87話 トパーズのダンジョン04
第二十一階層、突入。
通路には、ジャイアントディアーが溢れていた。
また、その長い足に隠れるように、アイアンディアー、キャノンディアー、バリアーディアーもさ迷っていた。
「行くぞ」
ハートの結界が、キャノンディアーとバリアーディアーを包み込み、その動きを封じる。
ジャイアントディアーとアイアンディアーが突進してくるが、軽やかに躱して、そのままダンジョンの奥へと走る。
第二十一階層、突破。
第二十二階層、突破。
第二十三階層、突破。
第二十四階層、突破。
「ジャイアントディアーの数が減ってきたな」
「バリアーディアーの結界張るのに邪魔なことに気づいたんだろ」
ジャイアントディアーの攻撃力は、他のディアーを上回る。
が、体が大きい分だけ、結界を張ることのできる空間を小さくしてしまい、邪魔になる。
バリアーディアーが張り方を間違えれば、ジャイアントディアーの動きを止めかねない。
「それで、代わりに投入されたのが、スルーディアーというわけですな」
スルーディアー。
結界をすり抜ける能力を持つディアー。
バリアーディアーとハートの貼った結界を、すり抜け、ラウンドたちに突進してくる。
「弱いのだけが幸いだな」
もっとも、純粋な戦闘力はディアーと同程度である。
そうであれば、ラウンドたちの敵ではない。
向かってくるスルーディアーを、次から次へと倒していく。
第二十五階層、突破。
第二十六階層、突破。
第二十七階層、突破。
第二十八階層、突破。
第二十九階層、突破。
第三十階層、突入。
フロアボス――サンダーミノタウロス
「ぶもおおおお」
雄たけびと共に、サンダーミノタウロスの持つ斧へ雷が集まる。
ペアシェイプがすぐに銃で足を狙い撃つも、斧から放たれた雷によって銃弾が消滅する。
さらに、斧から雷が複数降り注ぎ、ラウンドたちを襲う。
ゴロゴロという音よりも速く、雷光が降り注ぐ。
が、即座にハートが結界を張り、すべての雷を防ぎきる。
「遠距離攻撃もちか」
サンダーミノタウロスが、雷を帯びた斧を八の字に振り回すと、目の前に八の字をした雷の塊が現れる。
ペアシェイプが再び打った銃弾を、バリバリという音とともに放電した雷が消滅させる。
近づく者を自動的に雷撃する雷の盾。
「まあ、関係ない」
ラウンドは、雷の魔法を使い、手に雷を纏わせる。
手に纏わりつく雷光は、どんどん大きく、どんどん輝きを増していく。
「も、もう!?」
サンダーミノタウロスがたじろぐほどに。
雷を自身が使役する故に分かる、雷の大きさの違い。
「消えろ」
轟音とともに、雷が放たれる。
八の字をした雷の塊が放電を増し、ラウンドの放った雷を抑えようとするも、あっさりと飲み込まれてしまう。
「ぶもおおおおおおお!!」
サンダーミノタウロスは斧を振り上げる。
振り上げた斧に、さっきよりもさらに大きな雷がまとわりつく。
そのまま斧を振り下ろし、雷が砲弾のように放たれる。
が、拮抗することなく、ラウンドの放った雷に飲み込まれる。
ラウンドの放った雷は、さらに大きな塊へと成長する。
目を見開くサンダーミノタウロスを、断末魔をあげさせる暇もなく飲み込み、消滅させた。
壁にぶつかり、ゴロゴロといった雷鳴が響く。
「いくぞ」
そのまま、出現した階層への階段を駆け下りる。
第三十階層、突破。
第三十一階層、突入。
ラウンドたちの足音に、無数のミノタウロスが振り返る。
斧を構え、じりじりと近づいてくる。
同時に、銃声が鳴り響く。
ペアシェイプがミノタウロスの足を次から次へと撃ち抜き、跪かせる。
跪いたミノタウロスは片手を動かし、その脇を走り抜けようとするラウンドたちに、斧を振る。
ラウンドは横から向かってきた斧を跳び躱し、着地と同時に斧ごと肩を斬り落とす。
「ぶもおおおおお!?」
肩から血が噴き出て、ミノタウロスは悶絶する。
止めを刺すことなく、ラウンドたちは走り抜ける。
第三十一階層、突破。
第三十二階層、突破。
第三十三階層、突破。
第三十四階層、突破。
第三十五階層、突破。
「なあマスター、トパーズのダンジョンの試練って、結局何なんだろうな?」
ミノタウロスを斬り捨て、走り進んでいた時、オーバルがふとした疑問を口にする。
ダンジョンには、魔物と戦いながら下層へと降りていくという共通の性質に加え、ダンジョンごとに試練と呼ばれる固有の性質がある。
オパールのダンジョンは創造の試練。
魔物や事象が現実として創造された。
ベリドットのダンジョンは夫婦の幸福の試練。
男女が親密であることを強制された。
アメシストのダンジョンは真実の愛の試練。
最も大切なものを守ることを強制された。
ジルコンのダンジョンは無限の試練。
魔物も空間も無限となって襲ってきた。
アクアマリンのダンジョンは幸福の試練。
幸福の中での永遠の眠りを誘ってきた。
ガーネットのダンジョンは生命力の試練。
莫大な生命力を持つ個が襲ってきた。
が、トパーズのダンジョン、誠実の試練は、未だにその全容を見せない。
見せないままに、ダンジョンの半分を攻略しそうな場所まで来ていた。
「さあな」
ラウンドも、同様の疑問は持っていたが、考えてはいなかった。
すべては試練が起きた時に考えればいいと、無視していた。
そもそもトパーズのダンジョンは、歴史上数人しか討伐実績がなく、その試練の内容について明確に記載されている書物がなかった。
討伐実績があり、なおかつ現存している唯一の人間としてエメラルドの名があげられる。
ラウンドはエメラルドと接触を試みたが、ガーネットのダンジョンで負傷をしたこともあり、ハンターギルド・ステップとして丁重に断られていた。
無理にでも聞いておけばよかったと後悔する部分がなくはないが、考えても仕方なく、現状ある手札で戦略を考える。
第三十六階層、突破。
「固有の試練を使わないことこそが誠実であり、この現状こそがトパーズのダンジョンにとって試練である、という仮説はどうですかな」
「楽観的だが悪くない仮説だ」
第三十七階層、突破。
第三十八階層、突破。
第三十九階層、突破。
第四十階層、突入。
フロアボス――ワンツースリーミノタウロス。
「見た目はただのミノタウロスだが……」
ラウンドが観察している横で、ペアシェイプがワンツースリーミノタウロスの膝を狙撃する。
ドンッドンッ。
二発の銃声と共に、一発が左膝を撃ち抜く。
続く二発目。
「……貫通……しない?」
まるで防弾チョッキのように、右膝は銃弾を優しく受け止め、そのまま銃弾が地面に落下した。
ペアシェイプは再び銃を構え、顔へ、腕へ、腹部へと撃ち込んでいくが、そのすべてがワンツースリーミノタウロスの皮膚によって止められた。
「左膝が弱点だったのでしょうか?」
状況を見つめるペアシェイプの目の前で、ワンツースリーミノタウロスは回復魔法を使い、自身の左襞を回復させた。
傷もなく塞がった左足を、具合を確かめるようにとんとんと地面を叩く。
ペアシェイプは、回復したその左足を再度狙い撃つが、それさえも皮膚によって止められる。
ラウンド、オーバル、オールドマインが駆け出し、ワンツースリーミノタウロスへと接近する。
ワンツースリーミノタウロスは手に持つ斧を構えてそれを向かい打つ。
左、前、右と、サンテに分かれたラウンドたちに対抗するため、ワンツースリーミノタウロスは八の字に斧を振り回す。
拘束に振り回されるその斧は、残像で壁のようにさえ見える。
「それは見覚えがあるな」
オーバルの剣が斧に突っ込み、斧の動きを止める。
がら空きの前と右から、ラウンドが大剣を振り下ろし、オールドマインが突きを放つ。
ミノタウロスは、斧を持っていないもう片方の手でラウンドの大剣を防ぐ構えを見せる。
が、大剣はその腕を斬り落とす。
「仕留めきれなかったか」
腕を斬ったことで威力が落ちた大剣は、ワンツースリーミノタウロスの頭部を真っ二つにするまでに至らず、額まで裂いたところで止まった。
「ぶもおおおおお!!」
痛みのあまり声をあげるワンツースリーミノタウロスを、次はオールドマインの拳が貫く。
拳によって吹き飛ばされたワンツースリーミノタウロスは、壁に激突し、ぐったりと座り込む。
「終わりだ」
すかさず、ラウンドとオーバルが駆け寄り、止めの剣を振り下ろす。
きいん。
そしてそれははじかれた。
ワンツースリーミノタウロスの皮膚によって。
「!? 全員、いったん攻撃をやめろ!!」
ラウンドの叫び声で、ラウンドとオーバルはワンツースリーミノタウロスから距離をとる。
回復魔法で回復を始めるワンツースリーミノタウロスを、遠くからただ眺めた。
「マスター?」
「全員の攻撃が、初撃以外きいてねえ。つまり、あいつの能力は……」
ワンツースリーミノタウロス。
能力はワンツースリー。
自身が受けた攻撃に対して即座に耐性を作り、二度と聞かない体へと進化する。
一度撃たれたペアシェイプの銃弾はもうきかない。
一度斬られたラウンドの大剣はもうきかない。
一度突かれたオールドマインの突きはもうきかない。
「オーバル、一撃で仕留めろ。俺が動きを止める」
「了解」
ならば、一撃で倒せばいい。
ガーネットのダンジョンの対策がそのまま活きる。
ラウンドが大剣をしまい、ワンツースリーミノタウロスへ突撃する。
振り回される斧をかいくぐり、その体を締め上げ、身動きを封じる。
「ぶも!? もおお!!」
締めであれば進化しないのか、それとも締めを抜けられる体質に進化するのか、それはわからない。
なので、ここからは進化する前に倒し切れるかのスピード勝負。
無防備に晒した首に――否、ラウンドによって晒された首に、オーバルが全力で剣を叩き込む。
「いくぞ」
第四十階層、突破。




