41話 ショメ国03
ショメ国の王宮、玉座の間。
ラウンドは、ショメ国の国王と向かい合っていた。
「面をあげ……あげておるな」
ショメ国の国王、メンズ・ショーメは咳ばらいを一つし、ラウンドに鋭い眼光を向ける。
「では、此度の件、説明をしてもらおうか」
「どれだ?」
「貴様! 国王様に向かって、どれだ、とは何事だ!」
「何がだ?」
謁見開始十秒。
謁見の間には既に、不穏な空気が流れ始めていた。
「ゴホンッ」
メンズ・ショーメは、再度咳ばらいをし、視線を隣の男性に向ける。
男性は、手紙を取り出して広げ、つらつらと読み始めた。
「今回、ハンターギルド・ブリリアントは、我が国に発生したアメシストのダンジョンから我が国を防衛するという条件の元、我が国への入国、および我が軍との模擬演習を許可している。しかし、今回、貴殿らがアメシストのダンジョンに対し、我が国の領土内で討伐を開始したため、我が国の中に魔物が発生し、逆に我が国を危険に陥らせた。これは由々しき事態であり、我が国への攻撃目的だったと考えてもおかしくない行為であり、我が国の方に照らし合わせれば処罰は免れない。しかし、アメシストのダンジョンを討伐したという功績も考慮するよう、陛下より温情を賜り、貴殿の罪は一時保留とすることになった。わかるか。貴様の罪がどうなるかは、今後の貴殿の行動次第ということだ」
男性は、手紙から目を上げ、ラウンドを見る。
そして、不敵な笑みを浮かべる。
男性は理解している。
この謁見は、さながら結末の決まった演劇のようなものだと。
これから自分が言うことも、それを聞いた相手がしなければならない返事も、既に決まっているのだ。
「しかし我が国としても、三大ギルドの一角であるブリリアントを処罰するようなことは避けたい。そこでだ、我が国としては、ブリリアントに汚名返上の機会を与えよう思う。具体的には、ブリリアントに我が国へ属してもらい、ダンジョンが全て討伐されるまで、引き続き我が国の防衛を行ってもらうこととする。異論はないな?」
「却下だ」
そう、これがショメ国の狙い。
防衛失敗を主張し、ショメ国を危険に陥らせたことを罪として扱う。
そして、その罪を保留し、行動次第では罪を軽くすることをにおわせる。
さらに、防衛失敗の汚名返上で、今後も自国の防衛にあたらせ続ける。
もちろん言葉にはしていないが、断った場合は処罰が執行されると、暗に言ってもいる。
承諾、以外の回答がない場面である。
これにより、ショメ国は、自国のために動かせるハンターギルド、それも三大ギルドの一角を手に入れることができるのだ。
「そうか、では、さっそく手続きを…………え?」
誤算は、相手がラウンドということである。
「話は終わりか?」
ラウンドが国王に背を向け、玉座の間の出口に向かって歩き始める。
起こりえない、あまりの行動に、玉座の間の全員が理解ができず、時が止まったように誰も動かなかった。
そして時が動き出す。
「ま、待て! 貴様!!」
手紙を読み上げていた男性が怒鳴る。
「貴様! 話を聞いていたのか! 貴様は今罪人で、陛下の恩情によりその罪を保留されているだけだぞ!」
「それが?」
「それが!?」
ラウンドの思考回路は、至極単純。
すべてがダンジョン討伐への影響に直結する。
ショメ国で罪人になった場合、ショメ国にダンジョンが出た場合の侵入が面倒になる程度。
侵入できないわけではないので、大きな障害にはならない。
ショメ国の国軍がブリリアントを襲撃してきた場合も、すべてを返り討ちにできる自身もあった。
ラウンドの態度に、玉座の間にいる人間の表情が怒りに歪む。
メンズ・ショーメは国王としての威厳を保つためか、努めて表情を崩さず座しているが、目にはしっかりと怒りがこもっていた。
ハンター風情に舐められたとあっては、王族としての誇りに傷がつく。
目の前の無礼を裁かなければならない。
誇りを守るために。
そう思い、口を開こうとした。
「失礼します!!」
だが、それが言葉となる前に、一人の兵が謁見の間に飛び込んできた。
「なんだ! 今は取り込み中だ!」
「申し訳ありません! ですが、緊急伝令です。ハリーウィンス国より、クロウが届きました!」
「なんだと!」
メンズ・ショーメは、兵の言葉に、思わず玉座から立ち上がる。
ショメ国が恐れていた一つは、他国からの責任追及。
魔物がショメ国から発生したのは事実で、他国にまで侵攻したのも事実。
四方八方に散らばったため、具体的にどこの国へ侵攻し、どの程度の被害を与えたかまでは、現時点で確認できていない。
だからこそ、早々に、責任の所在を決定しておきたかったのだ。
責任を取って、厄災の元凶は、ショメ国にて処罰済である。
そのストーリーを、他国から責任追及される前に準備をしておきたかったのだ。
とはいえ、来てしまった物はしょうがない。
メンズ・ショーメは玉座に座り直し、入ってきた兵に目を向ける。
「して、クロウの内容は?」
兵から発せられる言葉を、緊張しながら待つ。
「は! ハリーウィンス国に、ダンジョン出現。額の石からジルコンのダンジョンと推定。ハンターギルド・ミックスにて討伐を開始、他国の援護は無用、とのことです」
「ジルコンのダンジョンだと?」
予想と異なる内容に、メンズ・ショーメは安堵の表情を見せる。
同時に、早すぎる出現への恐怖も感じていた。
十年前、ダンジョンが魔物化した日からしばらくは、十二大ダンジョンはオパールのダンジョンしか存在を確認できていなかった。
そのオパールのダンジョンでさえ、積極的に姿を現すことはなかった。
それが、オパールのダンジョンが討伐されてからというものはどうだ。
ベリドットのダンジョンが出現し、アメシストのダンジョンが出現し、そして今度はジルコンのダンジョンだ。
次から次へと、十二大ダンジョンが出現している。
それも、ダンジョンが討伐されるたびに。
まるで、順番待ちでもしているように。
メンズ・ショーメは、その引き金とでもいうべき存在、オパールのダンジョンを討伐した張本人であるラウンドに目を向けた。
「え?」
ラウンドは、とっくに走り始め、玉座の間を飛び出していた。
焦って止めようとした兵を蹴り飛ばし、窓から飛び降り、最短で王宮を脱出する。
そして、どこかへ向かって走り出していった。
何が起こったかわからないという表情で、玉座の間は沈黙に包まれた。
王宮の間を飛び出したラウンドは走った。
目的地は、ハリーウィンス国。
走りながら、ダンジョン・サーチャーを起動するが、方角も距離も表示されていない。
アメシストのダンジョンの位置を表示しようとするが、既に討伐済みのため、表示されていないのだ。
「ちっ」
これではジルコンのダンジョンの位置がわからないと、思わず舌打ちする。
俺の獲物だ。
その思い一つで、ラウンドは走る。
ブリリアントのメンバーを連れることも忘れ、ただ走る。
走りながら考える。
ハリーウィンス国のどこへ出現したのかを。
アメシストのダンジョンの討伐から、時間は半日も経っていない。
つまり、半日以内に、ハリーウィンス国はジルコンのダンジョンを確認し、王宮に伝わり、王宮からクロウを飛ばし、それがショメ国に到着したと考えられる。
クロウの速度、ハリーウィンス国の王都からショメ国の王都までの距離を考えると、ジルコンのダンジョンの確認から王宮に伝わるまでの時間が逆算できる。
逆算した時間は、ダンジョンの出現位置を絞り込む。
「王都付近」
目的地が決まった。
ハリーウィンス国の王都。
そこへ行けば、何かがわかるだろう。




