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3. 悪役令嬢は春のイベントに勝手に参加する

「お休み?」

「はい。実家の手伝いを頼まれてしまいまして」


 午後の昼下がり、私はエメに連れ出されてオルブライト公爵家の中庭で優雅なお茶の時間を過ごしていた。部屋にいると、だらけるという理由で……


「ゼフィールのお祭りね。城下は盛り上がるらしいわね」

「はい。うちは商家なので、いつも手伝いに駆り出されるんです。お祭りの二日間程、よろしいでしょうか?」

「ええ私は大丈夫。楽しんできてね」

「こき使われるだけなので、楽しくはないんですけどね」


 私はなんでもない風を装って、ハーブティーを一口飲む。


 ゼフィールのお祭りか……

 春の訪れを告げる豊穣の風が吹く頃(要は春一番)花々が咲き乱れる春をお祝いするお祭りで城下は毎年盛り上がる。


 勿論、乙女ゲームも盛り上がる。

 メインストーリーの合間にある番外編で、個別ルートに入ったときに起こる最初のイベントだ。

 春の花々で飾られた街をヒロインと攻略対象がデートするのだ。スチルもゲットでき、友達以上恋人未満の初々しい二人に身悶えたものだ。クライヴルートでも、ここは早送り(スキップ)せず堪能させていただいた。


 そんなことを思い出してしまったため、ある欲がむくむくと湧いてくる。聖地巡礼したいと……


「……なので、お嬢様?お嬢様?話聞いてますか?」

「ええ。聖地巡礼のことよね」

「何をおっしゃられているのですか?また良からぬことをお考えじゃないでしょうね?」

「やべっ、いや、あら!このハーブティー美味しいわね」

「……ええ。そのハーブティーはアルベール殿下から送られてきたものですよ。整腸作用と緊張緩和に効果があるそうです」

「アル様が」


 アル様から本気を出す宣言をされてから、何が起こるのかとびくびくしていたが普段通りに逢瀬を重ねている。変わったことと言えば、お手紙にプレゼントが添えられるようになったことだろうか?

 

 最近、平和すぎて焦っている。

 週に数日ユリウスと一緒に、アル様と第五騎士団に通い充実した日々を過ごしている。第五騎士団に入り浸っていると副団長補佐の眼鏡が、どこからか現れて青い顔しながらアル様のところに抱えて連れていかれるけれど。


 このままのほほんと過ごしていていいのかという疑問と、気づいたらゲームのシェリルのように好きな人に裏切られ傷つけられるんじゃないかって不安が拭えなかった。


 アル様は一緒に過ごしていても肝心なことは話してくれないのだ。ゲーム上の情報ではあるが、攻略対象者としての事情を知っているため、話してくれないということは私とアル様に埋められない距離があることを突きつけられているようで悲しい。

 アル様の態度を見ていれば気持ちがあるのはわかるのに安心できない。私はどんどん欲張りになっている。


 ヒロインのようにゼフィールのお祭りを一緒に行けたら距離が縮まるのだろうか?私達は身分的に簡単に城下に出られるわけではない。一緒に過ごしたいけれどデートに誘うなど夢のまた夢、現実はとても厳しい。

 もし将来、私を差し置いてヒロインとデートなんてされた日には…… いや、考えるのはよそう。


 ハーブティーの入ったティーカップを置いて、頬杖をつき溜め息をこぼす。


「はぁ、このもやもやを庭に向かって叫んだら、すっきりするかしら?」

「……いえ、庭師が驚くのでお止めください」


 そういえばアルベール殿下だけ、お祭りデートイベントはなかった。王宮内でのイベントだったと思う。

 でも他のキャラクターを探して、お祭りの日に街をうろちょろしてると偶然会うことがあるけれど会話して終了、ただそれだけだった。あれは、どういう意図があったのだろうか?



 ゼフィールのお祭り当日。


「三つ編みですか?」

「そうよ、凝らなくていいわよ。後ろで一本にしてね。今日は三つ編みの気分なの」

「承知いたしました」


 エメは昨日から、休暇に入っていた。鏡台に座り代わりのメイドが髪を結ってくれている。今までしたこともない髪型にメイドが首を捻っている。


「あら、バッチリじゃない」

「ですが、ドレスには合わないかと……」


 姿見に写るのは、パステルグリーンのドレスにひっつめ髪の公爵令嬢。後ろで三つ編みが揺れている。なんとミスマッチ。


「ああ、着替えるからいいのよ」

「着替える?」

「ああ、違うわよ!勉強、勉強するのよ!私は書庫に行くから。私が呼ぶまで入ってきちゃだめよ。勉強するんだから!」

「でしたら、お茶を……」

「いいから!今日は人手が足らないんでしょう?」


 鶴の恩返しのように絶対に入ってくるなと言付けて、メイドを追い出す。

 扉に耳をつけて、バタバタと離れていくのを確認してからベッドの下から準備していたものを取り出し、ニヤリと悪い笑みを浮かべる。


「おほほ、バッチリね」


 準備していたものを持って意気揚々と書庫に向かった。


 私は一階の薄暗い書庫でシンプルな白シャツにベストをはおり花柄のスカート姿に着替えていた。


「あとは、エプロンと三角巾ね。ブーツは茶色がいいわね。やだ、完璧!!」


 全身は見えないが、窓に写る自分を見て拍手してしまった。どこからどうみても街娘だわ。


 今年はゼフィールのお祭りに参加することを決めていた。乙女ゲームに転生したのにイベントに参加しないなんてファンとは呼べない。というか一人でいると色々考えてしまうのもあるから、パーっと遊びたかった。


 このために一週間、作戦を練った。

 誰にも見つからず屋敷から脱走し、見つからないようにお祭りを楽しみ帰ってくれば大丈夫。脱走する場所は、裏門からだ。もう少しで荷物を搬入しに商人の幌馬車がくる。商人はうちの侍従と一杯お茶を飲んで帰るから、その隙に幌馬車に隠れ街まで運んでもらう予定だ。この一週間、何度下見に通ったか、えっ帰りはって?どうにかなるでしょう。


 書庫の窓を開けて、窓枠に足をかける。一度窓枠に乗りジャンプしようとした瞬間、ユリウス(やつ)が入ってきた。


「姉さん、勉強してるんだって?めずらし、ってあっ!」

「ユリウス、あなたタイミング悪すぎ」

「な、な、何してるんだよ!なんだよ、その格好!」

「ちょっ、ちょっと、ユリウス離しなさい!」


 無視して外に出ようとしたが、スカートを引っ張られ体勢を崩し、ユリウスの上に落ちる。


「ふぎゃっ!!」

「きゃっ!!」


 攻略対象のくせに私の重さに耐えられず、蛙のようにぺしゃんこに潰れてる。


「いたた…… 危ないじゃない!」

「こっちのセリフだよ。今度は何を企んでるんだよ」

「企んでるなんて失礼ね。お姉ちゃんは、お祭りに参加するのよ。じゃあね」

「まつりっ!?」


 スカートの埃を払って、もう一度窓枠へ足をかけるとユリウスが腰にしがみついてきて強い抵抗にあう。


「だめだって、ばれたら今度こそ外出禁止になるよっ!」

「ばれなきゃいいのよ!いっいから離しなさい!」

「だめだよ、クライヴ様(師匠)に姉さんが何かしたら、止めろって言われてるんだ!」


 チッと舌打ちをして窓枠から足をはずす。なんと恐ろしい方クライヴ様。こんなことまで見越してるなんて。まぁ、あの後も色々やらかしてるからな。王宮では副団長補佐の眼鏡がびったり張りつくようになっちゃったし……

 しかし甘いわクライヴ様、このもやしっこに私を止められるはずがない。こうなったら、ユリウスを道連れにするしかない。


「あら、ユリウスいいのかしら。お姉ちゃんにそんな口を聞いて」

「なんだよ」

「あのこと、クライヴ様に喋っちゃおうかなー?」

「は?はあー?はったりなんか効かないからね」

「あれあれ?ユリウスは五歳まで……」

「わー!わー!わー!」


 フフンと胸を張ると、ガックリとユリウスが項垂れる。お姉ちゃんに楯突こうなんて百万年早いんだよ。


「ほら時間ないんだから、ユリウスも着替えなさい」

「えっ?」

「これよ!」


 私は準備していた下町の子供1の衣装をユリウスに押しつけた。


 ユリウスが着替えにもたついてハラハラしたが、間一髪で幌馬車に転がりこむことに成功した。今、街に向かって公爵家の姉弟が幌馬車の隅で揺られている。


「こんなに揺れる馬車初めてだよ。お尻痛いし気持ち悪い……」

「我慢なさいな。庶民の乗り物はこんなものよ。次期公爵として勉強しなさい。民の上に立つのだから。でも、うっぷ、揺れが気持ち悪いわね」

「……吐かないでよ」

「……ユリウスもね」


 二人、無言でただ時が過ぎるのを待っているとガタンと、いきなり幌馬車が止まる。ユリウスが幌の入り口に向かって転がっていった。

 商人が幌の入り口にいないのを確認してから二人で馬車から、ふらふらになりながら降りる。なんとか商人に気づかれずにすんだ。


「ぼ、ぼく、もうダメだ」

「お姉ちゃんもよ」


 二人とも車酔い状態で道端の草っぱらに倒れこむ。

 ……この後のことは想像にお任せする。





 なんとか復活して目当ての大通りへと足を踏み出す。お祭りに相応しい快晴の空に開始の花火が鳴っていた。


「わあー」

「綺麗ねぇ」


 会場に近づくにつれ、どんどん出店が増えていき賑やかになっていく。家も店も街全体が春の花で埋めつくされていた。スチルでしか見れなかったから、実際の光景は圧巻の一言だった。ユリウスも好奇心に溢れた目で辺りをキョロキョロと見ている。

 人もだんだんと増えてきている。これなら、貴族令嬢なんてばれないわね。


「姉さん、お金は持ってきてるの?」

「持ってるわよ」


 ごそごそと斜めがけにしたポシェットをあさる。一枚の硬貨を取り出し、ユリウスに見せる。


「き、金貨じゃないか!そんな大金どこから持ってきたの?」

「お父様に、お小遣いちょうだいって言ったらくれたわよ」

「馬鹿か、あの親は…… 金貨なんて使える出店あるのかな?」

「そうなの?じゃあ、これをお金に変える?」


 もうひとつ、ポシェットから取り出す。世の悪役令嬢は追放されるときに、これをお金に変えていたはずだ。


「ブローチか。って、それ宝石がついてるじゃないか!隠して、隠して!」

「もう、ユリウスはうるさいわね。小さいから、そんなに高くないわよ。お母様が言ってたもの」

「大きさの問題じゃないから、ついてきて良かった。姉さんが、こんなに世間知らずとは知らなかった。僕が鞄を預かるから、ほら早くして!」

「もう、わかったわよ!」


 ユリウスにポシェットを渡すと、横から威勢の良い声がかけられる。


「そこの可愛いお嬢ちゃん、坊っちゃん。うちのケーキ味見してってくれよ!」

「あら、よろしいの?」

「ちょっと、姉さん!」


 可愛いという声かけに気を良くして、出店をのぞく。そこには砂糖漬けの色とりどりの花を使ったパウンドケーキが並べられていた。


「わあ、かわいい!」


 白い髭を生やした笑顔のおじさんが、だろう?とお盆に乗ったパウンドケーキを勧めてくる。


「でも僕達、お金がないですから」

「そんなのいいって。今日はお祭りだ。遠慮するな!」

「まぁ、いただきますね」

「ちょっと、姉さん!」


 一切れ取って食べると、微かな花の香りと程よい甘さが口に広がる。

 んー頬っぺたが落ちる。


「ユリウス、美味しいわ!食べてみて!」

「坊っちゃんもどうぞ」


 ユリウスはしぶしぶ一切れ取って、食べている。ユリウスは甘いもの苦手だもんね。そんなに警戒しなくてもいいのに。


「ご馳走さま。とても美味しかったですわ。そうだ、おじさま。ここら辺に品揃えの良い本屋はないですか?」

「姉さん、本なんて買わないよ」

「わかってるわよ。ちょっと覗くだけよ」


 今回の目的はお祭りだが、もうひとつ城下の本屋に興味があったので覗いてみたいと思っていた。もちろん、恋愛小説を。できれば数冊、気に入ったものがあれば調達できないかと思っていたのだ。


「ああ……それなら、そこの角を曲がって、真っ直ぐいくと突き当たって右の路地にあるよ」

「ご親切にどうもありがとうございました」


 親切なおじさんに手を振り、言われた通りに足を進める。

 ユリウスは大通りから離れることに不安なようだ。


「姉さん、本当に行くの?」

「大丈夫よ。行ってなかったら引き返してきましょう」

「大丈夫かなあ」


 路地を歩いていくとだんだんとお祭りの喧騒がなくなり静かになってくる。太陽が射し込まなくなり薄暗くじめっとしてきている。だいぶ歩いたけど突き当たりが見つからないし、お店なんてものはなく古い家が並んでいる。この場所に本屋があるようには思えなかった。だんだんと嫌な予感して不安になってくる。あの優しそうなおじさんに騙されたのだろうか?


「ゆ、ユリウス。おじさん間違ったみたいね。やっぱり戻りましょうか?」

「うんそうしたいけど、もう遅いかも」


 うん、やっぱり来るよね。暗い路地の定番、ごろつきどもが。


 気づいたら前も後ろも下品な笑いを浮かべた男の人達、十人ほどに取り囲まれていた。みんな髪がボサボサだったり無精髭を生やしたりしていて、第五騎士団の面々が上品に見えるほどだった。


「よお、お嬢ちゃん。本屋探してるんだって。案内してやろうか?」

「ふはっ!案内は少々金がかかるが、お嬢ちゃん達なら大丈夫だろう?」


「っつ、結構ですわ。道を間違えたようなので、自分達で大通りに戻るので大丈夫です」

「ね、姉さん……」


「結構ですわだって!ふはははは!」


 下品な大声に驚き震えるユリウスを守るように抱きしめる。

 ジリジリと少しずつ男達が近寄ってくる。馬鹿にしたような下劣な笑い声をあげて、リーダー格の男が私と距離をつめ腕を掴んでくる。


「離してっ!」


「ヒュー。これは、上玉だ。色々使えるぞ!」

「ひゃははは!」


 腕の力が強くて、子供の力じゃ振り払えない。

 周りの男達も色めきだち、私達に向かって四方から手が伸びてくる。

 他にこの道を行き交う人は見当たらず大声を上げても無駄なようだった。民家はあるのに面倒ごとに巻き込まれたくないのか誰も助けに出てくる人はいない。

 これは最大のピンチかもしれない。冷や汗が流れる。足を踏ん張って耐えるが強く腕を引っ張られ、簡単にユリウスから手が離れてしまう。ユリウスも捕まえられ身動きがとれなくなっている。


「ユリウスっ!」


 もうだめだ!と思った瞬間、目の前を何かが横切り、私を掴んでいた男が吹っ飛ばされていく。路地の横に吹っ飛ばされた男は殴られたらしく顔を腫らして伸びている。

 へなへなと座り込むと、ユリウスを捕まえていた男も誰かに腹に蹴りを入られ地面にうずくまった。


 私達を背に庇い、見覚えのある二人の男性が男達の前に立ちはだかる。

 ユリウスが歓喜の声を上げる。


「師匠!」

「眼鏡!!」


「まったく。貴族の子供が彷徨(うろつ)いてるっていうから来てみれば、なんで君たちなのかな?眼鏡、うちの騎士団はいつから子守りをするようになったんだ?」

「私は眼鏡じゃなくて、ニコラス・バークリーという名前があるんですけどね。クライヴ様が甘やかすからですよ」


 二人は騎士団の制服は着ておらず、シャツにズボンというラフな出で立ちだった。

 二人が剣を鞘から引き抜くと、一斉に男達が襲いかかってくる。

 そこからは素早かった。二人で何人もの男を相手にして、地面に叩き伏せていく。


鮮やかすぎて、不謹慎だが騎士に守られるヒロインの気分が味わえて体が震えた。ユリウスも隣で拳を握って震えていた。とうとう、あんたもこっちにきたのね。ようこそ……


 時間にして十分かかっただろうか?


「あとは街の警邏隊に任せようか」

「そうですね」


 二人は剣を鞘に納めると、私達を怖い顔で見下ろしている。無駄に容姿が整ってる分、凄みが尋常じゃない。漫画だったら、背景にどす黒いもやと効果音がつきそうだ。


「……さてと、説明してもらおうかな」

「ひいっ!き、貴族なんて人違いではないですか?私はしがない街娘でしてよ。おほほほ、ではありがとうございました」

「姉さん、無理があるよ」


 ユリウスを置いて逃げようとすると、クライヴ様に首根っこを掴まれ軽く持ち上げられる。


「ふざけるのもいいかんげんにしろ!こんな、お綺麗な服を着た街娘がいるか!俺達が来なかったらどうなっていたと思ってる!」

「うー、ごめんなさい」


 ユリウスはポシェットを取り上げられ、眼鏡に金貨やブローチを見つけられてしまう。


「まったく……、頭が痛くなりますね」

「それは、姉さんが……」

「言い訳は聞きたくありませんね。そもそも……」


 街の警邏隊が到着し後処理が済むまで、私達はクライヴ様とニコラス様にたっぷりと怒られ続けた。

 その怒られっぷりに警邏隊の人達が、ドン引きしてたからね。


「もうそのくらいにしてあげて」

 

 警邏隊が引き上げた後、私とユリウスが子猫のようにふるふる震えていると横の路地から、聞き覚えのある落ち着いた声が聞こえる。


「アルベール殿下、用は済みましたか?」

「まあね」


 クライヴ様が声をかけると、私の推し、心の癒しのアル様が現れた。神様、仏様ー!なんて神々しいの!


「あ、アル様ー!」

「やあ、シェリル。こんなところで会うとは思わなかっ、おっと」


 アル様の胸に躊躇なく飛び込むと、優しく抱きしめてくれる。


「これはずるい。僕も怒ってるんだけど」

「うっ、うっ、ごめんなさい」


 頭を優しく撫でられ、少しずつ涙が落ち着いてくる。もう、あの二人の近くに行きたくない。


 あれ?なんで、殿下がここにいるの?

 私の疑問に気づいているはずなのに答えはくれず、アル様は私の手を取り恋人繋ぎをして歩き出す。


「シェリルは捕まえておかないと、すぐどこかに行っちゃうから」

「あれ、アル様どちらへ?」

「ゼフィールのお祭りを見たかったんでしょ?僕とデートしよう。その代わり僕から離れるのは禁止だよ」

「でっででで、デート!?」

「デが多いよ。いや?」

「いえ!喜んでお供します!」

「はは、やっと笑顔になった」


 もうお説教は勘弁だと、食いぎみに返事するとアル様にデコピンをされて反省してないなと可笑しそうに笑われてしまう。

 額をさすり口を尖らせながらも、顔が火照ってくる。アル様とデートなんて嬉しくて、嬉しくて、でも言葉にするには恥ずかしくて手を握り返した。


「微笑ましいですが、俺が警護でついてくのを忘れないでくださいね」


 クライヴ様が苦笑いしながら、私達から距離を置いて歩いてくる。


「僕も行きたい!」


 ユリウスも涙をぬぐいながら、後を追ってこようとしたが眼鏡に荷物のように担がれる。


「野暮なことをしてはだめです。あなたは帰るんですよ」

「ええー」

「オルブライト公爵様が屋敷で待ってますからね」

「うわあああん、絶対嫌だよー。ずるいよ、お姉ーちゃんー!」


 遠くにユリウスの悲鳴が聞こえる。お父様は、私に甘いがユリウスには厳しいのだ。

 済まないユリウス。お姉ちゃんが全面的に悪いが、今日だけは許せ。

 安心しろ、骨は拾ってやるからな。


 

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