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欠陥奴隷の英雄偽譚 ~レベル上限のある世界をスキル強奪チートで這い上がる~  作者: 結城 からく


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第71話 欠陥奴隷は窮地を乗り越える

(こいつ、暴走している……ッ!?)


 俺は触手に動きを囚われながら驚愕する。


 激しく震えている魔族は、とても理性が残っているとは思えない。

 触手は続々と体内から生えながらのたうち回っている。

 その一部が俺に絡まっている状況だった。

 たぶん近くの生物を本能的に襲っているのだろう。


 暴走する魔族の胴体に、横一線に裂け目ができる。

 そこが口のように開閉し始めた。

 内部にびっしりと牙が覗いている。


 触手は凄まじい力で引っ張ってくる。

 どうやら俺を喰らおうとしているらしかった。


「ぐ、このっ……!」


 俺は渾身の力で抵抗するも、腕が動かせない。

 触手の拘束は、全力の俺すら捻じ伏せるほどに強固だった。


 魔族は、理性を代償にさらなる進化を遂げたのだ。

 ただの化け物へと変貌している。

 本人はそれを悔いる心すら既に持ち合わせていないが。


 触手に引きずられる俺は、徐々に本体へと接近していく。

 牙を生やした口が、涎を垂らして俺を待ち構えていた。


「大人しく、喰われて、たまるかぁッ!」


 俺は吼えながら首を強く振り、頭に巻き付いた触手を【炎角】で切り裂いた。

 次に顔面を覆う鱗や甲殻を解除して、首元を絞める触手を噛み付く。


 咄嗟の判断で【反撃】を使って、そこに【大食い】【噛み砕き】【捕食】を追加して後押しした。

 さらに【毒牙】と【溶解液】で触手を弱らせた。

 独特の苦みに顔を顰めつつ、ついには食い千切ることに成功する。


(力任せではなく、切断を狙うのが良さそうだ)


 触手の弱点に気付いた俺は【骨鉄刃】を有効化し、全身から幾本もの骨刃を飛び出させた。

 そうすることで絡み付いた触手を一気に切り離す。


 ようやく自由になった俺は、口内に残る触手の破片を吐き捨てながら転がった。

 間一髪のところで魔族の口から逃れる。


 その時、触手がさらなる増大を始めた。

 細かく枝分かれすると、再び襲いかかってくる。


(手数が多すぎる……ッ!)


 俺は骨刃で触手を切り飛ばしながら焦る。


 触手は怒涛の勢いで殺到する。

 いくら切断されても構わず襲いかかってきた。

 今まで反応していなかった分も総動員されている。

 俺をただの餌ではなく脅威として認識したのだろう。

 徹底して仕留めようとしている。


(魔力も減ってきた。不味い、何とかしなければ……っ)


 焦りだけが膨らむ中、片脚に触手が巻き付いてきた。

 俺は骨刃を出して切断を試みるが、その前に引っ張られて転倒する。

 隙を見つけたとばかりに、頭上から触手の波が押し寄せてきた。


 その光景を目の当たりにした俺は、反射的に死を予感する。


 刹那、触手の大群が細切れになった。

 不可視の何かによって分解されたのである。


 いや、目を凝らすと霧のような物体が漂っているのが分かった。

 その霧が次々と触手を切り刻んで、俺への接近を的確に阻んでいる。


「この攻撃は……」


 尻餅をついた俺は、予想外の現象に呆然とする。

 すると後ろから誰かが歩み寄ってくる気配があった。


 振り返ると、険しい顔をした英雄ニアが立っている。

 彼女は無言で俺を引き起こすと、刃の無い柄を握って言う。


「細かいことは聞かない。今は、魔族を倒すことに集中する」


「わ、分かった」


「それと、あなたの言葉は伝わった。感謝している」


 ニアは魔族を睨みながら言う。


 きっと色々と訊きたいことがあるはずなのに、彼女は自らの使命を優先している。

 すなわち眼前の魔族を討伐することだ。

 仲間の死で心が折れたかに見えたが、この局面で復帰してきたらしい。


(さすがは英雄だ)


 俺は触手を解体し続けるニアを一瞥して笑う。


 英雄が奮起し、敵に立ち向かうことを再び決意した。

 そうなれば俺のやるべきことは一つ。

 彼女と共に死力を尽くして戦い抜くことだろう。

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