10話 オパールのダンジョン04
一日に必要なすべての栄養を摂取できる、完全栄養豆。
どんな悪路だろうと一定水準以上の睡眠場所を確保できる、浮遊マット。
現代のハンターがダンジョンに潜る場合の、二大ツールである。
「六時間だ。行くぞ」
ラウンドがそう言い、歩き出す。
他のメンバーも、既に支度を終えており、その後を追う。
この意識の高さこそが、三大ギルドの一角に君臨するギルドのメンバーと言えるだろう。
単純に、寝坊すると過酷なダンジョンに置いていかれるというのもあるだろうが。
ラウンドを先頭に、第三十階層の大広間の階段を下り、第三十一階層の扉を開く。
第三十一階層もまた、今までと変わらない赤いカーペットが敷かれていた。
そして壁は、白い壁が見えなくなるほど、絵画によって埋め尽くされていった。
天井のぎりぎりまで、びっしりと。
天井にもびっしりと。
さらに、壁に沿って骸骨の石像が並んでいた。
全員が、その意味を理解した。
絵画が、石像が、輝きを放ち、魔物を創造する。
絵画から創造されるのは、炎ラットと雷ラット。
メラメラと、バチバチと、音を立てながら次から次へと降ってくる。
石像から創造されるのは、スカル。
人間の骸骨の形をした魔物である。
「「「ぎゃああああああああああ」」」
雨のように降ってくる魔物を見て、メンバーは思わず悲鳴を上げる。
「うるせえ! ハート!」
「はぁい(はぁと)」
もっとも、ラウンドも幹部たちも、気にも留めていない。
ハートは防御魔法で、上と左右に結界を張る。
丁度、通路の中にもう一つ、見えない壁のトンネルが作られたような状態である。
天井から降ってきた魔物たちは、見えないトンネルの天井に着地する。
上では、炎ラットと雷ラットが、結界を壊そうと噛みついたり引っかいたりを繰り返す。
左右では、スカルたちが拳を叩きつける。
「行くぞ」
魔物のいない結界の通路の中を、悠々と駆け抜ける。
ニ十体ほど、結界の中に紛れ込んでいた魔物も、敵ではない。
ラウンドの視界に入った瞬間、切り捨てられた。
続く第三十二階層。
スカルの石像は、壁沿いでなく、通路にばらばらと置かれていた。
絵画もまた、壁に掛けられたものに加え、床にばらばらと散らばっている。
見えないトンネルによって魔物との戦闘を回避させないための、オパールのダンジョンの策である。
また、描かれている魔物も第三十一階層と違う。
ボイスラット。
直接的な攻撃力こそないが、大きな金切声を出し、思考を乱してくるラットである。
「ハート、お前の結界、音は防げるか?」
「無理ぃ(はぁと)」
石像と絵画が輝き、魔物が創造される。
「数が多いな。抜けるのに、一時間はかかりそうだ」
「総力戦になりそうですな、ラウンド殿」
幹部が、メンバーが、武器をとる。
ボイスラットが口を開いた瞬間、全員で魔物たちへと攻撃を仕掛ける。
通路は、瞬く間に乱闘状態と化した。
石像と絵画から、無限に想像される魔物。
魔物たちをひたすら討ち、石像と絵画を破壊しながら進むラウンドたち。
ボイスラットの合唱の中、剣や魔法の音があちらこちらで響く。
膨大な魔物の数ゆえ、討伐に時間はかかるが、着実にラウンドたちが進んでいた。
純粋な地力の差。戦闘力の差である。
第三十三階層に降りる。
第三十三階層の魔物は、第三十二階層とまた変わっていた。
第三十二階層でラウンドたちが使用した武器、魔法、技と相性が悪い魔物が増えていた。
第三十四階層も、第三十五階層も、降りれば降りるほど、その傾向は強くなっていった。
「初めての感覚だ」
そんな状況を、ラウンドはほんの少し楽しんでいた。
第三十階層までは、今までのダンジョンと比べても、魔物の数が多いだけという感想しか抱かなかった。
だが、第三十一階層以降、ダンジョンが学習して即座に魔物の種類を変えてくるこの状況は、今までのダンジョンにない恐さがあった。
十二大ダンジョンゆえの恐さがあった。
ラウンドは強者として、恐さを与えてくれるものに、楽しみを感じていた。
「危険だな。やはりダンジョンは絶対撲滅だ」
が、そんな楽しみも、あっさりと恨みが塗りつぶす。
第三十六階層、突破。
第三十七階層、突破。
第三十八階層、突破。
第三十九階層、突破。
第四十階層。
フロアボスはジャイアントナイトスカル。
身長が四メートルある、剣と盾を装備したスカルである。
当然、ラウンドよりもはるかに大きい。
巨大であるということは、それだけで強い。
巨大な体を支えるために、骨がより硬くなっているからだ。
「でかい的だ」
もっとも、その硬さを超える攻撃をもっているなら関係ない。
ラウンドは大剣で、ジャイアントナイトスカルを真っ二つにする。
第四十階層、突破。
そのまま、第四十一階層へ降りる。
絵画と銅像がばらまかれた通路。
もはや変わりばえのしない光景である。
剣と盾を装備したスカル、ナイトスカル。
弓矢を装備したスカル、アーチャースカル。
魔法を使うスカル、マジシャンスカル。
全身が鋼鉄で覆われているスカル、スチールスカル。
全身が炎に包まれているスカル、炎スカル。
その他、様々な能力を持ったスカルたちが次々と創造される。
が、変わりばえのしない光景である。
魔物が変わっただけ。
「やることは同じだ!全員、死ぬ気で戦え!」
「「「おおおおお!!!」」」
オーバルの号令で、全員が雄たけびを上げる。
オーバルは、先頭にいるラウンドに近づく。
「創造の試練、数が多いのは厄介だが、この調子ならいけるな!」
「ああ」
言葉にはしないが、ラウンドも同じ気持ちではあった。
思考は既に、最終階層のフロアボス、オパールのダンジョンの討伐へと向いていた。
機械的に、魔物を、絵画を、石像を討っていく。
機械的に動いていたから、気づくのが遅れた。
「ん?なんだありゃ?」
最初に気づいたのは、オーバルだった。
勘が鋭いせいで、細部の違いを見逃さないせいで、一枚の絵画の違和感に真っ先に気づいた。
その絵画には魔物が描かれていなかった。
代わりに、人間が人間を剣で刺す絵が描かれていた。
気づいたときには、オーバルの剣が、ラウンドの体を貫いていた。
『甘いよ』
最終階層にて、オパールのダンジョンがほほ笑んだ。




