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28話 外伝1 仙女 前編

お久しぶりです

ミスチェル国編が始まる前に、外伝を一本どうぞ! 前・後編です。

ミスチェル編は書きあがっていますので、もう少々だけお待ちください。





森の中で這いずるようにして、地面に目を凝らす男がいた。


 茂みを手でかき分けた後、正面の木の根元を横から覗き込む。すると、艶のある緑の葉を持つ草を見つけた。


「またあった! この辺りって貴重な薬草がたっぷりだね!」


 田渕は茎を中程から折り、薬草を採取した。こうすると残した茎からまた薬草の新芽が生えて来ると聞いている。


「ルムはすぐ熱出しちゃうからなぁ。あと、大事な取引の前ですぐお腹を壊しちゃうガワ用の薬草も、もう少しいるかな……」


 田渕はきょろきょろと、整腸用の薬草を探す。


 その時……


 田渕の背後に、白狼が姿を現した。二匹、三匹と、草むらから出て数を増やす。


 白狼は、身を伏せ、猫のように足音を消してじりじりと田渕に近づいて来た。ふんふんと鼻歌交じりに薬草を探す田渕のすぐ後ろに、三匹の白狼が戦闘陣形を作る。そして、三匹はお互いに目配せをすると、一斉に田渕の背に飛び掛かって来た。


ガルルルッ


「♪私の彼を狙う親友にぃ~、天罰よっ! 覿面(てきめん)よっ!♪」


ガンッ ガンッ ガンッ


 空からスイカ程の大きさの塊が降ってきて、白狼の頭に直撃した。白狼の頭は地面にめり込み、その横に薄茶色の大きな物体が地面に転がる。


「これはっ! 肌が艶々になる薬草だ! ルムのお母さん 喜ぶぞ!」


 薬草を持って立ち上がった田渕は、後ろでぐったりしている白狼に気付いてビクッと驚いた。そして、その横に転がっている直径三十センチくらいの薄茶色の塊に目を輝かせる。


「やった! ビッグピスタチオだ! これ見つけるの難しいんだよなぁ。この木がそうだったのか」


 田渕はそばの木にちらりと目を遣った後、地面に置いてあったリュックを拾い上げ、ビッグピスタチオを二つ入れると、一つは小脇に抱えた。


 ちなみにだが、ビッグピスタチオとは、田渕達が付けた名前で、本当の名前は分からない。薄茶色の皮の中に、握りこぶし程の実があり、それがピスタチオそっくりの味がするのだ。


大変美味な木の実なのだが、鉄の如き重さと強度を持つ外殻に覆われているため、食用になるどころか、天災のような危険物だと異世界人からは認識されている。厚さ十センチの鉄の強度を持つ皮を、田渕以外には、剥いて中を確かめた者がいない。



バカンッ 


 田渕は、薄茶色の実を左右に割った。そして殻は捨て、中にあった握り飯ほどの緑の木の実を、ひとかじりする。


「美味しい! ……けど、ちょっと塩味が欲しいな」


 田渕は、塩を持っている大家を探すことにした。






「ガンガンガン、ガイグダぁーン! 空に輝くコロニーの光にぃ、ジムオンの民の顔を浮かべぇ♪ ……うーん、ちょっと字余りだお」


 大家は右手で薬草を採取すると、首から下げているタブレットを左手で操作し、その中に次々と収納していく。


「しかし、なんでこんなに薬草があるんだお? 別に魔獣が強い場所でも無いのに、冒険者は採りに来ないのかお? ビズ国って実は裕福なのかお?」


 ここはまだ、ビズ国の森の中だった。


 エンの村で、レッドインセクギリーの騒動を解決した大家と田渕は、ナンの村へ帰る前に、ビズ国の王都を観光して行こうとなった。しかし、どうやら道に迷ってしまったらしく、この薬草が多い妙な森に迷い込んでしまっていた。


大家達が暮らしているナンの村周辺は、王都が近い事もあり、低ランクの冒険者達に薬草が採りつくされているのが常なので、この機会に薬草を集めようとなった。


「もしかして私有地? ……なんて事は有るはずが無いけど、不思議だお」


 タブレットに表示される薬草の数を眺め、大家は一息ついた。


「うむ?」


 森の奥が、陰っていた。日当たりが悪いだけかと目を凝らしていたが、どうやら何かの建物があるようだった。朽ちている様子では無いので、人が住んでいるのだろうと、大家は興味本位で近づいて行く。


 少し開けた場所に、家が建っていた。小さな平屋だが、周囲には花が咲いている。悠々自適な生活といった所だろうか。


「あ、いたいた。大家さぁーん。塩 頂戴!」


 リュックを背負った田渕が大家の肩を叩く。と、同時に、一軒家にも気が付いた。


「こんな森の深い所で……。仙人かな?」


「とりあえず、賊では無さそうだお」


 家の周りには、花以外に、野菜も育ててあった。盗みで生活している人間では無さそうだった。


 大家は、田渕のリュックを中身ごとタブレットに収容した。そして剥き終えたビッグピスタチオを手渡されると、少し塩をかけてかじる。


「とりあえず入って、引き出しや樽の中からメダルでも探すかお?」


「それナンの村で最初にやって、滅茶苦茶 怒られたやつでしょ」



ガチャリ


 田渕達の話し声が聞こえたのか、家の扉が開いた。中から出て来た人を見て、大家が囁くような小声で田渕に言う。


「仙人の爺さんじゃなくて、おばさんだったお」


 現れた妙齢の女性は、大家に向かって目を吊り上げる。


「私はまだ三十九よっ! それに女性は、六十になるまでは、お姉さんなのよっ!」


 迫力に気圧され、大家は頭を下げた。


 女性は、黒に染められたミニのワンピースを着ていた。膝上ニ十センチ程の短さだが、その下に、白のショートパンツを穿いているようで、ちらちらと見える。


 去ろうかと顔を見合わせて考えている田渕と大家だが、女性は、田渕の持っている物に目を止める。


「それ……木の実? 美味しいの?」


 田渕の右手には、食べかけのビッグピスタチオがある。左手には、剥いたばかりの同じものが握られている。


「あ、はい。良かったらどうぞ……」


 田渕からピスタチオを渡された女性は、それを一かじりすると、途端に笑顔になった。


「うまっ! 何これっ! 確かに木の実の味だけど……ほんのり甘くて……」


 機嫌が良くなった女性の家に、田渕達は少し無理やりに、招き入れられた。





 一時間後、大家が出したブランデーで酔っ払い、(くだ)を巻く女性の姿があった。


「ピスタチオはもう無いのぉ~」


「あの、ピーナッツで良ければありますけど……」


「さっさと出しなさいよぉ~」


 田渕が目で合図すると、大家がタブレットを操作し、テーブルにピーナッツを出す。尚、毎度の事だが、大家は絶賛人見知り(タイム)だ。


 ピーナッツをポリポリと噛んで、女性はブランデーを喉に流し込んだ。女性には残念な話だが、ガイグダンのアニメには、酒のあてとしてはピーナッツしか登場していない。


「私は王都で楽しく暮らしてたのよぉ。でも、歳が三十を超えた頃から、「ローズ様、ご結婚は?」とか、「良い人を紹介しましょうか?」とか、皆が私の(えん)を気にし出したのよぉ。だから今はここに住んで、「あの人はああいう人だから」って、仙人を演じている訳よぉ! 分かるぅ? 結婚が全てじゃないでしょぉぉぉ!」


 田渕と大家は、苦笑いを浮かべ、話を合わせる。こうして、大人になって行くのだ。


「弟子に、お菓子とか、お酒とか、王都から持って来いって言ってるのに、あの子は滅多に来やしない!」


「い……忙しいんですよ……」


「あの子も、私に比べたら、まだまだだからねぇ。言っておくけどこの辺に魔獣が少ないのは、全部私が倒しているからだからねっ! あんた達も冒険者の端くれなら、自分を強いなんて……、ん?」


 そこで、ローズと言う女性は、眉間にしわを寄せた眠そうな目で、きょろきょろと部屋を見回す。


「なんか今日……涼しいわねぇ。あなた達が来てから、妙に温度が……」


「き……気のせいですよ! それより、話の続きを聞きたいなぁ」


「あっ! そうそう! それでね、弟子ってば、ちょっと名が売れたからって、きっと調子乗ってるのよっ!」


ピッ ピッ


 ローズが声を張り上げたのに合わせ、大家がリモコンで少し温度を上げる。テーブルの下に出した小型エアコンは、ただいま絶賛冷気を放出中だ。


「あー気持ちいい! もう秋かなぁ。夏が始まったばかりだった気がしたんだけど……」


 そう言うと、ローズはテーブルに突っ伏して寝入ってしまった。


「結局、、この人は何者なんだろう?」


 田渕が聞くと、大家は首を傾げながら答える。


「独身……を(こじ)らせてるのは間違いなさそうだお」


 日が暮れ、もう外が暗くなっていた。泥酔状態の女性を一人で放っておくのも気が引けるので、田渕と大家は、この家で一泊する事にした。





 翌朝、田渕達が目を覚ましても、ローズは寝室から起きて来ない。


 黙って去るのも愛想が無いと言う事で、田渕と大家は朝食を用意した。いつものシチューを皿に盛り、テーブルに並べた所で、ようやくローズが寝室の扉を開けた。


「良い匂いっ! 朝ごはん作ってくれたのねっ!」


 ローズはどすんと椅子に座ると、大家に手渡されたシチュー皿を手に取ってスプーンで食べる。


「よーく分かったわ。君達の気持ち、私に伝わった!」


 ローズはシチューをかっ込みながら、田渕と大家に言った。


「は……はぁ……?」

「んむ?」


 田渕と大家は、良く分からずに相槌を返す。


 ローズはシチューを平らげると、皿を置き、強い目力(めぢから)で言う。


「普段は取らないんだけど、良いでしょう! 二人とも、弟子にしてあげましょうっ!」


「えぇっ!」と、心の声を表現した田渕達の訝し気な表情を、ローズは満面の笑みで跳ね返した。





 三十分後、田渕達は川の畔に連れて来られた。そして、高さ一メートル程の木樽を川の水で満たし、家まで運ぶ事をローズに命じられた。


「ふんっ……」


ゴキン


 腰から妙な音を鳴らし、田渕は、樽の横で地面に突っ伏した。それを見た大家が首を横に振る。


「に……人間に運べる訳……ないお」


 重さ三百キロはある樽から、大家は一歩遠ざかる。


 ローズは、腰に手を当て、溜息をついた。


「これくらい技術(スキル)無しで運べて当たり前よ。あなた達、本当に戦闘職じゃないみたいねぇ」


「吟遊詩人と、絵師だお……」


「そんな職業(クラス)で私の弟子になりたいなんて……逆に良い度胸ね。ますます気に入った!」


「いや……まあ……うん……お願いするお」


 最初はこの怒涛の勘違いを断ろうかと思った田渕達だったが、このローズはどうやら徒手格闘技の専門家のようで、せっかく無料(タダ)で教えてくれると言うのだから、頼む事にした。大家は、運動神経こそ良いが動きはド素人だし、田渕の空手も見様見真似だし、この世界で生きるには先行きが不安だったのだ。


「これは、訓練と生活水を運ぶのを兼ねた良い筋トレなのにねぇ」


そう言ってから、ローズはそばにあった大木へと歩く。そして、くるりと大家に向き直り、口を開く。


「あなた達、私の弟子を名乗るのなら、最低はこのくらい出来るようになってもらうわよ」


 そう言って、ローズは自身の右側にあった木の幹に、右手で裏拳を打ち込んだ。すると、直径が五十センチ程の木の幹に亀裂が入り、大木が倒れた。


 大家は、自分の小さな拳を一瞥してからローズに聞く。


技術(スキル)は……使っちゃ、ダメ……なのだお?」


「ここにいる間は、駄目ね。地力を上げれば、技術(スキル)を使った時の結果は、倍、倍で上がるのよっ! ……まあ吟遊詩人と絵師に、倍率に影響する技術(スキル)なんてあるか分からないけども」


 腕組みをしているローズに、大家は尋ねる。


「昨日言ってたお弟子さんは……、そのお題をクリア出来るのかお?」


「もちろんよ! 地力は私より下だけど、私よりも上位職だから、技術(スキル)を使った時の倍率が、まあ憎たらしいのよね!」


 大家はそれを聞き、溜息をつく。


「ふう……。そう言えば、この間の駆け出し冒険者、パツキンショーパン娘も中々強かったし、この世界の戦闘職は化け物だお」


 そして大家は、頭を抱えた。



後編は 本日 22時投稿です。

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