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49話 ジルコンのダンジョン06

 第三十一階層、突入。

 

 第三十一階層をさ迷う魔物は、ゾンビとスカル。

 腐った人間の死体のようなゾンビと、人間の骸骨のようなスカル。

 どちらもアンデット系の魔物である。

 

 つまり、トリリアントの浄化の魔法を天敵とする。

 

「穢れよ、天に還れ。浄化!」

 

 照らされる浄化の光に、ゾンビとスカルは体を維持できず、次々と消滅していった。

 また、消滅後、新たに生まれるゾンビとスカルも、生まれた瞬間に光を浴び、消滅を開始した。

 敵となる魔物はいなかった。

 

「……退屈だ!!」

 

 戦うべき魔物のいない状況下で、バリオンは心底退屈そうな顔で歩いていた。

 その後ろを続く二番隊の隊員たちも同様だ。

 

 現在は、トリリアントと四番隊を中心に、隊が編成されている。

 浄化の魔法は、光さえ届けば効果を発揮するため、トリリアントを隊の中心にそえて守る。

 その周囲には、トリリアントが所属する四番隊の魔法隊と、トリリアントの体力と魔力を回復させるための八番隊の回復隊が配置される。

 その外側に他の隊が展開し、さらに外側には三番隊の守備隊と、五番隊の結界隊が配置される。

 徹底して、トリリアントへの攻撃を防ぐための布陣である。

 

 

 

 第三十一階層、突破。

 第三十二階層、突破。

 第三十三階層、突破。

 第三十四階層、突破。

 第三十五階層、突破。

 第三十六階層、突破。

 第三十七階層、突破。

 第三十八階層、突破。

 第三十九階層、突破。

 

 第四十階層、突入。

 

 

 

 フロアボスは、シールゾンビ。

 腐りきってボロボロの肌に、抜け落ちた髪の毛と眼球。

 手足もボロボロで、とてもまともに動くことさえできなさそうな見た目であるものの、足でしっかりと地面を踏みしめ、第四十階層へ足を踏み入れたミックスの方へと向く。

 今までのゾンビと違い、俊敏に体が動いている。

 まるで生者のように。

 

 だが、フロアボスだろうと、俊敏に動けようと、ゾンビはゾンビ。

 第四十階層を照らす浄化の光を受け、シールゾンビの体は消滅を始める。

 

「あ゛……あ゛あ゛……」

 

 シールゾンビは浄化の光を、それを放つトリリアントの方を向く。

 多数に囲まれたトリリアントの姿を視認することはできていないが、もともと眼球が腐り落ちて何も見えないのだから関係ない。

 その場所さえわかれば。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

 

 消滅しかけている口から、おどろおどろしい声が出て、フロア内を包み込む。

 それはまるで断末魔。

 ミックスの隊員たちは、それを静かに見守った。

 

 そして、異変に気付いた。

 先ほどまで明るかったフロア内が、徐々に薄暗くなっていくことに。

 トリリアントから放たれていた浄化の光が、徐々に消えていくこに。

 

 最も驚いたのは、トリリアント自身である。

 

「……!? 浄化魔法が使えません!!」

 

 思わず叫ぶ。

 手に力をこめ、手をぶんぶんと振り、何が起こったかわからないままに、なんとか打開を試みる。

 が、その行動に反し、浄化の光は小さくなり、消滅した。

 

 それに伴い、シールゾンビの消滅が止まる。

 そして、消滅していた部分が膨れ上がり、新たな骨を、肉を、皮膚を作り、体を再生させていく。

 もちろん、骨も肉も皮膚も腐り切ってはいるが。

 唖然とする隊員を目の前で、シールゾンビの体が完治していく。

 

「はっはあああああああああ!!!!」

 

 誰よりも早く動いたのは、バリオンである。

 浄化の光が小さくなり、シールゾンビの再生が始まった時点で、シールゾンビへと向かって走り出した。

 目の前にいる他の隊の人間を押しのけ、跳び避け、あっという間にシールゾンビの眼前へと接近する。

 

「あ゛……?」

 

「あ゛、じゃねんだよ!! どけカス!!」

 

 そのまま頭を殴り飛ばした。

 シールゾンビの首がみちみちと音を立てて裂け、胴体から離れた頭がそのまま吹き飛び、壁にぶつかる。

 

「どっちが本体だ!?」

 

 近くに残ったシールゾンビの体を炎の魔法で燃やし、すぐに頭のとんでいった方向へと走る。

 壁にめり込んだ頭の首元は膨れ上がり、体の再生を始めていた。

 

「こっちかあああ!?」

 

 その頭を、再びバリオンは殴る。

 顔がへこみ、さらに壁にめり込む。

 

「バリオン!!」

 

「んだよ!? 作戦失敗したんなら、もう自由行動だろおが!!」

 

 フランダースの言葉にも意を返さず、頭を殴り続ける。

 

「あ゛あ゛……あ゛あ゛あ゛」

 

 再び、シールゾンビが叫ぶ。

 

「は!! なんか言って!!……??」

 

 そして、バリオンの手が止まる。

 再び殴ろうと振り上げた手が、バリオンの意思に反して止まる。

 バリオンは不思議そうに止まった手を見て、力を込めて無理やり動かそうと試みる。

 が、動かない。

 まるで。空中に縫い付けられたように。

 

「あ゛……あ゛……」

 

 バリオンが正面を見る。

 そこには、ニタニタと笑っているシールゾンビの顔があった。

 

 とりあえず顔面に蹴りを入れた。

 シールゾンビの頭が、さらに壁にめり込む。

 しかし、手は一向に動きそうにない。

 

「なにしやがった、てめぇ??」

 

 シールゾンビは答えない。

 答えられない。

 顔が壁にめり込み、口の中には瓦礫と化した壁の破片が流れ込み、口を動かすことができないから。

 

 

 

「何かの魔法ですかな」

 

 ミックスの隊が割れ、一人の男が現れる。

 自身の背丈ほどある巨大な杖をつきながら、コツンコツンと歩き、頭を失ったジールゾンビの体の前で止まる。

 

「九百四十番、吸収」

 

 杖を持ちあげ、トンと床へおろす。

 杖が光り、杖の前の空間にひびが入り、小さな穴が空く。

 そして、小さな穴に向かって風が吹く。

 まるでブラックホールのように、辺りの物を飲み込んでいく。

 

 シールゾンビの体は踏ん張っていたが、すぐに耐えられなくなって穴へと吸い込まれていった。

 全身が吸い込まれたことを確認し、再び杖を持ちあげ、トンと床へおろす。

 杖の光が消え、空間に開いていた小さな穴も閉じる。

 

「ふむ。ふうむ」

 

 フランダースの固有魔法、吸収。

 その能力は、空間に穴を空け、周囲に存在するものを問答無用に吸い込むことである。

 さらに、吸い込んだ物の解析を行うことができる。

 

「ふむ。魔物名は、シールゾンビ。封印魔法と呼ばれる固有魔法を使うことのできるゾンビのようですな。ふむ。封印されたものは使えなくなる、と。ふむ。攻撃とみなせば、魔法だけでなく、打撃も封印できるのか。これはすごい。トリリアントの浄化の魔法は、これで封印されたのか。バリオンが妙な体勢で固まっているのは、腕を使っての攻撃が封印され、動けなくなっているからか。ふうむ」

 

 ぶつぶつと、解析したシールゾンビの情報を呟く。

 

「ならば、封印魔法を封印してしまえば、トリリアントにかかっている封印も解ける、と考えてよろしいかな?」

 

 そして、シールゾンビの頭がある場所まで歩く。

 

「おい!! こいつは俺様の獲物……!!」

 

「その様で何を言うか。控えておれ」

 

 そして、シールゾンビの頭に杖を向ける。

 

「似たような固有魔法を、昔作っていてな。二百一番、封印」

 

 杖の先が光り、シールゾンビを包む。

 そして、光がシールゾンビの封印魔法を封印する。

 

「……!! 腕が!! 動く!!」

 

「浄化の魔法が、また使えるようになりました!」

 

 フランダース。

 職業は、魔法使いの上位にあたる魔導士。

 ミックスの四番隊隊長にして、ハリーウィンス国の抱える宮廷魔法団のトップに君臨する男である。

 生まれながらにして、人類史上最多となる十の固有魔法を使うことのできる才能をもち、それゆえ固有魔法というものへの興味も人並み外れていた。

 固有魔法をもって生まれてくる人間とそれ以外の人間の違いは何か。

 固有魔法を最大限に生かす方法はないか。

 固有魔法を創り出すことはできないか。

 

 そして知った。

 魔導の深淵を覗くことができる、ダンジョンの石の存在を。

 それからは早かった。

 サンストーンの石を手に入れ、魔導の深淵を覗いた。

 並の人間では頭の中にとどめておくことができないだろう膨大な情報量を、フランダースは頭の中に詰め込んだ。

 人並外れた固有魔法への興味と、そのために身に着けた膨大な知識が、魔導の深淵の一端を理解するまでに押し上げた。

 

 結果、フランダースは人間で唯一、固有魔法を作ることのできる存在となった。

 百歳を超えた現在では、使える固有魔法の数は千を超える。

 

「トリリアント君、止めを」

 

「あ、はい」

 

 トリリアントの浄化の魔法が、再びフロアを満たす。

 シールゾンビの頭は、口をパクパクと動かすこともできず、封印魔法を使うこともできず、そのまま消滅した。

 

 第四十階層、突破。

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