第40話 新米貴族は炎王を律する
炎王がグラスを傾ける。
何度かに分けながら酒を飲み干して、熱い吐息を洩らした。
しばらく無言になった後、視線だけをオレに向けてくる。
「――何が望みだ」
「分からん。とりあえず資産を残らず寄越せ。そうそう、あんたの領地にも行きたいな」
オレは肩をすくめて応じる。
炎王の利用価値はそれなりに理解しているつもりだ。
殺すより生かすべきなのは確定しているが、具体的にはあまり深く考えていなかった。
ロードレス領の状況は知らないものの、炎王はそれなりの資産を所持しているはずだ。
本来なら配下だって大勢抱えている上に、広大な土地を支配していると聞いている。
炎王に勝利したということは、つまりそれらがオレの私物になるのではないか。
今は無傷だが、オレだって何度か死ぬほどの火傷と裂傷を負わされたのだ。
慰謝料請求を兼ねて、是非とも資産を見せてほしいものである。
オレは炎王のグラスに酒の追加を注ぎつつ、その顔を指差した。
「あんたは敗者だ。逆らう権利はない。大人しく従ってくれよな」
「傍若無人な奴め」
「だから狂戦士と呼ばれているのさ」
炎王とのやり取りを楽しんでいると、扉が開いてラトエッダが登場した。
用事を済ませて様子を見に来たらしい。
ラトエッダは炎王を見やると、ひらひらと手を振った。
「起きたのか」
「ああ、ちょうど挨拶していたところさ」
オレ達が話す間、炎王は不機嫌そうに酒を飲んでいた。
表情からは分からないが、意外と酒好きなのかもしれない。
ラトエッダが炎王のそばに近付いてきた。
僅かに揺らめいた熱も気にせず、彼女は話を切り出す。
「我々に従うつもりになったかね」
「……どうだろうな」
「反発するのも当然だ。このような扱いを望んではいまい」
涼しい顔のラトエッダは、いきなりオレの服を引っ張ってきた。
そして得意げな調子で炎王に語る。
「この男は革命者だ。ロードレスの勢力図を塗り変える。いずれ世界全土へと進みゆくだろう」
「大げさに言うなよ」
「私は本気でそうなると思っているのだがね」
オレの批難めいた視線を無視して、ラトエッダは平然と頷いてみせる。
この女はオレのことを利用するつもりだ。
それは知っていたが、想像以上に壮大な計画を思い描いているらしい。
こいつはエリスの味方である。
貴族としての立場を確立するため、オレの脅威と能力を逆手に取っている。
非常に腹立たしいことだが、オレの欲望と合致していた。
だから感情的になって反発する意味は無かった。
「こいつの言葉は気にしなくていい。とにかく身の振り方を考えておけ」
「…………」
オレは黙り込む炎王に酒瓶を押し付けると、舌打ちを残して部屋を出た。




