22話 ベリドットのダンジョン06
ハイマジシャンインキュバスとハイマジシャンサキュバスの消滅に伴い、固有魔法の効果が切れる。
マーキーズ、オーバル、ハートの三人は、夢の世界から現実に戻ってくる。
「うーむ、ここは……。さっきまで、ピチピチの三歳児と……は!? な、なぜ吾輩はマスターに抱かれておるのじゃ!? マ、マスター、これはいったい何事じゃ!? ま、まさか、吾輩が寝ている間に不埒な真似を……!」
「黙れ」
「んが……。あれ、俺のハーレムは……? って、うお!? 手が石化して!?」
「黙れ」
「うへへへぇ(はぁと)。……あれ、たくさんのラウンドはぁ(はぁと)? あれ(はぁと)? 手が石化して……あ(はぁと)!? なんでマーキーズがラウンドに抱っこされてるの(はぁと)!!」
「黙れ」
目覚めた三人が口々に疑問をぶつけてくるも、ラウンドはそのすべてを一言で切り捨てる。
そして、第四十階層に入ってからのこと、フロアボスの能力を説明する。
怒りを込めて。
「で、お前らはあほ面晒して、眠ってたわけだ」
「「「ごめんなさい」」(はぁと)」
「突然視界が切り替わった時点で、なぜ幻術の類を疑わない」
「「「ごめんなさい」」(はぁと)」
「お前たちなら、幻術を自力で解けるはずだ」
「「「ごめんなさい」」(はぁと)」
「まあいい。おそらく、第四十一階層以降には、魔法を使うインキュバスとサキュバスが増えてくる。マーキーズのゴーレムも破ってくるくらいの実力はあるだろう。ゴーレムを止め、目を瞑って走り抜けるぞ」
フロアボスの力は、以降に出現する魔物の実力を測る物差しとしても使うことができる。
ハイマジシャンインキュバスとハイマジシャンサキュバス。
その実力を理解したうえで、下層の魔物の実力を予想し、方針を決める。
そしてラウンドは立ち上がる。
マーキーズを抱えたまま。
「その……じゃな……。マスター、そろそろ吾輩を下ろしてほしいのじゃが……」
「お前はまだ、目を瞑ったまま行動できないだろ。このまま、俺が抱えて走る」
「いや、確かにそうなのじゃが……。なんというか……の……」
子供心に、抱きかかえられていることに気恥ずかしさを感じ、なんとかおろしてもらおうと言葉を探す。
が、おろしてもらったところで、目を瞑ったまま行動はできないし、ゴーレムなしではラウンドの走りについていける自信もない。
ゴーレムを出したところで、魔法攻撃により、破壊され、止められることも容易に予想がつく。
抱きかかえられて走るのが最善だろうとマーキーズも理解していた。
感情はまだ、追いついてはいないが。
「ペアはオーバルペアはオーバル(はぁと)」
ハートも同時に理解しつつ、その光景への嫉妬を、必死に消そうとしていた。
心が、オーバルからぶれないように。
「肩の近くまで石化が広がったぞ!? ラウンド、この石化、アンモライトの石で回帰できないか?」
「やってみるか」
アンモライトの石が輝き、石化した腕を包む。
輝きが収まった後、そこには石化されたままの腕があった。
「駄目か」
ダンジョンのペナルティによる事象には、ダンジョンの石の効果が適用されないのか。
それとも、ダンジョンの能力同士がぶつかった場合、格の高い能力が優先されるのか。
それはわからない。
とにかく、石化を解除する方法がない、という事実だけ残った。
四人は、第四十一階層へと降りた。
「バゲット様ああああああ!?また二人、完全に石化しました!!」
「邪念を捨てろ! 頭の中で素数でも数えてろ! 目を瞑ったまま戦える者は名乗れ! 無心で斬れ! 魔法を放て!」
第三十一階層に突入した後、ステップのメンバーは次々と石化のペナルティを受けていた。
インキュバスとサキュバスの誘惑に負け、ペアへの気持ちを上回る性欲が掻き立てられていく。
「隊を乱さないで!」
メインとなるのは、スクウェアステップが召喚するアンデットによる突撃である。
アンデットには痛覚も感情がない。
無論性欲も。
夫婦の幸福の試練によるペナルティを受けることはない。
インキュバスとサキュバスに心を乱されることなく、数を倒していく。
しかし、下層に降りるにつれて、過酷さは増していく。
声による誘惑。
そして、見知った顔による誘惑だ。
例え本人ではないとしても、その人とまったく同じ顔と体の存在が、目の前にいるのだ。
少し目線を向ければ、全てを見ることができるのだ。
ギルドメンバーの裸が。
片思い相手の裸が。
そのうえ、他のメンバーは視線をそちらに向けないように、目を逸らしたり瞑ったりと対策をしている。
つまり今なら、見てもバレない可能性が高いのだ。
チラリと視線をやるくらいなら。
そんな誘惑が浮かんでくる。
「あああああ」
「何!?きゃあああ!?」
そして、誘惑に負けるとペナルティだ。
興奮し、意識がそちらに向いた瞬間、体が石化を開始する。
そして、このダンジョンは、ペアとは一心同体。
たとえ自分が見てなかったとしても、ペアが見れば、ペアが誘惑に負ければ、巻き沿いで石化する。
そして思う。
どうせこのまま石化してしまうなら、せめて一目だけでも、と。
石化が加速する。
「くそっ!既に二割は石化したぞ……。この石化は治せるのか? エメラルド様に顔向けができない……」
「……ねえバゲット」
目の前の状況を分析し、次策に苦悩するバゲットに、スクウェアステップが声をかける。
暗い声。
重い声。
「……なんだ?」
「なんで男ども、サキュバスを見ちゃうの?」
「……は?」
「あんなに素敵な女性がペアなのに」
「……!!」
「こんなに素敵な私がいるのに」
スクウェアステップは、ステップ内にファンクラブを持っている。
会員数は八十人で、ステップのメンバーの十分の一。
毎月数人のペースで増えていっている。
つまりこのダンジョンにいる百人のメンバーのうち、十人はスクウェアステップのファンクラブの会員である。
そして、その会員の一人が、石化した。
誰を見ようとしたのかはわからない。
スクウェアステップ型のサキュバスなのか、それとも別の誰かなのか。
わからない。
わかる事実は、スクウェアステップの言葉に、自分のファンと名乗る人間が背いて、見るという選択をしたことだ。
「コンナニステキデカワイクテキレイデウツクシクテカッコヨクテツヨクテミリョクテキナワタシノコトバヲ。ワタシノコトガイチバンスキダッテ、アイシテルッテ、イッショウオスッテイッタジャン?アレウソダッタノ?デマカセ?テキトウ?モテアソンダノ?ワタシヲ?」
「スクウェアステップ……。落ち着」
「ユルセナイ。オマエタチノセイカ?オマエタチノセイダナ?ソウダナ?ソウナンダヨ。ソウッテイエヨ」
「スク」
「シネヨ。シネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネ」
スクウェアステップの"闇堕ちモード"。
ステップのメンバーは、彼女の豹変をそう呼ぶ。




