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45話 ジルコンのダンジョン02

 ジルコンのダンジョンは、まるで地平線に立っているかのような空間であった。

 真っ白な床と真っ白な空が、無限に続く、奇妙な空間。

 もちろん、壁は一切存在しない。

 見渡す限りの地平線である。

 

 その空間に立っているのはラウンドとペアシェイプ、そして周囲を囲うタコの魔物――オクトパス。

 その数は、無限としか言えないほどに膨大であり、地平線の先にまで続いている。

 高さ七十センチメートルの体から生える、一メートルの超える長さの八本の足をうねうねと曲げながら、二人へ近づいてくる。

 

「オクトパス。タコ型の魔物ですね。これほどの数は、見たことがありませんが」

 

「そうだな」

 

 ラウンドは、背から大剣を引き抜き、左右に振りぬく。

 大剣の通り道まで近づいていたオクトパスが十体、巻き込まれて斬り裂かれ、あっさりと消滅した。

 数は多いが、弱い。

 手ごたえからそんな印象を抱きならば、このまま斬り続ければ時間はかかるがいつかは全滅するだろうと考えたところで、それは起きた。

 オクトパスが消滅し、空いた地面のスペースが光り始める。

 そして、光る地面から、まるで地面をすり抜けてきたかのようにオクトパスが現れる。

 次々と。

 オクトパスの消滅により空いたスペースが、新たなオクトパスによって即座に埋められた。

 ラウンドは、新たなオクトパスに向かって剣を振る。

 先程と同様、オクトパスは一撃で消滅するが、別のオクトパスがすぐさま空間を埋めてくる。

 何体倒しても、ラウンドとペアシェイプを囲むオクトパスの数は一向に変わらない状況が続く。

 

「このまま斬り続ければ、いつかは終わると思うか?」

 

「いいえ、思いませんマスター。倒しても倒しても次が現れるので、私たちの近くにいるオクトパスの数は変わっていませんし、その上、遠くの方で新しいオクトパスの出現も常に確認しています。おそらく、永遠に終わらないかと」

 

「魔物が無限に生まれ続ける無限の試練、というわけか。……二番煎じだな」

 

 状況を共有しながらも、ラウンドは剣を振り続ける。

 無限に生まれ、近づいてくるオクトパスを前に、剣を振る手を一度でも止めてしまうと、体がオクトパスに埋もれかねない。

 

 もっとも、無限に現れる魔物を討ち続ける。

 それは、ラウンドがアメシストのダンジョンで経験済みの行動である。

 驚くことも悩むこともなく、粛々と斬りながら、次の手を考える。 

 

 先に入ったハンターギルド・ミックスの姿が見えないということは、この大軍を退けて、下層へ進んだということ。

 であれば、下層へ降りる方法が必ずあるはずなのだから。

 もっとも、現時点では、その下層への階段がどこにあるかさえわからない状況であるが。

 

「ハートがいれば、結界でも張って進めたんだが。いや待て、そうか。近くに来い、ペアシェイプ」

 

「はい、マスター」

 

 ペアシェイプは、ラウンドを背中から抱きしめるように、自身の体を密着させる。

 二人とオクトパスの間に、隙間ができたことを確認し、ラウンドは魔法を発動する。

 炎の魔法により、ラウンドとペアシェイプの周囲を囲むように、炎の壁が出現する。

 最前列にいたオクトパスは、後列のオクトパスたちに押され、炎の壁に飛び込む。

 瞬間、足が炎に包まれる。

 そして、足の炎は包む範囲を、全身へと移していく。

 熱さでバタバタとのたうち回るオクトパスの足が、他のオクトパスにあたり、炎がさらに燃え移る。

 そして繰り返される。

 炎は次々、オクトパス全体へと燃え広がっていく。

 次々、オクトパスが消滅していく。

 

 が、消滅した空間に、即座に白い光が輝き、新たなオクトパスが生まれる。

 そして、周囲の炎に触れ、燃える。

 消滅する。

 生まれる。

 燃える。

 消滅する。

 

「マスター、状況が悪化している気がします。そして暑いです」

 

「ああ。失敗だったな」

 

 周囲を囲むオクトパスから、周囲を囲む火だるまになった現状に、ラウンドとペアシェイプは顔をしかめる。

 ラウンドの目論見としては、炎の壁を結界の代わりとしてオクトパスを退け、その状態で悠々と下層を目指すことだった。

 しかし、思いのほか炎の周りが速く、オクトパスが行く手を阻まない代わりに炎が阻む。

 

「鎮火するか」

 

 仕切り直しとし、水の魔法で周囲の炎を鎮火させる。

 炎に包まれていたオクトパスの炎も消え、のたうち回っていたオクトパスも動きを止める。

 そして、再びラウンドたちに向かって前進を始める。

 

「上から行くか」

 

 方針を変える。

 ラウンドは、岩の魔法で足元を隆起させる。

 柱のような直方体の岩の塊が出現し、そのてっぺんに立つ。

 柱の足元には、オクトパスが群がってくる。

 そして、足についた吸盤を柱にペタリと貼り付けながら、器用に柱を登ってくる。

 

「これでも着いてくるのか」

 

 とはいえ、床を這いずり回っている時よりも、オクトパスの速度は遅くなっていた。

 しばらくはオクトパスを放っておいても大丈夫そうである。

 ならば余裕のできた時間にやる事は、第一階層から下層に降りるための階段を探すことである。

 それがわからなければ、次に歩く方向さえわからない。

 

「ペアシェイプ、下層への階段を探してくれ」

 

「承知しま見つけました」

 

「早いな」

 

 ペアシェイプが指差す方向を、ラウンドも見る。

 オクトパスの大群の中に、一か所だけオクトパスが存在しない空間があった。

 魔物は基本的に、自分のいる階層から動くことはない。

 そのため、オクトパスもまた階段を避けて前進しており、結果上から見ると一か所だけ穴が空いているよな見た目になっているのだ。

 

「よし、さっさと下層に降りるぞ」

 

 ラウンドが岩の魔法を再び発動する。

 足場の柱が変形する。

 今立っている柱に加え、下層への階段の近くにもう一本の柱を作り、二本の柱を結ぶ橋を作る。

 

「走るぞ」

 

「承知しました」

 

 そして、橋の上を駆け抜ける。

 二人が走ってもびくともしない程度に、強度は十分である。

 

 下層への階段の近くに作った柱にも、オクトパスが群がり、ゆっくりとあがってくる。

 このまま上がり切れば、橋の上でオクトパスと戦闘をすることになりかねない。

 

「撃ち落とします、マスター」

 

「頼んだ」

 

 ペアシェイプは走りながら、自身の腰から銃を取り、構える。

 そして、銃に魔力を込める。

 ペアシェイプの銃には、銃弾が入っていない。

 代わりに、岩の魔法で岩の銃弾を作り、それを発射する。

 橋の上に、ペアシェイプの銃撃音が響く。

 発射された銃弾は、オクトパスの足の付け根を撃ち抜き、体と足を分離させる。

 足を一本失い、バランスを崩したオクトパスは、そのまま周囲を巻き込んで落下していく。

 

 二発目、三発目と、銃撃音が響く。

 銃撃音が響くたびに、一体のオクトパスの足が吹き飛ばされ、下へ下へと落ちていく。

 結果、ラウンドとペアシェイプが下層近くの柱へ到着するまで、一体のオクトパスも橋まであがることはできなかった。

 

 柱から飛び降り、階段へと着地。

 そのまま下層へと降りていく。

 オクトパスは階段の周辺に群がり、階段の下を覗き込むも、降りてくることはなかった。

 

 

 

 第一階層、突破。

 第二階層、突破。

 第三階層、突破

 第四階層、突破

 第五階層、突破

 

 

 

 第六階層は、オクトパスに加えて、魔物が一種類増えていた。

 黒光りしてカサカサ動く害虫の魔物、コカローチである。

 

「う……、気持ち悪い。は、失礼いたしました」

 

「構わん」

 

 第一階層同様、岩の魔法で橋を作って階段まで向かおうとしたラウンドとペアシェイプに、それらは襲い掛かってきた。

 ヴウウウウウウウウウンという、羽音を立てて。

 地上を埋め尽くすのがオクトパスなら、空中を埋め尽くすのがコカローチである。

 触角をピクピク動かして、空気の流れからラウンドとペアシェイプの位置を把握し、コカローチの大群が押し寄せる。

 

「すみません、これは無理です、マスター」

 

「撃ち殺せ」

 

「……生理的に無理です」

 

「……炎」

 

 橋の上に、巨大な炎の玉ができる。

 ラウンドとペアシェイプを囲む、球の炎の玉。

 空を飛んで押し寄せてくるコカローチは、炎の球に突っ込み、羽を燃やされて落下してく。

 次から次へと。

 コカローチの燃えた、何とも言えない匂いが広がる。

 

「……吐きそうです、マスター」

 

「呑み過ぎだ」

 

「違います……そうじゃないんです……」

 

 

 

 第六階層、突破

 第七階層、突破

 第八階層、突破

 第九階層、突破

 

 

 

 第十階層、突入。

 

 第十階層は、フロアボスが存在するフロア。

 先行したハンターがいて、なおかつそのハンターがフロアボスを倒していた場合、フロアボスが存在しないフロアを素通りすることになるのが通常である。

 そう、通常であれば。

 

 第十階層で、ジャイアントオクトパスはラウンドとペアシェイプを出迎えた。

 三メートルの高さの体と、体から伸びる五メートルの足。

 ビタンビタンと足を地面に叩きつけながら。ゆっくりと前進してくる。

 

「フロアボスも無限に湧くというわけか」

 

 目の前のフロアボスと、その後方、フロアの奥に出現している下層へ続く階段を見ながら、ラウンドは言った。

 下層への階段は、フロアボスを倒し、初めて出現するものである。

 既に階段が存在するということは、誰かがボスを倒し終えたことの証明である。

 だが、フロアボスが存在する。

 つまりは、二体目以降ということだ。

 

「俺が斬る。次が沸く前に、下へ降りるぞ」

 

「承知しました」

 

 ジャイアントオクトパスの足が、ラウンドに向けて伸ばされる。

 その足を横に躱し、足の先へ大剣を刺し、そのまま体の方へと走る。

 八本の足を、九本にしてしまう勢いで、足を縦に斬り裂き、そのまま体本体も斬り裂く。

 体が真っ二つになり、そのままジャイアントオクトパスは消滅した。

 

 その瞬間、フロアに白い光が集まり始める。

 次のジャイアントオクトパス、出現の合図である。

 

「走れ」

 

「はい」

 

 が、待つ必要はない。

 そのままフロアの奥を目指し、階段を降りる。

 

 第十階層、突破。

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