09話 オパールのダンジョン03
「遅い」
ラウンドが第十階層のフロアボスを討伐してから、一時間三十分後。
ギルドメンバー全員が、第十階層へと到着した。
「本当だよ~、皆遅いよぉ~(はぁと)。よし、これで勝負。ストレート(はぁと)!」
「フルハウスだ」
「あ~……(はぁと)。負けちゃった(はぁと)」
トランプで遊んでいるラウンドとハートに一言をいれる余裕もなく、到着したメンバーは疲労でその場にへたり込んだ。
新入りメンバーは全員、気を失っていた。
「全員揃ったな。では、第十一階層に降りる」
「「「無理いいいいいいいいいい!!??」」」
大広間に、悲痛な叫びが響く。
それはメンバーにとって、心からの言葉である。
だが、同時に茶番でしかないことも自覚をしている。
彼らは知っているのだ、この後の展開を。
「ハート」
「はぁい(はぁと)」
ラウンドに呼ばれ、ハートが立ち上がり、杖を手にメンバーに近づき、杖を向ける。
「元気になぁれ(はぁと)!」
その瞬間、メンバー全員が白い光に包まれる。
ハートは、固有魔法を得意とする魔法使いである。
魔法は、大きく三つに分けられる。
攻撃魔法、防御魔法、そして固有魔法だ。
攻撃魔法は、ラウンドが好み、火や風を作り出し、魔物を倒すための魔法だ。
防御魔法は、物理的な攻撃を防ぐ結界や魔法攻撃を防ぐ結界を作り出し、魔物の攻撃から身を守るための魔法だ。
どちらも、人間であれば誰でも、努力次第で習得できる。
一方の固有魔法は、攻撃魔法にも防御魔法にも属さない魔法を指し、なおかつどれだけ努力しても後天的に習得することができない。
そのため、固有魔法を一つ以上使えることが、魔法使いの適正と考えられている。
そしてハートは、生まれながらに三つの固有魔法を使うことができた。
そのうちの一つ、最も得意とするのが、回復魔法である。
一般的に回復魔法と呼ばれる固有魔法は、一人を対象に取り、治癒力をあげることで、じわじわと傷を治していく魔法だ。
しかし、ハートの回復魔法は対象をとらず、自分の周囲に存在する人間全員の治癒力をあげることが可能だ。
「おお、傷が癒えていく」
「疲労がとれていく……」
「おおお! まだまだいけるぞ!!」
それに加え、ハートはダンジョンの石の一つ、アンバーの石を保有している。
アンバーの石は、所有者に高度な回復魔法の能力を与える。
回復魔法は、あくまでも対象の治癒力をあげて、傷を癒す効果しかない。
人間が自身の治癒力で回復可能な範囲までしか回復できない。
例えば、軽い擦り傷や切り傷は治るが、深すぎる傷であれば傷跡が残り、切り落とされた部位を再生することもできない。
対して、アンバーの石は、一人を対象にとり、傷を負う前の状態に無条件で戻すことができる。
傷跡一つ残さず、切り落とされた部位さえ再生させる。
そのうえ、肉体的な疲労も精神的な疲労も癒す。
ハートの回復魔法とアンバーの石の治癒魔法。
この組み合わせにより、ハートは自分の周囲に存在する人間全体に対し、問答無用な回復を可能にしていた。
「全員治ったよ(はぁと)」
「よし、では第十一階層に降りる」
そう、問答無用な回復。
「「「……うっす」」」
それゆえ、疲労を理由に休むことはできないのだ。
回復してるのだから。
ブリリアントの面々は、様々に思うところがあるまま、第十一階層へ進む。
第十一階層。
先程までと同様、大理石の床に敷かれた赤いカーペットと白い壁、そして壁に等間隔に飾られる絵画である。
先程までと違うのは、分岐している通路と、絵画に描かれている魔物の絵である。
牙の長いラット――牙ラット。
全身から放電をしているラット――雷ラット。
長い角を持つラビット――角ラビット。
ラットやラビットと似ているが、一点突き抜けた攻撃方法があるのが特徴である。
「ずいぶん、ドブネズミとウサギが好きなダンジョンだ」
絵画が輝き、魔物が創造される。
ラウンドは第十階層までと同様、魔物に向かって走り、すぐさま魔物ごと絵画を斬りにかかる。
牙ラットは、斬るのに少し硬い部分があるだけ。
雷ラットは、斬った後に少しピリピリとするだけ。
角ラビットも、斬るのに少し硬い部分があるだけ。
ラウンドにとっては、ただのラットとラビットと変わらない。
「ははははは!」
斬り、笑い、ラウンドは走る。
その後を、他のメンバーが続く。
背中に張り付くように、ハートを背負ったオーバル。
その後に、新入りを含めた上位~下位のメンバー。
しんがりに、オールドマイン、といった順だ。
ラウンドが斬りそびれた――というより斬り飽きて放っておいた魔物の討伐は、後続の役目である。
三匹の雷ラットが、オーバルへと向かってくる。
「お前ら、任せた」
「「「え??」」」
オーバルはそれを飛び越える。
雷ラットは、後続のメンバーへと向ってくる。
状況を理解したメンバーのうち、三人が即座に対応を始める。
一人は剣で切る。
一人は弓で射る。
一人は土の魔法で押しつぶす。
「ぎゃああああああああああ」
三匹の雷ラットは一撃で絶命し、剣で雷ラットを斬ったメンバーは、感電してその場に倒れた。
触れた相手を感電させる能力こそが、雷ラットの恐れられる特徴である。
なお、倒れたメンバーはオールドマインによって即座に回収された。
「邪魔だ、ネズミ!」
本来であれば。
ラウンドの様に、感電に慣れてなければ。
絵画から現れる魔物たちを、ばたばたと切り捨ててラウンドたちは奥へと進む。
「分かれ道か」
そして、ぶつかる。
左折か、直進か、右折か。
三つの分かれ道。
「どれだ?」
ラウンドが、後ろを振り向かずにオーバルへと問う。
「右だ」
「え~(はぁと)?私、左だと思うなぁ(はぁと)」
「右へ行く」
オーバルは、勘が鋭い。
同行してるときは、ラウンドが判断を全面的に任せるほどに。
オーバルは剣士である。
魔物によって剣と魔法を使い分けて力押しするラウンドと異なり、剣一本ですべての魔物を倒してきた。
魔物の中には、鋼鉄のように硬い皮膚を持つ魔物や、雷ラットのように触れた相手を感電させる能力を持つ魔物といった、剣士との相性が悪い魔物も存在する。
並の剣士であれば、相性の悪い魔物を倒すために初級の魔法を覚えたり、魔法使いを仲間にすることで、相性の悪さに対応していく。
そう、並の剣士であれば。
オーバルは、相性の悪い魔物に対し、その魔物を剣一本で倒す方法をひたすら突き詰めた。
相性が悪い魔物なら相性ごと斬り捨てればいいだろ、と考えた。
鋼鉄のように硬い皮膚を持つ魔物なら、最も柔らかい部位を斬ればいい。
柔らか部位がなければ、鋼鉄さえ斬ることのできる斬撃を習得すればいい。
触れた相手を感電させる能力を持つ魔物なら、その能力が切れた一瞬の隙に斬ればいい。
隙が無ければ、電撃ごと斬り、電撃が剣を伝って手に届く前に、剣から手を離せばいい。
その結果身についたのが、視界にとらえた状況を瞬時に解析し、最善の手を導く能力――オーバル曰く、勘の良さである。
今回の三つの分かれ道も、微妙な絵画の配置の違いや、通路の奥から聞こえる僅かな音を頼りに、正しい通路が右であると看破したのだ。
「正解だな」
道に迷うことがなければ、第一階層も第十一階層も、さして変わらない。
あっという間に、第二十階層のフロアボス、第三十階層のフロアボスを討伐する。
ダンジョンに入って、およそ十八時間が経過していた。
「では、第三十一階層で降り」
「マスター、そろそろ飯と睡眠にしないと、いくら回復魔法を使っててもメンバーが限界だ」
「……まだ二十時間も経ってねえぞ」
「常人には限界だ。飯と睡眠だ。これは譲れん」
「……わかった。ここで六時間、休憩をとる」
最下層――第六十五階層。
玉座に座るオパールのダンジョンは、ラウンドたちの様子を眺めていた。
『ぼくの芸術を理解しない、下等種族が……』
イライラとした表情で、足で床をダンダンと踏みつける。
ダンジョンには、個性がある。
創造の試練を司るオパールのダンジョンは、創造物に対するこだわりが強い芸術家肌である。
一見すると、どこにでもいるラットとラビットばかりのダンジョンである。
が、よくよく見ると、毛並みの本数から、目鼻口の位置まで、極限まで美しくなるように作られているのだ。
こだわりの逸品である。
だからこそ、それが次々破壊されていく現状が、我慢できなかった。
『仕方ない。少しだけぼくの美学とずれるが、あの絵を置くか』
第三十一階層が、ガタガタと音を立てて変わっていく。




