入学試験 前編
「学園ですか。なんで今更?」
「いやな、今年はお前以外の11人も入るらしいんだよ。でもそれだと、学園にあるトーナメント戦や対抗戦が詰まらなくなるから、という理由で学園長から少しでも対応できそうな人がいたら勧誘してくれって言われててな。どうだ入ってみないか」
そのシャルの言葉を聞いて心底驚くシリス。理由は単純明快あの11人が学園に通う必要など皆無に等しいのだから。
「それに、お前は友達がほとんどいないだろう。学園に行って友達でも作ってくるといい」
シリスは言われて、考える。確かに友達と呼べるのは、シャルとフィアの2人くらいだ。あの11人は友達というより仲間だ。
改めて思うと自分の友達の少なさにショックを受ける。
「分かりました。行きますよ。改めて考えると僕本当に友達いないっぽいので」
「よし、ならちょっと待ってろ」
と言ってシャルは自分の机の引き出しを開けて中から1枚の紙を出すとそこに何かを描き始めた。書き終わるとその髪を封筒に入れてシリスに渡した。
「これは推薦状だ。これを持っていけば試験を受けられる」
「何から何までありがとうございます」
「私とシリスの中だ。気にすることはないさ」
そのあと、もう1度お礼を言って部屋を出ると、そのまま階段から1階に下りる。すると、案の定多くの視線が集まるが無視して出口に直行する。
冒険者ギルドを出たあと、もう既に入学試験を受けることができるらしいので、シリスは国立カラリア学園に向かう事にした。
しばらく歩くと、下層と中層の間にある壁の東門に着いた。
「おい、お前上に行く理由はなんだ?」
門番の騎士がシリスに理由を聞いてくる。
「上に行く理由は、国立カラリア学園の入学試験に出る為です」
「それなら、紹介状を見せろ」
国立カラリア学園の入学試験を受けるには、学園の卒業生又は、都市や町に住む貴族や、村に住む村長、その他の国が信頼を置いている人物の紹介状が必要になる。
「これで良いですか」
シリスはシャルの紹介状が入った封筒を門番に見せる。
「ふむ、どれどれ紹介者は……なっ、シャルティア様だと!」
門番は、封筒に書いてあった紹介主の名前を見て驚いた顔で叫ぶ。因みに、シャルの本名は、シャルティア・イリイスと言う。
「えっと、通って良いですか?」
「ど、とうぞ」
シリスは門番の騎士に紹介状を返してもらうと門を潜り中層に入る。
中層は、下層とは違い基本的には1つ1つの建物が大きく豪華な造りになっている。道も下層と比べるとしっかりと整備されている。
シリスは中層に入ると学園を目指す。学園は、中層では1番大都内でも城の次に大きい建物なので基本的には中層のどこからでも見える。
学園は、中層南区画の中心にあるので、東門からだと少し時間が掛かる。
30分程歩いてようやく学園の門が見えて来た。
シリスは、学園の門を潜り少し辺りを見渡すと門に入ってすぐの所に入学試験受付と言う看板があり、隣に椅子に座った女性がいた。
もう既に入学試験の期間が始まってから1ヶ月が過ぎているからか、シリスの他の受験生がいないようで女性は暇そうに欠伸をしている。
「すみません、入学試験を受けに来たんですけど、受付はここであってますか?」
「はい、あってますよ。受験生の様ですが紹介状は持って来ていますか?」
「はい、これで良いですか?」
シリスはシャルの紹介状を受付の女性に渡す。
女性はその封筒に書いてあった名前を見て、先ほどの門番同様とても驚いた顔をしたが、そこは慣れているのか叫ぶ事は無く封筒を開けて中に入っている紹介状をに目を通す。
女性は紹介状を読み終わると、顔を上げてシリスを見る。
「冒険者ギルド本部ギルドマスターシャルティア・イリイス様の紹介により国立カラリア学園の受験資格が貴方にあります。受験しますか?」
「します」
女性の質問にシリスは即答する。
「では、この紙に、氏名・年齢・受験する理由・ステータス総合評価の4つを記入して下さい。ステータス総合評価は、空欄でも構いません」
シリスは、渡された紙にペンでステータス総合評価以外を埋めて女性に返す。
「シリス・リアクターさん、15歳受験理由は、友達が欲しいからステータス総合評価は黙秘で、間違いありませんか?」
「はい間違いありません」
「それでは、早速試験に移りますので私に着いて来て下さい」
その後、女性について学園の中に入る。因みにカラリア学園は本校舎の他に男子寮、女子寮そして、訓練場の3つの施設がある。
そして、今向かっているのは本校舎にある受験者用が筆記試験を行う為の教室だ。
「ここで、筆記試験を受けてもらいます。時間は、1教科30分ずつで国語、数学、歴史、魔術の順番で4教科、計2時間になります。それでは、席について始めて下さい」
シリスは言われた通りに、席に着き筆記試験を始める。テストの内容は、全てシリスの知っている事だったので国語、数学、歴史の3教科は難なく終了する。
最後の魔術では、1番最後に禁呪を2つ以上習得できない理由を答えなさいと言う問題が出た。その問題を見て分からないわけではないが、シリスは少し手が止まった。
しかし、直ぐに解答を書くと試験管の女性に提出した。
「これで、筆記試験は終了です。次に、戦闘試験を行うのでついて来て下さい」
今度も、女性について行く。すると今度は、広い闘技場の様な場所についた。
「ここは、第1訓練場です。ここで、実践試験を行います」
「ようやく受験生が来たか。待ちくたびれたぞ」
第1訓練場の真ん中に立っている男がシリスに話しかける。
この人が、次の試験管らしい。
「俺は、ゲイル・ランガムだ。よろしく」
「こちらこそよろしくお願いします。僕は、シリス・リアクターです」
「そういえば、私もまだ名乗ってませんでしたね。私は、リンス・ネイラです」
「それじゃ、実践試験の説明をする。実践試験は先ず、魔術無しでの俺と戦ってもらう勿論武器の使用は自由だ。訓練場には傷を受けると魔力が減るだけで実際には傷を負わない様になる結界が張ってあるから安心しろ痛みはあるがな。次に、魔法を本気であそこにある水晶に向かって撃ち込んでもらう。いいかな?」
「分かりました」
そう言って、シリスとゲイルは少し離れる。
「始め」
リンスさんの合図で試験が始まる。ゲイルは、合図と同時に大剣を持ってシリスに突撃する。そして大剣を振りかぶりシリスに向かって振り下ろす。
「とった!」
ゲイルは、この時シリスに勝ったことを確信した……しかし現実は違った。シリスは、振り下ろされた大剣を、目にも留まらぬ程のスピードで後ろに跳んで躱す。
「何!」
ゲイルの驚きの声が訓練場内に響く。
シリスは、大剣を躱すと、何もないところから2丁のハンドガンを取り出した。
「2丁銃か、又珍しい武器だの。それに、その指輪は収納魔法が付与された指輪か」
「ご名答今度はこっちから行きますよ」
「こい、魔法弾など全て叩き斬ってくれるわ」
この世界の銃には2種類の銃がある。1つは、自分の魔力を弾にして発射する魔法銃。そして2つ目が、金属で出来た弾を発射する実弾銃。この2つが存在する。だが、実弾銃は魔法銃に比べ威力は高いが弾数に限りがあり、尚且つリロードの瞬間に発生する隙は大きく、実践でその隙は命取りとなる。
なので、唯でさえ少ない銃使いの中でも実弾銃を使うものは、殆どいないのだ。
閑話休題
シリスは、ゲイルに向かって2丁の銃を同時に発砲する。通常、ゲイル程の腕前があれば、魔力弾なら容易く捌くことが出来る。しかし、ゲイルは、大剣を動かすこともできずに、シリスの攻撃をその身に受けた。
「グァ」
実際に傷は出来ないものの痛みはあるためゲイルがうめき声をあげる。
「この速度と威力、まさか実弾銃か!」