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人形世界  作者: 鳥家ろく
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2/3

購入

夢を見ていました。


お母さんとお父さんと小さな妹と


いつも遊ぶ公園の帰り道。


右手に妹の手、左手にお父さんの手を握っていた。


お母さんは妹の右手を握っていた。


妹はさっき公園で転んでできてしまった膝の擦り傷を触ろうとしている。


お母さんがばいきんが入るからだめよとしっかりと手を握る。


お父さんを見上げると背の高いお父さんは私を見下ろして微笑んでいた。


「ツバキ……、………、……。」


なぁにお父さん、よく聞こえなかったからもう一回言って


お父さんは悲しそうな顔をしてしまう。


どうしたのお父さん、ねぇお母さん、お父さん悲しそうなの


右を見るとお母さんも妹もいなかった。


左をあわててみると涙を流して私を抱き締めたお父さんがいた。


「ツバキ……ツバ…キ……バ……ツ…」


私の名前を何度も何度も呼ぶお父さん。


お父さん、大丈夫だよ、どうしたの、お母さんは?


背中に手を回そうとするとお父さんは私を突き放した。


走り去っていくお父さんの背中。


待って


待って置いてかないで


お父さん!


お父さん!!


どんどん離れていく距離


近づけない


お父さん…


もう一回だけでいいから…


私の名前


呼んで……


――――――

―――――――――

―――――――――――――――――


「ミライ!お誕生日おめでとう!!」


私は今日17の誕生日を迎えた。


「ありがとう、パパ、ママ」


ホールケーキにはチョコのプレートに[HAPPY BIRTHDAY MIRAI]

と書かれている。


「ミライはもう私たちのもとに来て17年になるのね!」


パパとママとは言うが実際にママのおなかから生まれたわけではない。私たちはロボットだから。


ロボット同士の夫妻が子育てをしたいと思ったときにロボットの生産工場へ行き見た目のパーツを選んだりや性格や心といったプログラムをオーダーメイドで注文し、作られたのが子どもとなるのだ。


「ミライ、ずっと前から人形が欲しいって言っていたよね」


「うん、でもなかなか欲しいタイプが見つからなくてね」


「パパこの前会社から取引先まで行って帰る途中に古い人形専門店を見つけてね」


ケーキをつついていた私はパパの顔を見上げる。


にこやかにパパは「そこにね、ミライが欲しい欲しいって言ってたタイプの人形が窓から見えたんだよ!」


びっくりした。私が欲しいタイプの人形は純日本人タイプの人形だ。


一度テレビで見て美しい黒い髪に吸い込まれてしまいそうな暗い黒の瞳。白くもなく黒くもない肌。


Caucasoid(コーカソイド:類白色人種群)に比べれば鼻は少し低いしぱっとしない顔立ちだけど素朴な可愛らしさに惹かれた。


「純日本人タイプってすごく珍しいんでしょ?高くないかしら…」


ママは普通の人形でも高いから買ってくれないのに純日本人タイプという希少なものなんて絶対買わないし買えないと言っていた。


しかしパパは「もうミライは17なんだし、買ってあげてもいいと思うよ。それに、あんな古い店だったらそんなに高くないだろう」


「か、買ってくれるの!?」頭の中が熱くなっていく。なかなかの興奮状態になってしまっている。


「うん、買ってあげよう。今からでも見に行くかな?」


「行く!すぐ行かないと無くなっちゃうよ!!」


嬉しい。嬉しい!!ずっとずっと欲しかった人形がもうすぐ手に入るなんて考えたらあぁもうなんて私って幸せな子なんだろう!!


パパの運転する車に乗りこんだ私はどんな見た目なのかどんな服を着せてあげようかなどをたくさんたくさん考えていた。




ついたお店は本当に古かった。


まずショーウィンドウというか中くらいの窓だった。それが小さいし汚い。よくパパはここから中が見えたものだ。


蜘蛛の巣やほこりで薄汚れている。


ガランガランガラン・・・ガラン・・・


ドアを開けると重くどちらかといえば汚い空気が押し寄せてきた。


「すいませーん。だれかいませんかー?すーいませーん!」


パパが大きな声でレジカウンターの奥に呼びかけても返事はない。ほんとうに?こんなところに人形が?


店内は天井に安物そうなシャンデリアがぶら下がっているが暗く四つある電球の一つは割れてしまっている。どうしたらシャンデリアが割れるのか。


見回すと棚にはたくさんの透明の箱が置いてあった。中をのぞくと古くなったお菓子が箱ごとにはいっている。お菓子屋さんだったのかな?


「誰もいないじゃない…こんなとこに人形がいたの?本当に?」


ママはパパの肩を小突く。


「いたんだよ間違いなくレジカウンターの横の、ほらこの椅子に座ってたんだよ!」


そこには丸椅子がぽつんと置いてあるだけだった。たしかに、ここだけほこりは少ない。


「もしかして休みだったとか?でもドアは開いてたし…」


その時


『購入希望の方ですか?』


レジカウンター奥から声が聞こえた。


「あっ、そうでーす!おねがいしまーす!」


パパはカウンターから身を乗り出し奥に声をかける。


『……少々お待ちください』


女の子の声だった。少し低めでちょっと、怒ったような…


『お待たせいたしました。』


奥から出てきた少女。


風が吹いたように感じた。


いや店内に風は吹かない。なぜそう感じたのか。


私は出てきた少女をみてぞわっとしたのだ。


黒い髪は腰まで伸びていた。黒い瞳を携えた目はぱっちりとしていてまつ毛は暗い店内の明かりでも分かるくらい長い。普通のMongoloid(モンゴロイド:類モンゴル人種群)に比べると白い肌。黒い飾り気のないシンプルすぎるワンピース。


「えっと……人形…なのか?」


パパがおそるおそる少女に話しかける。ママは少女をただじっとみつめている。


『はい…この店最後の…人形です。』


パパはぱっとこちらを振り返り「よかった!まだあったよミライ!」と笑った。


また少女に向き直り「えっと……お店の…クラークとかはいる?」と少女に聞いた。


『店員はいません。私が、私自身を売っています。』少し震えたような声で答える少女。


「そうか!じゃあぜひきみを買い取りたいんだけれど…きみいくら?」


なんだか人形自身に値段を聞くのは不思議な光景だ。


 『私…私は………じゃあ…30万』


「さ、さんじゅうまん!?」私は叫んでしまった。


驚いたように振り返るパパとママ


「どうしたんだ?ミライ。人形で30万なら普通じゃないか、大丈夫だお金の心配はいらないよ」


ちがう、ちがうのだ。純日本人タイプは安くても60万代から、こんなに綺麗な人形なら100万単位になってもおかしくない。安い、安すぎる。


私は少女の前に出る。少女は私とほとんどおなじ身長だった。


「あなた、あなたね!………」そこで、はっとした。私は、何を言おうとしたんだろう。


安ければ安いほどいいのに、どうして、それを



咎 め よ う と し た ?



『あの、なにか?』少女は首をかしげ私を見つめる。


パパもママもきょとんとしている。変な空気。


「あ、いや、えっと……」


自分の行動に自分でも理解できないなんてどうかしてる。


なんとか取り繕うと必死に考え…


「あ、あなた!名前なんていうの!?」


『私……ツバキ、木偏に春で”椿”』


「私はミライ!よろしくね!椿!」


私はにっこり笑って彼女の手を取って握った。


しかし、椿は私に手を取られ握られたまま握り返すことはなく。


『うん』


とつぶやいただけだった。


彼女に30万を手渡すと彼女は荷物を持ってくるといい、奥の部屋に消えた。


「いやあ、ミライが日本人は高いっていうから100万も持ってきたけどだいぶ安く済んでよかった!」


「そうね、50万もいかないなんて思わなかったわ」


パパとママは人形が安く済んだことに安心しているみたいだった。私はさっき手に取った椿の手の冷たさをぼんやりと思い出していた。


『用意が済みました。いつでも大丈夫です。』


小さなボストンバッグを提げた椿があらわれた。変わっているのはティアドロップ型のペンダントを首にかけたことくらいだった。


「よし、じゃあ早速うちにいこうか!」


「今日からついにうちにもお人形ねー」


パパとママが店から出る後ろからついていく。


すると後ろから


「さよなら、お父さん、お母さん、らん」


とつぶやく椿の声が聞こえた。


ここはきっと、椿の家だったのだ……。


車に乗り暗い雲に覆われた空を見上げた。椿が横に座る。


「…くもってるね」と話しかけると横目でちらと私を見た後に『そうね』とぼそりとつぶやいた。


雲は厚く、日の光はしばらく差しそうに、無い。



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