私は饅頭を食べ終え、口元についた粉を払い落とした
やはり、彼らは曹操軍の者だった。
しかも、袁紹軍の中に入り込み、兵士に扮して陣地を巡回していたのだ。先ほど私が考えていた地形や陣形の問題も、曹操軍はすでに調べているのかもしれない。
――まずい。
私は思わず身を縮めた。
その拍子に、膝が地面の小枝に触れてしまった。
カサッ。
小さな音だったが、静かな道端では妙にはっきりと響いた。
しまった!
先頭の男が、すばやくこちらへ顔を向けた。
鋭い目が、まっすぐ私の隠れている茂みを捉えたように見えた。
私は息を止めた。
その瞬間――。
ガサガサッ!
私のすぐそばの茂みから、一匹の鼠が飛び出した。
驚いた鼠は草むらを駆け抜け、反対側の藪へと逃げ込んでいく。
「ははっ、鼠か」
騎兵の一人が笑った。
「この辺りは沼地だからな。いくらでもいるだろう」
先頭の男も、わずかに口元を緩めた。
「そうだな。では戻るぞ」
三人は再び馬に乗り、ゆっくりと歩き始めた。
私は木の陰に身を伏せたまま、動くことができなかった。
助かった……。
心の中で、あの鼠に何度も礼を言った。
もしあの鼠が飛び出してくれなかったら、私は間違いなく見つかっていたかもしれない。
三人の馬の蹄の音が、少しずつ遠ざかっていく。
私は念のため、かなり長い間その場に留まった。
やがて、草むらの向こうから彼らの姿が見えなくなったころ、ようやくゆっくりと立ち上がった。
遠くを見渡すと、三騎は大きく迂回した道を進み、やがて曹操軍の方角へと向かっていた。
私はその後ろ姿を見送りながら、先ほど聞いた名前をもう一度思い返した。
楽進。
袁紹軍の中にまで入り込み、何食わぬ顔で偵察をしていたのか。
まったく、奇想天外なことをする男だ。
大胆というべきか、それとも無謀というべきか……いや、あれは無謀ではない。自分の腕と判断に相当な自信があるのだろう。敵の大軍の中を歩き回りながら、少しも慌てる様子がなかった。
しかも、こちらが気づいていないことまで、あの男はすでに知っているのかもしれない。
――楽進か。なるほど、曹操軍にはこういう将軍もいるのだな。
私は急いで駐屯地へ戻ることにした。
昨日徐進に話した危険は、私の思い過ごしではないのかもしれない。
曹操は、こちらが考えている以上に、戦場を見ている。
だが、もう一度上司の徐進に話をしても意味があるだろうか。
徐進も私の言葉を理解していないわけではないだろうが、彼には彼の立場がある。私たち収屍部隊の意見が、文丑や本陣の参謀たちに届くとは思えなかった。
私はしばらく考えた。
――劉備なら、どうだろう。
劉備は文丑の第三陣に編入されている。彼の軍勢は左後方に位置しており、文丑の本隊とは少し離れている。もし劉備本人に直接話すことができれば、何らかの形でこの危険を伝えられるかもしれない。
もちろん、私の話を聞いてくれる保証はない。
それでも、徐進の天幕で同じ話を繰り返すよりは可能性がある。
劉備本人でなくても、彼の側近や配下の誰かを通じて、話が伝わるかもしれない。
わずかな望みでも、試す価値はある。
私はいったん自分の駐屯地へ戻った。
そこで愛用の驢馬を引き出し、鞍を整える。出発する前に、収屍隊の食堂へ立ち寄った。
「馮傑、饅頭を二つもらえるか?」
「隊長、もう食べるんですか?」
「少し出かける。戻るまで腹が持たないからな」
馮傑は不思議そうな顔をしながらも、蒸し上がった饅頭を二つ渡してくれた。
私は礼を言って驢馬にまたがった。
袁紹軍の大営の中を進み、劉備の軍が配置されている左後方の陣地を目指す。
道中、饅頭を一つ取り出してかじった。
まだ温かく、腹が減っていたこともあって、思いのほかうまかった。
もう一つも少しずつ食べながら、私は劉備に何をどう説明するべきか考えていた。
楽進が袁紹軍の中に潜り込んでいたこと。曹操軍がこちらの陣形や地形を調べている可能性。そして、文丑の陣形には大きな危険があること。
どれも、証拠を示すのは難しい。
それでも、何も伝えないよりはいい。
驢馬を進めること、およそ一刻。
ようやく劉備の軍が駐屯する左後方の陣地が見えてきた。
私は饅頭を食べ終え、口元についた粉を払い落とした。
さて、劉備は私の話を聞いてくれるだろうか。




