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78話 ガーネットのダンジョン06

 ガーネットのダンジョン封印から、七百分。

 

 結界が、大きく揺らぐ。

 

『おやぁ? そろそろ、割れそうでありんすね』

 

 七百分、結界を攻撃し続けていたとは思えないほどに元気な声で、傷一つない体で、ガーネットのダンジョンは笑った。

 

 ドン。

 

 ドン。

 

 ドン。

 

 パキイイン。

 

 結界が、割れた。

 

『あっはっはっはっは!』

 

 結界の中から、黒い影が飛び出す。

 真紅の髪の毛を振りまき、弾丸のごとくスクウェアステップの方へと。

 

「予想通り! プランA!」

 

「「「はっ!」」」

 

 ガーネットのダンジョンは直情型である。

 最も殺したい相手を真っ先に狙ってくることは、先の戦いとバゲットからの情報でわかっていた。

 ならば、今この場で最も殺したい相手は誰か。

 結界に閉じ込め、あげくその言葉を無視し続けたスクウェアステップだと予想し、それは当たった。

 

 ガーネットのダンジョンの体は硬い。

 硬いうえに、即座に回復する厄介さを併せ持つ。

 ならばこちらは、ガーネットのダンジョンの硬さを貫く一撃を、致命傷以上の即死攻撃で放たなければならない。

 それを実現するために、使えるものをすべて使う。

 

 スクウェアステップの背後に控える弓矢隊は、既に弓を引き終えている。

 商人隊は、魔物を一発で倒すことに特化した最高品質の弓矢を準備した。

 魔法隊は、その弓矢に攻撃力向上の魔法をかけた。

 スクウェアステップの左右に展開する特攻隊は、剣を振りかぶり終えている。

 守備隊は、ガーネットのダンジョンの進路がぶれないように通り道を作る。

 盗賊隊は、万が一に進路がぶれた場合、もとの進路に戻す罠をはる。

 ステップのメンバーたちも、それぞれの職業にあった隊に合流し、共闘する。

 

 スクウェアステップとガーネットのダンジョンの視線がぶつかる。

 

『何か企んでるのでありんすかぁ?』

 

「今よ!」

 

 スクウェアステップの合図で、矢が放たれる。剣が振られる。

 豪雨のように、刃がガーネットのダンジョンに降り注ぐ。

 ただの矢であれば、剣であれば、ガーネットのダンジョンの硬度の前にはじかれた可能性が高い。

 だから利用した。

 向かってくるガーネットのダンジョンの速度を。

 その速度が、刃を体に突き立てるための威力を増幅してくれる。

 

 そして後は祈る。

 その心臓を貫くことを。

 

『結界』

 

 ギギギギギイン。

 

 が、無数の音とともに、刃は防がれた。

 ガーネットのダンジョンを一瞬で包み込んだ結界が、矢も剣もはじき返す。

 

 スクウェアステップが、そこにいたハンターたちが、その光景に目を丸くする。

 

 言い忘れていたが、ガーネットのダンジョンの職業は武闘家。

 だが、剣も使えるし、魔法も使える。

 武闘家を選んだのは、最も性に合っていたから、最も生を感じる戦い方ができるから。

 だから魔法は、なるべく使わないようにしている。していた。

 ガーネットのダンジョンは、攻撃魔法が使える。

 ガーネットのダンジョンは、防御魔法が使える。

 ガーネットのダンジョンは、固有魔法が使える。

 既に攻撃魔法は使ってしまった。

 ならば、彼女の中に、魔法を使わない拘りはもうなくなった。

 より安全に、より生存確率を上げるために、防御魔法を使った。

 

「マミー!」

 

『遅い』

 

 急いでマミーを召喚しようとするも、ガーネットのダンジョンの方が速かった。

 その拳が、スクウェアステップの腹部を撃ちぬく方が速かった。

 

「…………!!??……ゲホッ」

 

 拳がスクウェアステップの全身を揺らす。

 骨を揺らして、骨を砕く。

 内臓を揺らして、内臓をぐちゃぐちゃにする。

 一息で血を吐き、くの字折れた体はそのまま後方へと吹き飛ばされる。

 ボウリングの球のように、後方に控えていたハンターたちを巻き込み、それがクッションになるも後方への勢いは止まらず、はるか先の地面にたたきつけられた。

 

 スクウェアステップは、ただ背中が床についた感覚だけを味わっていた。

 痛みはない。

 光もない。

 音もない。

 しばらくの間、完全な無が襲ってきた。

 

 そして徐々に、痛みが戻ってくる。

 激流のように、アイアンメイデンの中で串刺しにでもなっているのかと錯覚を起こすほどの痛みが、一気に押し寄せる。

 痛みのあまり体を動かそうとするが、その意志に反して体は地面についたままである。

 光が戻る。

 音が戻る。

 

 最初に見たのは、空。

 最初に聞いたのは、足音。

 誰かの近づく、足音。

 顔を向けて、足音の主を確認することもできない。

 

 そして、足音がぴたりと止まる。

 スクウェアステップの横に。

 動かない視界に、ゆっくりと一つの顔が入ってくる。

 

 

 

 

 

「生きてるか?」

 

 ラウンドが、スクウェアステップの顔を覗き込んでいた。

 

 いや、ラウンドだけではない。

 

「今、回復魔法かけるからねぇ(はぁと)」

 

 ハートが。

 

「動けるところまで回復したら、吾輩のゴーレムの中に運ぶとするかのう。外よりはよかろう」

 

 マーキーズが。

 

「こいつ、ステップのナンバー2だろ? あのダンジョン、強いな」

 

 オーバルが。

 

「問題はそこではありません。なぜ、ダンジョンの外にも関わらず、ここまで傷だらけになっているか、ですな」

 

 オールドマインが。

 

「遠くから見ていました。信じがたいことですが、ガーネットのダンジョンはこのまま地上で戦えるみたいです。信じがたいことですが」

 

 ペアシェイプが。

 

 戦場に到着した。

 

 

 

 目の前にいる人間が誰か理解したスクウェアステップは、必死に口を動かそうとする。

 ガーネットのダンジョンの危険さを伝えるために。

 ダンジョンに飲み込んでくることはなく、そのまま攻撃をしてくることを伝えるために。

 その速さを伝えるために。

 自分の周りに立っていないで、すぐにでも防御体制をとらなければ次の瞬間にガーネットのダンジョンの一撃が来ることを伝えるために。

 が、口は動かず、声も出ない。

 しばらく必死に伝えようとあがいたところで、違和感に気づく。

 いつまでたってもガーネットのダンジョンが現れないことに。

 既に数秒は経った。

 もしかしたら十秒は経っているかもしれない。

 それだけ長い時間がたったにもかかわらず、現れない。

 どういうことかと首を動かしたかったが、体を動かすことのない今はそれさえもできない。

 恐怖と疑問が、頭の中を埋め尽くした。

 

 スクウェアステップの疑問の答えは、ラウンドたちの視界にあった。

 ガーネットのダンジョンは、数秒間、驚いたような表情でラウンドを見た後、眉間にしわを寄せて露骨な怒りの表情を浮かべた。

 明確な殺意の乗った怒り。

 

『見つけたぞぉ……人間ンんん……』

 

 殺意は言葉となって、ラウンドの耳へと届いた。

 

「あぁ?」

 

「なんだマスター、面識があるのか?」

 

「ない。だが、撲滅対象であることには変わらん」

 

『あああああああああ!!!』

 

 殺意は暴力となって、ラウンドを襲う。

 激しく地面を蹴り、一気にガーネットのダンジョンがラウンドに接近する。

 掌を広げ、その顔を鷲掴みにしようとする。

 

 ラウンドは、首をひょいとまげて、それを避ける。

 そのままガーネットのダンジョンの腕をつかみ、接近してきた勢いを利用して地面にたたきつける。

 

 が、苦痛の表情を浮かべることもなく、ガーネットのダンジョンは体全体で跳ね、ラウンドへ蹴りを放つ。

 が、蹴りは、ラウンドに届く前に、上から降ってきたU字の金具によって地面に張り付けられた。

 オールドマインのもつ、オパールの石の力で作り出された、金属製の拘束具である。

 ガーネットのダンジョンは、金具を蹴りあげて、強引に拘束を解除する。

 その間に、ラウンドたちはガーネットのダンジョンから距離をとる。

 もちろんスクウェアステップもハートが抱え、マーキーズと共にゴーレムの中へと運んでいく。

 

『貴様……!! 貴様だけはあああああああああ!!!!』

 

「あぁ?なんだお前は?」

 

 間髪入れず、ガーネットのダンジョンが接近してくる。

 まるで闘牛のように、ラウンドというターゲットに向かって、一直線に向かってくる。

 策も戦略もあったものではない。

 

 ラウンドは、銃を構えるペアシェイプを手で制し、剣を抜く。

 そして、向かってくるガーネットのダンジョンに向かって、突きを放つ。

 

 ギイイイイン。

 

 ラウンドの剣とガーネットのダンジョンの額がぶつかり、刃音が響く。

 剣は額に沈むことなく、額の表面に立っていた。

 

「かてえな」

 

 未だに剣を押してくるのを力で押さえつけながら、ラウンドは呟いた。

 では、大剣ではどうか。

 そんなことを考えながら、アンモライトの石の能力を使う。

 

「回帰」

 

 ガーネットのダンジョンの姿が消え、次の瞬間にはラウンドたちが到着していた時点に立っていた場所に現れた。

 突然に剣のささえがなくなったガーネットのダンジョンは、止めきれなかった額に込めていた力で、二・三歩前に進んでしまう。

 その後すぐに、周囲の状況を確認し、ラウンドを視界にとらえた瞬間突進してきた。

 

「……マスター、なんかやったのか?」

 

「知らん。ダンジョンを討伐してるだけだ」

 

「それなら俺もやってるが」

 

 怒り狂うガーネットのダンジョンとは裏腹に、ラウンドはオーバルと話せる程度に冷静な対応ができていた。

 

「回帰」

 

 突進してくるガーネットのダンジョンを、回帰で別の位置へと飛ばしていく。

 回帰の能力は、過去にいた地点に戻す能力。

 ガーネットのダンジョンが走れば走るほど、戻せる場所が増え、ラウンドにとっては有利に働く。

 

 さらに三回、回帰で飛ばされた後、ガーネットのダンジョンは動くのをやめ、その場に立ち止まった。

 

 ――わっちとしたことが。

 

 走り回り、風に当てられ頭が冷やされ、自分の短絡的過ぎる行動を反省できるまでに落ち着いた。

 怒りは、殺意は、あくまで攻撃に乗せるだけ、行動の選択は冷静に、冷酷に、そう自分に言い聞かせる。

 

 途中で、頭を撃たれた。

 銃の弾が額の上で回転し、回転が止まり始めるとポトポトと地面に落下していった。

 弾の回転によって生じた額の赤みも、すぐに消えてなくなった。

 

「……私の最高硬度だったんですけでどね」

 

「額は無理か。おそらく心臓も同じくらいの硬さだろうな。次は眼球を狙え」

 

「承知しました」

 

 ガーネットのダンジョンは、ラウンドとペアシェイプをギロリと睨む。

 すぐにでも近づき、攻撃をしたい気持ちを抑え込む。

 

「オーバル、オールドマイン、俺に続け。攻めるぞ。ペアシェイプは隙を見つけて狙撃しろ。ハートが戻ってきたら支援をさせろ」

 

「「「はっ」」」

 

 ラウンドが大剣を手に持つ。

 

「いくぞ。やつの事情など知る気もない。ダンジョンは絶対撲滅だ」

 

 佇むガーネットのダンジョンに向かい、ラウンド、オーバル、オールドマインが走り始める。

 その横を、一発の銃弾がすり抜け、ガーネットのダンジョンの瞳にぶつかって、そのまま落下した。

 

 ガーネットのダンジョンは、手をゴキリと鳴らした。

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