第35話 新米貴族は炎王と衝突する
オレの変貌を見届けた炎王は呆然としていた。
少し経って我に返ると、野郎は怪訝そうに唸る。
「その姿……仮面の異能か」
「ちょいと違うが、訂正する義理もねぇな。これから死ぬ人間が知ってどうする?」
オレは仮面の下で笑みを浮かべていた。
剣を弄びながら口笛を吹いてみせる。
炎王は暫し沈黙したのちに、全身から熱を放出させた。
彼は周囲の空間を歪ませかねないほどの力を帯びながら笑う。
そこには煮え滾った怒りが込められていた。
「ロードレスの人間でもない癖に言ってくれる。よほど自信があるようだなァ……」
「そりゃそうさ。殺し合いは得意分野だ。炎王だか何だか知らないが、ぶち殺してやるよ」
俺は気楽に応じる。
この展開には予想が付いていた。
ロードレス領の王が務まるような人間だ。
平和的な話し合いなんて絶対に不可能に決まっている。
怯えたエリスには、オレを呼び出すしか手が残されていなかった。
前に立つ子爵ラトエッダがオレを一瞥すると、構えを解かずに口を動かす。
「思ったより早い再会だな、ルード・ダガン」
「子守りくらいしとけよ、クソ女」
オレが悪態を返せば、ラトエッダはただ肩をすくめた。
そして徐々に後退してくると、オレと並ぶ位置まで戻ってくる。
「君が現れたということは、私は参戦しなくていいのかな」
「当たり前だろうが。横取りしたら殺す」
オレは睨みながら答える。
素直に頷いたラトエッダは、優雅に後ろへ下がっていった。
戦気を霧散させているようなので、殺し合いに参加するつもりはないようだ。
自分に危害が及ぶと考えていないのだろう。
その態度に苛立ちを覚えるも、今はどうでもいいことだ。
目の前に極上の獲物が待っているのだ。
オレは指を振って炎王を挑発する。
「さあ、殺り合おうぜ」
「…………」
炎王が俯いて黙り込む。
直後、前触れもなく突進を始めた。
人間の限界を超えた速度で接近してくる。
(炎を推進力に使ったのか)
オレは炎を噴射する炎王の脚に注目する。
自らの能力を最大限に活用している。
本来なら自滅しかねない速度だった。
しかし戦闘の達人である炎王は、その駆動を完璧に操っている。
「ヌゥンッ!」
大上段から大剣が打ち込まれる。
赤熱した刃には、相手の攻防を切り裂けるだけの威力があった。
剣だろうが盾だろうが鎧だろうが構わず切断できる。
なかなかに悪辣な異能であった。
だがしかし、オレには通用しない。
必殺の一撃に対し、オレが取った行動は片手を上げることだ。
迫る刃を五指と手のひらで受け止める。
勢い余って手首まで真っ二つにされたが、燃える斬撃はそこで止まっていた。
驚愕する炎王を前に、オレは冷淡に告げる。
「舐めてんのか? もっと本気でかかってこいよ」




