40話 ショメ国02
『ああ……』
地上で輝く白い光が消えていく。
地上を走り回る魔物が消えていく。
ラウンドの目の前で、アメシストのダンジョンの左胸に穴が空き、そのまま仰向けに倒れた。
「やったか、あいつら。……おせえよ」
剣を背にしまい、倒れるアメシストのダンジョンの方へと歩く。
『しんじつのあいって、なんだろうね』
「知るか」
『くすくす』
アメシストのダンジョンの体が消滅していく。
指の先から、白い光の粒子となっていく。
『だんじょんをほろぼすの?』
「ダンジョンは絶対撲滅だ」
『そっか』
消滅の直前にも関わらず、アメジストのダンジョンは、恐怖に顔が染まることもなく、たんたんと事実を観測しているような表情をしていた。
『なら、だいやもんどをたおさないとだね』
そのまま、アメジストのダンジョンは消滅した。
体の全てが粒子となって、天へ昇っていった。
「……ダイヤモンド?」
ダイヤモンドのダンジョン。
十二大ダンジョンの最難関と言われるダンジョン。
言われる、というのは、未だに人類が発見した前例がなく、数百年前に書かれた書物の中で触れられているに過ぎないからだ。
――ダイヤモンドのダンジョンは、すべての心臓であり、討伐とはすべてのダンジョンの消滅を意味する
書籍の一文。
その一文が、アメジストのダンジョンによって肯定された。
「ふん」
とはいえ、散々と空っぽの言葉を並べてきた相手の言葉である。
ラウンドは、その言葉を脳の片隅に置き、アメシストのダンジョンが消滅し、何もなくなった場所を見ていた。
しばらくすると、その場所から白い光が円状に広がる。
「つっ……。帰ってきたか」
突然の日光に目を覆いつつ、オーバルが出現する。
「ハート殿とマーキーズ殿は?」
折れた右腕を抑えて、オールドマインが出現する。
ぐったりと倒れた状態で、ハートとマーキーズが出現する。
アメシストのダンジョンに操られていた時に使われた回復魔法により、目に見える傷は概ね治っていたが、意識は未だに戻っていない。
遅れて、他のメンバーと、ダンジョンが所有していたであろう武器や財宝が出現する。
ラウンドとギルドメンバー、数日ぶりの再会である。
が、ラウンドが感傷に浸るなど、あるわけもなく。
「財宝を回収しろ。撤収する」
「ラウンド(はぁと)!ただいまぁ(はぁと)!」
「え? あれ? ハート様? さっきまで倒れて?……あれ?」
ハートが、ラウンドの声を聴くや否や、起き上がり、ラウンドへしがみつく。
意味が分からないといった顔で、メンバーの一人がそれを見つめる。
ラウンドは帰って来た者たちを見渡し、死者が出ていないことを確認する。
その後、右手を骨折しているオールドマインと、伏したままのマーキーズに目を止める。
「ハート。オールドマインとマーキーズを治せ」
「はぁい(はぁと)。……って言いたいんだけど、ごめんなさい(はぁと)。魔力を使い切っちゃって……(はぁと)」
操られていた際、アメシストのダンジョンからダンジョンの魔力を供給されはしたが、地上に戻ってきた時点で供給された魔力は空になっていた。
ダンジョンから供給される魔力は、ダンジョンの一部として扱われる特殊な魔力。
ダンジョンが滅んだ瞬間に消えてしまうのだ。
もっとも、ハート本人は魔力を供給されたときの記憶がないため、魔封じの結界で使い切った状態だと思っている。
「珍しいな」
ハートの状況に、ラウンドは率直な感想を述べる。
そして、マーキーズの元へ移動する。
「ご苦労」
次に、オールドマインの元へ移動する。
「右腕をやる程の相手か」
「年寄りには堪えましたな」
「応急処置をする。手を出せ」
オールドマインの手を取り、水魔法で冷やしたうえで、添え木を当てて包帯で固定する。
ハートが治癒魔法を使えるようになるまでの、応急処置。
最後に、オーバルの元へ移動する。
「回収作業に入れ」
「俺にだけ厳しくね?」
「軽傷だからな」
一通りの財宝を回収し終えると、ラウンドはマーキーズの小さな体を持ち上げ、背負う。
体を揺らさないように慎重に、
そして、火の魔法、水の魔法、風の魔法を駆使し、周囲の温度を体調が悪化しない程度に制御する。
「あ、ずるい(はぁと)!?ラウンド、私も(はぁと)」
「歩け」
「ブリリアントだな。今回の件で、我が国の国王が説明を求めている。一緒に来てもらおう」
町に戻ったラウンドたちを迎えたのは、歓迎の声でも、ブリリアントのメンバーでも、町民でもなく、ショメ国の兵であった。
その表情は、ダンジョンを討伐した英雄を称えるものでは決してなく、犯罪者を見つけたようなものである。
突き付けられた、国王からの呼び出し。
それは、断ることが許されない、絶対の命令である。
「後だ」
ラウンドは断り、素通りした。
「待たんか!!」
兵たちが振り返る。
国王からの呼び出しに足を止めない者などいないと思いこみ、やすやすと素通りさせてしまったことを悔いつつ、即座にラウンドの前へと回り込む。
剣を抜き、突きつける。
「止まれ。さもなければ」
兵の言葉を遮り、ラウンドが突き付けられた剣を蹴りあげる。
剣はパキリと、たやすく折れ、切っ先が宙をくるくると回転し、兵の足元に落ちる。
「後だ」
ラウンドからの二度目の警告。
兵の間に緊張が走り、剣を握る力が強くなる。
ラウンドもまた、全身に力を入れる。
「そこまでだ、マスター。国と一戦やるのは、さすがにやばい」
ピリピリとした空間に、オーバルが割って入る。
「マスター。マーキーズは、俺が運ぶ。マスターは、彼らについていってくれ」
ラウンドは、不機嫌そうにオーバルへ目をやった後、背負っていたマーキーズをオーバルへと渡す。
「連れていけ」
そして、兵に呼び出しを承諾した旨を伝える。
何割かの兵は、少しの安堵の表情を浮かべながら、剣を下ろす。
「よし、ではこちらに来い。おっと、ダンジョンの石は、全て置いていってもらおう。そんな危険なものを、王宮に持ち込ませるわけにはいかないからな」
「ちっ」
ラウンドは荷物を漁り、すべてのダンジョンの石をオーバルに預ける。
その後、兵からのボディチェックを受け、問題ないと判断されると、ラウンドを近くに止めている馬車へ乗せた。
貴族が移動するような高級な馬車でも、平民が移動するような簡素な馬車でもない。
罪人を連行する、逃げられないための工夫が凝らされた馬車である。
ラウンドはその馬車に乗り込む。
先客として、武器を携帯した兵が乗っていた。
ラウンドが乗り込んだ後、もう一人の兵が後に続く。
丁度、ラウンドの左右を、兵が挟むような形である。
そして馬車は走り出す。
向かう先は、ショメ国の王都。
ラウンドが連れていかれた後、残されたブリリアントのメンバーは兵たちから解放される。
「まずはギルドへ戻るぞ」
オーバルの言葉で、ブリリアントのメンバーはギルドへと向かう。
双方とも警戒状態はあるものの、戦闘には至らないに程度には空気が弛緩している。
兵から睨まれ、ブリリアントのメンバーが睨み返す、くらいはあるが、衝突なく、ギルドへと到着した。
「マールはいるか?」
「はひ! なんでひょお!?」
「ハートに魔力回復魔法をかけてやって欲しい」
到着して最初にしたことは、ブリリアントのハンター、マールの呼び出した。
マールは、魔法使いであり、魔力回復魔法という固有魔法が使える。
名前の通り、他者の魔力を回復させることができる。
魔法使いを多く抱えるギルドにとっては非常に有益な能力ではあるが、マール自身の戦闘力が低く、今回のダンジョンでは同行を見送られていた。
なお、ハンターレベルは一。
つまりハンターとなってから、一つもダンジョンを討伐した実績がない。
ハートを見たマールは、ハートの魔力が空っぽであることをすぐに理解し、慌てて近くへ駆けよる。
魔力が空である状態は、スタミナが空である状態と似ていて、現在のハートの疲労が見て取れた。
「魔力回ひゅく!」
マールは両手を開き、ハートへ手をかざす。
マールの手が輝き、その輝きがハートを包んでいく。
ハートの魔力が回復していく。
「……すみまひぇん、全快はできそうにありまひぇん」
「うぅん、大丈夫だよ(はぁと)。ありがとう(はぁと)」
とはいえ、ハートの莫大な魔力をすべて回復させることはできず、途中でかざしていた手を下ろす。
ハートはそうなることも予想しており、笑顔で感謝を述べた後、オールドマインとマーキーズの元へ移動する。
二人を全快できるだけの魔力は回復したので、ハートにとっては及第点だ。
「そぉれ(はぁと)」
ハートの治癒魔法が、オールドマインとマーキーズを包む。
オールドマインは、自身の右腕から痛みが引き、腕の中で砕けた骨が引っ付いていく感覚を覚えた。
マーキーズもまた、顔色が良くなり、ぐったりとした表情も和らいだ。
「おっけ~(はぁと)」
「助かりました、ハート殿」
「いえいえ~(はぁと)」
その後は、魔力が足りる限り、他の負傷したメンバーへ回復魔法をかけていく。
かけることができなかったメンバーも、軽傷程度なので、しばらくすれば勝手に治るだろう。
明日、魔力が回復したハートが治してもよい。
負傷者の問題は、これで解決したといえるだろう。
残る問題は。
「マスター、そろそろ王都へ着いたかな。王宮で暴れてなきゃいいけどな」
「戦闘準備だけはしておきますか。国軍が我々を確保しに動いた場合に備えて」




