド……って確か」


 田渕が大家を見ると、大家は頷く。


「アスカ国周辺の国々の中で、最も軍事に力を注いでいる国だお。武器の質も、周辺で一番だって、ナンの村のジジイ達は言ってたお」


「するとまさか……、ミスチェル王国は……戦争をする気って事?」


 田渕が言うと、レイラは、両腕を寄せ、大きな胸を挟み込むようにして言う。


「レイラ、喧嘩は嫌いだきゅんっ! ……って、私達は海賊の子孫だ。争いの後に、何が残るかを知っている。今日、知り合った洋服店のおばさん、もうすぐ二人目の子供が生まれるって言ってた。戦争は大反対ね」


 田渕は、腕組みをして天井を見上げた。


「けど、この国の王女であるマリーさんは、そんな様子は一切無かったよ。彼女の性格を考えると、隠せそうにもないけど……。マリーさんは知らされてないのかな? 王女とは言え、僕達と同じ、まだ十六歳だからかな……」


 そこで、大家が口を開く。


「一つ、気になる事があったお。それが、長兄ロンだお。国を挙げての祭りなら、次の王となる王子は、もっと前に出て来ても良さそうだお。マリーさんは、彼の存在については話したけど、動向については、一切のヒントを出さなかったお」


「まさか王子は、他国を攻める準備をしているのでありますか? ミスチェル王国の側(そば)の国と言えば、海を挟んですぐのレイモンド王国と、国境を接しているスピツ王国。レイモンド王国から武器を仕入れたなら、攻める相手は、北のスピツ王国一択になるであります。同盟相手を襲うなんて、海賊でも躊躇する案件であります」


 そう言うアーサーに、田渕は首を傾げる。


「あのマリーさんの兄弟が、とてもそんな事をするとは思えないよ。とにかく、明日 会うから、それとなく聞いてみよう」


 それには、大家も同意した。


「とにかく、最悪 僕達のライブを捨てても、出来る事をやってみよう」


 田渕の言葉に、全員が揃って頷いた。





 翌日、マリーは、田渕達と昨日出会った場所に、朝の六時にはすでにいた。


「ちょっと! 王女を待たせるなんて、良い度胸ね!」


「えっと、時間の約束はしてなかったから……、マリーさん、早いですね」


 冒険者達の朝は早く、早朝の六時には出発し終える。マリーの仕事は、出店の場所と時間を管理する事なので、お店が暇になったその朝六時くらいから仕事を始めるのだろうと田渕は思ったが、考え誤ったようだった。


 ……と、思ったが、マリーはそこからベンチに座って、田渕達と一時間以上もお喋りをした。友達と話したくて、待ちきれずに早朝から待っていただけだったようだった。


「ボンドってば不愛想だけど、可愛い所もあるのよ! 王族を守ろうと、必死で、昔 私を助けようとして大怪我をしたとかね! あ、そうそう、でボンドだけど、スピツ王国のドラン騎士団長と長年のライバルでね、対抗心がものすごいの! だからバトルトーナメントでは、毎年、ボンドとドラン団長は、一回戦で戦うの。だって、決勝戦だと、本気になり過ぎちゃうからね!」


 マリーは、楽し気にペラペラと話す。やはり、悪だくみをするような人だとは、田渕と大家には、とても思えなかった。



「マリーさんは、結局 バトルトーナメントに参加するの?」


 田渕が尋ねると、マリーはがっくりとうな垂れ、首を横に振った。


「王族は、主賓席から動いちゃ駄目だって、血管をぴくぴくさせながらボンドに怒られた。……まあ、ローラ姉様と一緒に居れるから、我慢するけど」


「ローラ姉様って、スピツにお嫁に行った、スピツ王妃だよね。……で、じゃあ、お兄さんの、ロン様もそこにいるのかな?」


 自然にロン王子への話題に繋げられ、田渕の声は少し緊張で震えた。大家も、マリーの後ろで、田渕に親指を立てて見せ、褒め称える。


「ロン兄様は、しばらく帰って来れないからなぁ。お仕事でいないのよ」


「お……お仕事って?」


「それは言えないの! 秘密任務だからっ!」


 マリーは、ちっちっちと、人差し指を顔の前で横に振った。


「秘密……任務?」


「さすがに、それは友達でも言えないなぁ。ボンドに怒られるからね!」


 そう言いながら、マリーは非常に嬉しそうだった。


「と……友達なんだから……、っ……いや、そうなんだ……」


 一瞬、友達と言う言葉を盾に聞き出そうとした田渕だが、止めた。それは、とても友達とは言えない行為だからだ。


 しかし、田渕の考えは杞憂で、実はマリーは喋る気満々だった。


「聞きたいなら仕方がない! 実はロン兄様は、戦いの準備をしているの!」


「えっ!? 戦い!? 戦争って事?」


「うーん、戦争かどうかまでは、私には教えて貰えないの。悪い国があるってのは、聞いたんだけど」


「悪い国。戦い。そうなると、やっぱり……」


「今、兄様は、レイモンド王国にいるのは間違いないんだけどね!」


「レイモンド王国!?」


 アーサー達が見た武器は、レイモンド王国製だった。そしてレイモンド王国とは、北のスピツ王国の、東に広がる国だ。


 やはり、ロン王子の狙いはスピツ王国で、スピツ王国が隣国のレイモンド王国へ援軍を要請した時に対する妨害の根回し、もしくは、スピツ王国へ、南と東からの同時進行も考えられた。


「あっ! もうこんな時間! そろそろ仕事をしなくちゃっ! いくわよ! タブチ! オーヤ!」


 その日、上の空でマリーの手伝いをしていた田渕と大家は、何度かマリーに怒られた。



 二日目の日も暮れ、夜となった。


明日から三日間の祭りが始まる。


 田渕達は、その祭りが終わると、アスカ国やビズ国へそれぞれ戻らなければならない。地球のように、パスポートなどで滞在期間が決められている訳では無いので、残るのも自由なのだが、祭りが終わった翌日の朝には、マゼランの船が出航してしまう。それを逃せば、次の船はいつになるか分からないのだ。


戦争が起こると言うのは、武器や鎧を大量に輸入していただけの根拠しかなく、ほぼ憶測のような物だ。滞在を伸ばすにしても、もっと証拠と呼べる物が欲しい。


「城を探るしかないお。王城なら、戦争の証拠が見つからない訳が無いお」


 宿屋の四人部屋で、大家が提案するが、田渕が首を横に振る。


「前も一度失敗したけど、僕と大家さんの一番苦手な事が、建物内の侵入だよ。SF桃色戦士ハニーハウス乙は、スパイの任務はやってないんだよね」


「ショワ少佐は、基地の潜入をやったけど、地下に広がる巨大な基地だから、ほぼ屋外だお……」


 二人は、うーんと唸る。やはり、適当な技術(スキル)が無い。


 そこで、レイラが指をぱちんと鳴らしてから言う。


「タブチ、忍び込むのが苦手なら、明日は諦めたらどう?」


「諦める? 明日……は?」


「そう。で、明後日の祭りの二日目には、バトルトーナメントがあるよね? その時って、騎士団がまずトーナメント参加で抜けるし、王族も見に闘技場へ来るらしいから、王城って警備がかなり手薄になるんじゃないかな?」


「さすが……海賊系アイドル。確かに、マリーさんも主賓席で見るって言ってたね……」


 田渕が頷くと、その向かいのベッドに座る大家は、腕組みをしながら言う。


「王族がいないとなると、恐らく城の上階は無人に近いと思うお。って事で、ドローンでワタシが上階から乗り込む……が、それでもやはり、城の門番や中庭の守備兵の目を逸らして欲しいお」


「じゃあそこは僕が担当するよ。でも、どうやって注意を引こうかな。僕にはオタ芸しかないから……、門の前でそれを披露しようかな?」


 田渕が、右に左に腕を突き上げながら言うが、大家は首を傾げる。


「うーん、ちと弱い気がするお」


「良い案があるであります!」


 アーサーが、手を上げてベッドから立ち上がった。


「ずっと温めてた案でありますが、まず全裸になって、大事なところに、ペンライトを結ぶのです。それでオタ芸をやれば、まるで手が三本になったかのように、美しいライトの軌跡を描けるんじゃないかと……」


ゴンッ


 大家は一瞬気が遠くなり、こけてベッドの枠で頭を打った。


 しかし、田渕とレイラは、「悪くない」と呟く。


「……けど、夜ならともかく、さすがに明るい昼間にそれやったら、変態かな。注意を引くどころか、逆に速攻で捕まっちゃうよ」


 田渕に言われて、アーサーは「時期尚早でありましたか」とベッドに座った。


 そこで、頭をさすりながら起き上がって来た大家が、皆の顔を見回してから言う。


「おかげで、いい案が閃いたお」


 大家は、たんこぶを撫でた手のひらをに、ぎゅっと握り、にやりと笑った。




次話は 8/12 10時投稿です。

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