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始まり

「フッ……フゥ……」


 僕は魔力を脚に集中させ、思い切り地面を蹴り、空を駆ける。幸いなことに綺麗に地面に着地することが出来た。地面に空いた穴の深さはわからないけれど、底が見えないくらいであるということだけはわかる。落ちていたら死んでいた。そう思うと、背筋が冷たくなる気がした。何かがさーっと頭から足元に下がっていくのを感じ、身震いした。多分血の気が引くというやつだろう。アリガさんの声にすぐ反応出来ていなければ……そう思うだけで震えが止まらなくなりそうだ。


「グオシャアアッ!」


 僕の耳を轟音が駆け巡る。サイレンなど比ではない。音は僕の耳を完全に貫いた。酷い耳鳴りで頭痛がする。頭が破裂してしまいそうだ。即座に治癒魔法をかける。治らないので怪我ではない。ゆっくり収まるのを待つしかないのだろうが、そんな暇などない。とりあえず敵に背中を向けてはいけない。僕は固まりつつある身体を何とか動かし、(それ)を目視する。

 そこには僕よりもはるかに大きいオークの様な魔物が聳え立っていた。体長にして三十メートルほどだろうか。変異の影響か、変形した腕は棍棒のような形をしており、所々に鋭い棘が見える。敵を一撃で殺す。その為だけの物なのだろう。あれが当たってしまったら、僕は確実に死ぬ。オークは腕を大きく振り上げる。まずい! 来る!


「ッ――」


 地面を蹴り、宙へ逃げる。予想通り、オークは腕を振り下ろし――


「グオオオ!」


 ていなかった。オークは僕に向かって、地面に叩きつけるように、振り下ろしてくるだろう。そう思ったから、それを避けるために、地面を蹴り、空へ逃げた。だが、オークが腕を振り下ろしたのは、僕が飛びあがってからだった。まず敵がどんな行動をしてくるかを確認してから、攻撃に入ったわけだ。一方僕は、敵の事をよく見もせずに、とりあえずこうしておけば大丈夫だろうと高を括っていた。オークの腕が僕の眼前に飛んでくる。避けられない!


「うおおお!」


『性質変化』で硬度を底上げした枝を握り、僕の魔力の全てを腕に集中する。僕の腕の赤黒い痣の赤みが、より赤くなっている。大きな魔力を扱うと痣が反応するのだろうか?


 今はそんなことを気にしている場合ではなかった。攻撃を避けることが出来ないのならば、こちらも攻撃をするしかない。オークの攻撃が、僕の腕が届く範囲に――


 入る!


 瞬間――


 バギンッ! と、鉄を叩いたような音が空中に響く。


「いけた……のか?」


 接触した際の衝撃はないし、僕の体も大丈夫だ。


「グガゴオオオ!」


 オークが咆哮する。しかし、先程よりも勢いがない。どうやら、僕は無傷で攻撃を何とか止めたわけではなかった。


 目を開けると、目の前にオークの腕は無かった。それに気が付いた瞬間、僕の顔に紫色の液体が掛かる。


「一体何が……」


 力を込め過ぎて目を瞑ってしまっていたので、何が起こったか分からなかった。そのまま地面へ着地。そしてオークの方へと振り返る。オークは自身の腕から大量の紫色の血液のようなものを流し、暴れ回っていた、腕には大きな穴、それを見て僕はようやく何が起こったのか理解した。


 僕は、オークの腕を突き破ったのだ。穴の大きさは人ひとりが余裕で通れるくらいの大きさだ。いくら硬度を上げたからと言って、あんな穴は空くわけがない。つまり原因は枝ではない。だとすれば、身体強化だ。僕の身体強化の魔力で、あの腕を突き破った。それ以外、考えられない。僕は自分の手のひらを見る。痣が先程よりも赤く、光っているように見えた。僕の身体強化で魔力を限界まで収束させた拳が、オークの分厚い皮膚を抉り、樹木のように太く、鉄のように固い筋肉を突き破った。もしこの仮説が正しければ――


「勝てる……!」


 地面を蹴り、空を舞う。オークはまだ痛みに意識が向いているらしく、鳴き声を上げながら暴れ回っていた。僕には完全に気が付いていない。今しかない!


「フッ――」


 僕は息を短く止め、腕に魔力を集中させる。性質変化はいらない。そちらに魔力を回すより、身体強化に回した方が、きっと良いだろう。狙うのはオークの頭部だ。


「……!」


 オークが僕に気づいたらしい。僕の方へと顔を向ける。それだ。それを待っていた。出来れば、僕に目を向けてほしかった。そうすれば、眉間にぶち込める!


 僕は思い切り、オークの眉間に拳を入れる、ドバン! とオークの頭部が破裂し、おそらく脳と血液を、花火のように散らせた。それも対策済みだ。僕は絶対に口に入らないように、すぐに両手で顔を覆い、蹲るように体を丸めた。着地は失敗しても大丈夫だ。身体強化で衝撃を軽減することが出来る。この得体のしれない、僕が今まで見たこともない形のオークの血液が口に入って病気になるよりはマシだろう。


「ぐふッ!」


 僕は背中から地面に激突する。ズキンと痛みが走るが、骨折などはしていなそうだ。身体強化は便利だなと本当に思う。ここに来ていなかったら、こんな素晴らしいものが使えない人生を送る事になっていたのかと思うと、大陸送りの刑にされて、とても良かったと思ってしまった。


「まだ覚えたばかりの身体強化をここまで使いこなすなんてね……アンタの今までの努力は無駄じゃなかったわよ」


 アリガさんが笑顔で僕に手を差し出してくれる。僕はその小さな手を握る。ゆっくり起き上がり、ふぅ。と一息つく。


「いえ、アリガさんに色々教えて頂いたからですよ。とてもわかりやすかったですし、そうやって毎日のように褒めていただけて、とてもありがたかったです!」


 言わなくてはいけない。これは僕の努力のおかげではない。確かに、使いこなせるよう努力はしていた。しかし、僕が魔法を使えるようになったのも、魔力があることに気が付けたのも、使いこなせるようになるまで努力することが出来たのも、間違いなくこの人のおかげだ。だからこそ、僕はこの人に心から感謝し、それを言葉にして伝えなくてはならない。


「うえぇ! え、えと……どうも……?」


 アリガさんは手を口元で組み、僕から目を逸らしていた。その頬は桃色に染まっており、何故だかわからないが、僕は胸の高鳴りを感じた。僕がこの謎の現象が何なのか知るのは、というか、既になんとなく答えはわかっているけれど、それを認めるのは、まだ先になりそうだ。


「それにしても、まさか私でも殺すのに苦労するアレをたった二発で殺しきるなんてね……見なさい。あれ」


 アリガさんが指さした方を見ると、先程のオークの死体が砂のように崩れ、風に流されていた。サラサラと、浄化したように流れていくその黒い砂の中に、僕は光る何かを見つける。


「ここには粒子によって姿かたちが変わってしまった生き物と、魔族が造った、もしくは魔族が変異させた生物の二種類が存在しているわ。あの赤く光っているのはコアっていってね、所謂心臓部。あれがある限り、アイツらは体を再生して、何事もなかったかのように動き出す。魔族が造った生物、生きてるのかわからないけど、とりあえず、それを殺すには、さっきみたいに脳を再生不能なまで壊すか、コアを見つけ出して壊すかのどちらかよ。基本脳を壊したほうが早いんだけど、中には脳組織が存在しない奴もいる。頭にだけでもいれておくと、役に立ったりするかもね」


 アリガさんは光を放っている球体を踏み潰す。ぱきっ。と音を立ててそれが割れると、中から赤色の煙が立ち、どこかへ消えて行った。球体はさらさらと消えてゆく。


「念のため、これも破壊しておくこと。良いわね?」


 アリガさんは僕に笑顔でそういう。


「わかりました!」


「よし! それじゃ、さっさと帰って明日に向けて色々準備でもしましょ!」


「はい!」

お読みいただきありがとうございました!


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また次回もお読みいただければ嬉しいです!


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