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50話 ジルコンのダンジョン07

 第四十一階層、突入。

 

 第四十一階層をさ迷う魔物は、騎士ゾンビとマジシャンゾンビ。

 

「穢れよ、天に還れ。浄化!」

 

 驚くほどあっさりと、退けることに成功する。

 次から次へとゾンビが湧き出てくることに変わりはないが、湧き出た瞬間に浄化され、消滅するのであれば、進行の邪魔になることもない。

 

 

 

 第四十一階層、突破。

 第四十二階層、突破。

 

 

 

 下層に近づくにつれ、騎士ゾンビの鎧は全身を覆うものへと変わっていき、マジシャンゾンビのフードも頭の先から足の先まで、すっぽりと覆うものへと変わっていく。

 浄化の光が体にあたることを防ぐ装備へと。

 

「二番隊、鎧とローブを引きはがすで御座いますわ! 倒す必要は御座いません。鎧とローブをはぎ取るだけで結構でございますわ。召喚士隊、魔法隊、弓矢隊も援護に回って支援をお願いするで御座いますわ」

 

 プリンセスの指揮の元、ミックスは、装備をはぎ取る作戦へと終始する。

 トリリアントの浄化の光はフロアを照らしている限り、光がゾンビの体にあたってさえしまえば勝利できる。

 ならば、戦闘は最低限に、光を当てる程度にすればいい。

 

「はっはあああ!!」

 

 もっとも、バリオンがその程度に抑える制御ができれば、の話であるが。

 鎧ごと首を斬り落とし、ローブごと全身を真っ二つにし、人間であれば死んでいるだろう形状のゾンビが浄化の光によって消滅していく。

 

「もう諦めて御座いますわ」

 

 プリンセスは何も言わない。

 結果的に、浄化の光が当たり、消滅する状況を作り出している以上、それ以上は求めないとバリオンの行動を眺めていた。

 

 

 

 第四十三階層、突破。

 第四十四階層、突破。

 第四十五階層、突破。

 

 

 

「バリオン様!! ゴーレムです!!」

 

 サモナーゾンビ。

 他の魔物を召喚し、使役するゾンビである。

 サモナーゾンビは、ゴーレムを召喚して、ゴーレムの中に入っていた。

 ゴーレムの中は、石で覆われており、光を通さない部屋も同然である。

 ゴーレムの視界とサモナーゾンビの視界は共有されておらず、サモナーゾンビに外の様子を知るすべはない。

 が、そもそもサモナーゾンビに眼球はなく、視覚によって状況を判断していないので、ゴーレムのデメリットもない。

 無限に敷き詰められたゴーレムが、ミックスに向かって規則正しく襲ってくる。

 

 ちょっとやそっとでははぎ取れない、最強の装備。

 

「いいかカスども!! ゴーレムはなあ、こうやって殺すんだよ!!」

 

 バリオンは剣を振り、ゴーレムを構成する石ごと、サモナーゾンビを真っ二つにした。

 斬れた隙間から差し込む浄化の光が、真っ二つになったサモナーゾンビの体にあたり、消滅させた。

 

「石で囲まれてるなら石ごと斬れ!! 剣がねえなら殴って砕け!! 近づきたくねえなら」

 

 足元に落ちていた、先程斬ったゴーレムの石の破片を拾い、振りかぶる。

 

「物投げてぶっ壊せ!!」

 

 バリオンの手から放たれた石は、ゴーレムの首元に命中し、首を破壊してその頭を吹き飛ばした。

 ゴーレムの中の部屋の天井がなくなり、浄化の光が差し込む。

 サモナーゾンビは苦しそうにうめき声をあげ、消滅した。

 

「どうだ!! 簡単だろ??」

 

「無理ですバリオン様!」

 

「そんな芸当、貴女にしかできません!」

 

「あああ!!??」

 

 バリオンの拳骨が落ちる。

 そして、バリオンは再びゴーレムの方へと走り、破壊していく。

 憂さ晴らしでもするかのように次々と。

 しかしそれでも、一対無限。

 隊の道を作るまでには至らない

 

「困りましたで御座いますわね。バリオン一人に任せるわけにもいかないで御座いますし」

 

 プリンセスの言葉に、フランダースが腕を組んで悩む。

 悩む。

 ひたすらに悩む。

 さらに悩む。

 

 そして、諦めたように口を開く。

 

「一つだけ、方法があります」

 

「まあ、何で御座いますの?」

 

 ひっそりと、プリンセスへと伝える。

 プリンセスの目が、一瞬大きく見開き、困惑の表情に変わる。

 

 悩む。

 ひたすらに悩む。

 さらに悩む。

 

 そして、諦めたように口を開く。

 

「それを採用とするで御座いますわ。……バリオンを呼んでもらえるで御座いますか?」

 

 プリンセスに呼ばれ、バリオンが戻ってくる。

 

「なんだ??」

 

 プリンセスを守るように、フランダースが立ち、口を開く。

 

「バリオン、君を増やす」

 

「……ああ??」

 

「ゴーレムを破壊しながら進むにしても、ゴーレムを破壊できる人手が足りない。だから手っ取り早く、君を複製する」

 

「ああ?? 何言ってんのかわかんねえよ!!」

 

「すぐにわかるさ。五百二十一番、複製」

 

 フランダースの杖が光り、バリオンを照らす。

 杖の光は、バリオンの後ろに影を作る。

 そして、一つの影が二つに分かれ、二つの影が四つに分かれ、次々と増えていく。

 隊員たちは、その光景を唖然とした表情で見つめる。

 次々とバリオンが増えていく、その光景を。

 

 光が消える。

 そこには、百人のバリオンがいた。

 

「「「「「なんじゃこりゃ!?」」」」」

 

 周囲に立つ無数の自分を見て、バリオンは声をあげる。

 そして、先ほどのフランダースの言葉を理解する。

 

「なるほどな!!」

 

 そして、何を聞くでもなく、ゴーレムに向かって走り出した。

 役目を全うするため……ではなく、他の自分に獲物を奪われないように。

 

「どけカス!!」

 

「てめぇ!! それは俺様が狙ってたんだよ!!」

 

「おらおらおら!! 邪魔すんな!!」

 

「邪魔なのはてめえだ!! てめえから先に殺すぞ!!」

 

 自分同士で争いながら、ゴーレムを次々と破壊していく。

 隊員を巻き込みながら。

 あっという間に、周囲が更地になっていく。

 隊員を巻き込みながら。

 新たに生み出されるサモナーゴーレムも、もぐらたたきの要領で出てきた瞬間につぶされていく。

 隊員を巻き込みながら。

 

 道は開かれた。

 騒音が百倍になったことと引き換えに。

 

「プリンセス様……」

 

「元に戻しましょうで御座いますわ」

 

 

 

 第四十六階層、突破。

 第四十七階層、突破。

 第四十八階層、突破。

 第四十九階層、突破。

 

 第五十階層、突入。

 

 

 

 フロアボス、八岐大蛇。

 一つの体に八つの頭を持つ、全長二十メートルの巨大なヘビである。

 頭はそれぞれ独立した意思を持っており、八つの頭が別々の方向へと向き、舌をチロチロとだす。

 胴体を起こし、はるかな高みから、十六の目でミックスのメンバーを見下ろしていた。

 

「八岐大蛇ですか。伝説級の魔物ですな」

 

 フランダースが自身の記憶から、目の前の魔物の情報を引っ張り出す。

 八岐大蛇は、八つの頭が独立した意思を持ち、なおかつその意志を共有しているため、高い連携能力を持つ。

 また、再生能力を持つため、一つの頭を倒したところで、すぐに蘇ってしまう。

 かつてダンジョンに挑んだ者たちは、その理不尽さ故、八岐大蛇を伝説級と称した。

 

「斬る!! いいな??」

 

「許可します」

 

 もっとも、バリオンは八岐大蛇など知る由もない。

 獲物を前に、バリオンがプリンセスへと確認を求め、走り出す。

 

「「「バリオン様に続けえええ!!!」」」

 

 同時に、二番隊の隊員たちも走り出す。

 

 自身に向かってくる人間たちを前に、八岐大蛇の八つの頭は互いに視線を交わらせて、目で会話する。

 そして、二つの頭がバリオンへ、残りの六つの頭が二番隊の隊員へと向かう。

 

「二本じゃ足んねえよ!!」

 

 二本の頭の動きを捉え、バリオンは華麗にそれを躱す。

 そして、躱した後、自身の近くに伸びていた無防備な首に剣を振り下ろす。

 断末魔の叫びさえ出させぬままに、二つの首はあっさりと斬り落ち、断面から血が噴き出す。

 

「ギャオオオオオオオン!!」

 

 直後に、首の断面が盛り上がり、吹き出す血の中から新たな頭が伸び、数秒で元の長さまで再生する。

 そして、再びバリオンへと向かう。

 

「はっ!! こいつも不死身か!! いいねぇ!! 無限に殺せる!!」

 

 死角からの突撃ではあったが、バリオンはそれも華麗に躱す。

 後に目がついているかのように、最小限の動きで躱し、最短ルートで剣を振り下ろす。

 再び八岐大蛇の首は斬り落ち、再び再生する。

 

 残り六本の首も同様。

 丸太のように太い首を、隊員一人で斬り落とすのは難しいと判断し、二番隊の隊員たちは連携して、四人同時に首へ剣を振り下ろす。

 四人の攻撃で落とせなければ、後に控える四人で再び斬る。

 そうして次々と首を落としていった。

 が、即座に再生して再び襲い掛かってくる。

 

「はははははははは!!」

 

 高らかな笑い声と共に、バリオンが炎の魔法を自身に放つ。

 髪の先から足指の先まで、手に持つ剣の切っ先まで、すべてが熱を帯び、炎を纏う。

 そのまま、八岐大蛇の首を切断した。

 

「ギャオオオオオオオン!!」

 

 首が床へと落ちる。

 切断面は焦げ、数秒ほど沈黙するが、すぐに首が再生を始める。

 

「ははははは!! なんだ?? さっきより再生、遅くねえかあああ??」

 

 再生した瞬間に、さらに斬る。

 

「ふむ。ふうむ」

 

 その様子を。フランダースは眺めていた。

 

「何かわかりまして?フランダース」

 

「プリンセス様。はい。おそらくあの魔物、八岐大蛇は、切断面に熱を加えることで、再生速度がわずかに遅くなるようです。わずかと言っても数秒程度ですが。その隙にすべての頭を落としてしまえば、首が再生しない可能性は高いですな」

 

「なるほどで御座いますわ。バリオン! 八岐大蛇ですが」

 

 プリンセスが、フランダースから聞いた内容を伝えるため、バリオンの方を向いたとき、バリオンは空中で、自身の身長の五倍はある槍を握っていた。

 

 バリオンの管理する二番隊は、そのほとんどが特攻するための隊員である。

 ただし数人、例外がいる。

 そのうちの一人が、収納魔法と呼ばれる固有魔法を使える魔法使いである。

 収納魔法は、生物以外の物体を異次元へ送って収納したり、逆に取り出したりすることのできる魔法だ。

 その特性を使用し、彼はバリオンの武器庫として重宝されている。

 

 そして、バリオンが現在手に持っているのは、まさに武器庫から取り出した槍――ジャイアント・グレイブ。

 槍とは言いつつ、穂先は長く太く広い。

 そして重い。

 並の人間には持てさえしないほどに。

 それゆえに、正しく突くことができれば、正しく振ることができれば、太く硬い物であっても、まるでバターのように斬り裂ける。

 

 バリオンはジャイアント・グレイブを振りかぶる。

 

 なんてことはない、バリオンの中での、単純な思考だ。

 八岐大蛇の首は太く、八岐大蛇の首の数は多く、一剣一振りで一本の首しか落とすことができない

 そして、一本の首を落としても、すぐに再生する。

 では、八本同時に落としたらどうなるのか。

 試してみよう。

 では、どうやったら八本同時に落とせるのか。

 刃の長い剣を使おう。

 単純な思考の流れである。

 

 そして、単純にジャイアント・グレイブを振り下ろす。

 

 八本の首は一斉に飛び、八本の切断面から噴水のように血が飛び出す。

 首が床に落ち、胴体が倒れる。

 そのまま、八岐大蛇は消滅した。

 

 

 

 プリンセスは、口元まで出かかっていたバリオンへの言葉を、寸でのところで飲み込んだ。

 

 第五十階層、突破。

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