第58話 新米貴族は蔑みを受ける
准伯爵が仮面を観察する。
興味深そうに表裏を触ったり、指で叩いて材質を確かめている。
僕は反射的に取り返そうと。手を伸ばした。
仮面は僕の生命線だ。
奪われると困る。
ルードの存在は悩みの種で、彼には散々に振り回されている。
しかし、欠かせない力には違いなかった。
もしルードがいなくなったら、僕は間違いなく破滅するだろう。
だから仮面を取られるわけにはいかない。
ところが准伯爵は僕の手を掴むと、凄まじい勢いで捻ってきた。
「……ッ!?」
激痛のあまり、膝から崩れて前のめりになる。
顔面を机にぶつけて視界が明滅した。
痛みのせいで抵抗できない。
視界の端では、子爵が立つのが見えた。
拘束された僕を前に動けないようだ。
続けて背中に衝撃が走る。
どうやら踏まれているらしい。
現在の僕はうつ伏せで机に押し付けられていた。
准伯爵はそのままの姿勢で平然と語る。
「仮面の異能も、これを奪われたら終わりですわね。実にあっけない。隙だらけで簡単だったわ」
腕の痛みがだんだんと強くなってきた。
准伯爵の声は、少しの変化も見せずに話を続ける。
「ルード・ダガンの秘密は噂になっているけれど、この様子だと本当のようね。あの狂戦士の正体が、まさかこんな男だったなんて」
顔の真横に准伯爵の脚が突き刺さる。
あまりの勢いに肝を冷やす。
もしも直撃していればただでは済まなかったろう。
「期待外れですわ。いつか殺してやろうと思ったのに、その価値もない」
准伯爵の声は失望に満ちていた。
彼女はなぜかルードとの戦いを望んでいたようだ。
面識は無いはずだが、何かあったのだろうか。
「ロードレス領を支配できたのも何かの偶然ね。この程度の男の癖に、わたくしの予定を崩すなんて不愉快。利用すらできないグズね」
「彼を解放してくれ。無意味な暴力だ」
「嫌と言ったらどうしますの?」
准伯爵が力をさらに込める。
骨の軋みを聞きながら、僕は机を何度も叩いた。
対する彼女は耳元で優しく囁いてくる。
「もう手荒な真似はしないように。ご理解できました?」
「す、すみません……分かりました」
僕が謝罪を告げると、准伯爵は満足して手を離した。
解放された僕は捻られた腕を押さえる。
慎重に肩を回すも、骨は折れていないようだ。




