第80話 新米貴族は闘技場を訪れる
しばらく歩くと闘技場に到着した。
王城と並べても見劣りしないほどに巨大な建物だ。
外からでは分からないが、内部はすり鉢状となっている。
外周が観客席で、中央の空間は参加者が戦う場所だ。
普段から不定期に催しが実施されているらしい。
剣闘士による賭け試合等もあるそうだ。
周囲の人間と同じく入場しようとしたところで、オレの姿を認めた二人の兵士が駆け付けてきた。
「ルード・ダガン様。控え室までご案内します」
「ああ、分かった」
オレは素直に頷く。
兵士は生真面目な様子だが、表情が妙に硬い。
緊張を押し殺しているのだ。
本当は話しかけたくないものの、職務上、恐怖を押し殺して接触してきたに違いない。
災難なことだと思う。
「じゃあ、行ってくる」
「せっかくの晴れ舞台だ。存分に楽しみたまえ」
「ハッ、楽しめるだけ持てばいいがな」
オレはラトエッダと軽口を交わすと、彼女と三人の王を置いて歩き出した。
二人の兵士に従って、場内の観客席とは異なる場所へと進んでいく。
薄暗い廊下を歩きながら、オレはふと考えて質問する。
「ランクレイはもう来ているのか?」
「いや、その……」
「口止めされているんだな」
「も、申し訳ありません」
兵士は泣きそうだった。
まさか殺されるとでも思ったのか。
確かに機嫌次第で手にかけることはあるが、さすがにこれだけで腹を立てるほど短気でもない。
「気にすんなよ。どうでもいいことだ」
そう時間もかからずに控え室に着いた。
合図があるまではここで待機しておけばいいらしい。
逃げるようにして立ち去った兵士達を横目に、オレは室内を調べる。
高級な部屋だ。
まるで貴族の私室である。
なんとなく急ごしらえといった感じがするので、わざわざ用意したのだろう。
壁際の棚には、いくつもの酒が用意されていた。
ハムやナッツといったつまみもある。
給仕を呼ぶための魔道具もあり、他の料理も頼めそうだった。
酒やつまみの臭いを嗅ぐも、毒は仕込まれていない。
とりあえずランクレイからの罠ではないようだ。
別に服毒で死ぬことはないが、味が台無しになるから嫌いである。
とりあえず室内の物を飲み食いしつつ、オレは時間を過ごした。
そのうち扉とは正反対の位置に設けられた空間に注目する。
大きく盛り上がったそこには布がかけられていた。
何かが山積みにされているらしい。
気になったので布を掴んでめくり上げる。
筒状の大きな容器が置かれており、そこに多種多様な武器が乱雑に差し込まれていた。
新品から血で汚れた代物まで、かなり綿密に揃えられている。
決闘に際して自由に使っていいということだろう。
「悪くないな」
国王も準備がいい。
ちょうど丸腰で来ていたのだ。
本番までに吟味して、ありがたく使わせてもらおうと思う。




