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58話 ハリーウィンス国02

 地上で座す、ジルコンのダンジョンが消滅する。

 ジルコンのダンジョンの体は、白い光の粒子となり、空へと昇っていく。

 遠方から見れば、まるで突然に白い柱が作られたようである。

 そして、柱の麓に、ラウンドとペアシェイプが現れる。

 

「無事に討伐完了ですね、マスター」

 

「ああ」

 

 ペアシェイプは、眩しそうな表情で腕を顔の前に出し、日光から守るように目を覆う。

 肌へと刺さる太陽の熱と、撫でる様に肌を這う風が、ダンジョンの外であるという事実を強く感じさせた。

 はあ、とため息をつきながら、周囲を軽く見渡す。

 

 白い柱の麓に出現するのは、ラウンドとペアシェイプだけではない。

 ジルコンのダンジョンに飲み込まれていた、ハンターギルド・ミックスの隊員たちが、次々と姿を現す。

 ある者は、ペアシェイプ同様に、目を覆う。

 ある者は、全身を広げて日光を味わう。

 ある者は、体を動かす余裕もなく、ぐったりと倒れこんでいる。

 ある者は、倒れこんだ隊員へ回復魔法をかける。

 思い思いの感情が、行動となってでる。

 

 そしてある者は、地上へ現れるとともに、ラウンドの方へ走ってきた。

 

「ラウンドー(はぁと)!!」

 

 ハートがラウンドに跳びついた。

 

「なぜお前がいる」

 

「えへぇ(はぁと)。ラウンドがダンジョンに入ったって聞いて、追いかけてきちゃった(はぁと)」

 

 ハートはラウンドの胸に顔をうずめ、ぐりぐりと顔を動かす。

 両手をラウンドの背中へ回し、がっちりと固定したまま、会えなかった一か月分を取り戻すようにさらに密着する。

 そして、胸の中で深呼吸をし、甘ったるい吐息と共に、恍惚の表情を浮かべる。

 

「お前がいるということは、他のやつらも来ているのか?」

 

 ハートの行動を見過ごし、ラウンドは周囲をきょろきょろと見渡す。

 次々と現れるミックスの隊員たちに交じり、ブリリアントの幹部たちがいるのではないかと探す。

 

「マスター、およそ一キロメートル先に、オーバルとマーキーズを確認しました。それと、ハリーウィンス国の紋章を胸に付けた者が大量に。……囲まれてますね」

 

「なに?」

 

 ラウンドにあわせて、周囲を見渡していたペアシェイプが、ある一点で動きを止め、ラウンドへと報告する。

 

 周囲には、白い柱を中心とした半径一キロメートルの円を描くように、ハリーウィンス国軍が待機していた。

 目的は二つ。

 一つは、ジルコンのダンジョンの討伐に失敗、または移動を開始した場合、即座に次の対応を可能とするため。

 もう一つは、国境にてハリーウィンス国の警備兵に手をあげ、なおかつ入国禁止の措置がとられていたハリーウィンス国への侵入者を拿捕するため。

 そして、ダンジョンの討伐を確認した国軍は、囲む円はゆっくりと小さくし、近づいてくる。

 

「ダンジョンの討伐を歓迎……という表情ではなさそうですね。なにやら、殺気立った顔で近づいてきます。マスター、何かなさいました?」

 

「国境の兵士を何人かぶっとばした」

 

「間違いなくそれが原因ですね、マスター」

 

 近づいてくる兵を気にすることもなく、ラウンドはハートを引きずりながら歩き回り、地面をきょろきょろと見回す。

 次々と現れる財宝には目もくれず、次々と現れるミックスの隊員には目もくれず、歩き回る。

 そして、目当ての物を見つけたのか、足を止めて、それを拾い上げる。

 

「それは、ジルコンの石ですね、マスター」

 

「そうだ」

 

「勝手にとってよいのでしょうか」

 

「知らん」

 

 そのままジルコンの石をポケットに入れ、ペアシェイプの顔を見る。

 ペアシェイプは、ラウンドからの視線に、首を小さく傾げた。

 

「オーバルとマーキーズはどっちにいる?」

 

「丁度、あちらの方向に」

 

 ペアシェイプの指差す方向をラウンドも見たが、あまりにも距離があり、近づいてくる人影こそうっすらと見えるが、そこにオーバルとマーキーズがいることは認識できなかった。

 が、ペアシェイプが言うのならそうなのだろうと、納得した。

 ハートをひき剥がし、ラウンドは軽く屈伸をする。

 それを見たハートとペアシェイプは、ラウンドの次の行動を理解し、ストレッチをして体をほぐす。

 

「走るぞ」

 

「はい」

 

「はぁい(はぁと)」

 

 三人は、走った。

 オーバルとマーキーズのいる方向へと。

 ミックスの隊員たちの間を、三つの影が高速で通過していく。

 なんだ、誰だ、そんな声が上がった瞬間には、人影が既に遠くへと行っている。

 ただ真っすぐに。

 ミックスの隊員たちは、それを棒立ちで見送った。

 走る理由も目指す場所もわからないため、走りを止めることが正当なのかもわからない。

 捕えて良いのかもわからない。

 なにより、全身が疲労している現状で、わからないという理由付けで動かないという選択を脳がしてしまったのだ。

 

 反応したのは一人。

 

「お前、名は??」

 

 ダンジョンから戻ったばかりで目もぼんやりとしていたが、走り去る三つの影の一つがダンジョンにいた知らない人間――ラウンドだとすぐに理解し、その後を追った。

 そして、並走しながら、ラウンドへと問いかけた。

 

 ラウンドはバリオンの姿を確認するや否や、自身の行動を止めに来たのではないかと剣に手をかけたが、その言葉を聞いてすぐに剣から手を離した。

 ペアシェイプとハートも同様、武器に手をかけ、すぐに放す。

 

「ラウンドだ」

 

 伝えるか否かを一瞬迷ったが、伝えることのデメリットはなく、伝えない場合にバリオンが怒る手間を考え、名を口にした。

 

「ラウンドか!! 覚えたぞ!!」

 

 バリオンは、満足したように叫ぶ。

 そして、走る速度を落とし、並走を辞める。

 

「なんだったんだ」

 

 ラウンドの口にした疑問は、答えが絶対に必要な疑問ではないと判断され、そのまま宙へと消えた。

 

 

 

「「マスター!」」

 

 ハリーウィンス国の国軍に近づき、互いに顔を認識できる距離になると、オーバルとマーキーズが叫んだ。

 オーバルとマーキーズは、ハリーウィンス国の国軍と並んで、歩いていた。

 二人は正規の手続きを踏み、国軍と同行するという条件付きに、入国を許可され、そのまま国軍と共に行動をしていたのだ。

 走ってくるラウンドの姿に、まずは無事であったことを安堵する。

 そして、ラウンドの手の動きを見て、次の行動を理解する。

 

「あいつだ!」

 

「ブリリアントのギルドマスター、ラウンドだ!」

 

「不法入国者だ! 捕縛の準備を!」

 

 叫ぶ、国軍たちの方へと振り向いた。

 急に二人が振り向いたことに、数人の兵士が疑問の色を浮かべる。

 目的としていたラウンドに出会えたと言うのに、なぜラウンドの方向でなく、兵の方向を向くのかと。

 そして、嬉しそうな、同情するような二人の表情に、背筋が凍る。

 何をする気かはわからないが、何かをされると気づいた。

 

「ここまで連れてきてくれて、ありがとな。んで、悪いな」

 

「マスターは、さっさと帰りたんじゃと」

 

 オーバルが振りかぶる剣。

 マーキーズの足元から現れた巨大なゴーレム。

 その二つが、背筋の凍えた理由を強制的に理解させた。

 

「……!! こいつらを止め」

 

 オーバルが剣を振って発生した突風が、兵を吹き飛ばす。

 マーキーズの召喚した巨大なゴーレムの腕の一振りが、兵を吹き飛ばす。

 兵たちにより作られていた円に、ぽっかりと穴が空く。

 ラウンドたちの逃走経路が完成した。

 

「よくやった」

 

 ラウンドからの第一声に、オーバルとマーキーズは安どのため息をつく。

 

「まったく、これで俺らまで怒られそうだな」

 

「まったくじゃ。どうしてくれるんじゃ」

 

「モースにどうにかしろと伝えておく」

 

 マーキーズのゴーレムが、腕を地面に伸ばす。

 その腕を階段のように上り、一同はゴーレムの中へと入り込む。

 そのまま、ゴーレムは進行方向を変える。

 ショメ国のギルドへと。

 

 兵たちは、ゴーレムを止めようと武器を構えるが、国軍は対人に特化しており、対魔物との戦闘は得意ではない。

 ゴーレムという魔物を前に、剣や槍はおろか、魔法によって求めることはできず、逃亡を赦してしまった。

 ずしんずしんと音を立てて移動するゴーレムを、苦虫をかみつぶしたような顔で見送るしかなかった。

 

「んじゃ、ショメ国に着くまで、ダンジョンの話でもしてもらおうかな」

 

「そうじゃそうじゃ。吾輩たちに黙って行きおって!」

 

「面倒だな。ペアシェイプ、任せる」

 

「マスター、私そろそろ限界なので、寝させていただきたいのですが……」

 

 わいわいと下雰囲気のまま、ゴーレムは進む。

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