四劇目 「S級スキル発動っ!?ミノタウロスってこんなに弱いの?」
ミノタウロスはラノベとかゲームでよく出るけど、そのポジションがまちまちだ。
時としてボスとして、また時としてザコとして登場する。
「ったく、またミノタウロスか、とりあえず攻撃連打」
「いよいよ、ミノタウロスかぁ、緊張する」
こうも凡庸かつ個性に飛んだ敵はそうは居ない。
制作側も扱いやすい敵のトップに並んでいるはずだ。
俺もこの敵に愛着を持っていた。
実際に会うまではなぁっっ!!!!!!!!!
俺は一歩近づくたびに奴の放つ狂気や威圧をもろに身体に受け、パニック寸前だった。
そして何より臭い。
牧場にいるような獣の匂いが鼻の奥に息をする度にこびりつく。
ジビエ料理にしたら一番良いんじゃないか?
俺は絶対食わんがなぁっっ!!!!!!!!!!!!
と俺は今の状況を頭の中で分析しながら、フリとツッコミをしていた。
そうでもし無ければ、自分のスキルがどうやれば発動するか分からないという不安1000%の中、死にに行くような真似なんか出来ない。
今俺がやっている事は「無謀」という文字以外に見当たらないはずだ。
「グモォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!」
自分に挑んでくる丸腰の青年に気がついたのか、そのビルほどの大きさのミノタウロスはもう一度雄叫びをあげた。
瞬間。
ミノタウロスは身を屈めて、俺を掬い取るように腕を振り回した。
劇場は音を立てながら吹き飛び、それでも勢いの衰えないその攻撃は速度を増し俺の身体のすぐ横にまで向かってきた。
一瞬スローに見えるミノタウロスの掌は、きっと俺が走馬灯を見るように意識が集中していたからだと思う。
そして、その攻撃が俺の体躯に直撃する。
ガチィィィィィィィィン!!!!!!!!!
金属が交わるともなんとも言えない衝撃音が響き渡る。
砂煙を巻き起こしながら、ミノタウロスは腕を振り抜いた体制を取っ・・・てはいなかった。
振りかぶって掬う。
その攻撃は振り抜かれたという事は、肩を中心点とした円周までの「内側を全て」を排除したという意味であるが、ミノタウロスは俺と衝突する100度分くらいで止まってしまい、それにに失敗したのだ。
簡単に言おう。
俺はミノタウロスの掌を止めたのだ。
比喩表現ではなく。誤字脱字言い間違い訂正、全ての過ちでもなく。
俺は爪が鋭利に伸びた巨大な掌を、自分の裏拳で静止させたのだ。
☆
俺は顔には出さなかったし、渋くキメていた。
巨体の繰り出す攻撃を微動だにせず、自分の手の甲と腕の外側、つまり手刀を繰り出す感じで止めているのだ。
だが、内心それには俺自身が度肝を抜いていた。
「うへえええええええええええええええ。なにこれーーーーーーーーーーーーーー」
って言いたかった。
でも我慢したのだ。
「グモォォォォォォォォォォォォォォォンンンンン!!!!!!!」
赤い目を光らせ、こめかみに血管が浮き出るミノタウロス。
鼻から蒸気のような吐息を吐き出しながら、万力のように全身に力を入れていれて俺を吹き飛ばそうとしているのが分かるのだが。
残念ながら、俺の腕には一切力が伝わってこない。
「グモォォォォォォォォォォォン。オッオッオォォォォォォ!!!!」
なんか申し訳なくなってきたな。
俺は必死に腰を落とし汗水垂らすこのミノタウロスに同情し始めていた。
「な、なぁ。マジで力入れてる?」
なんかパントマイムしてるみたいだもんなぁ。
俺はミノタウロスの手を軽く握る。
「グモォォォ!!!????」
すると見る見るうちに、そのビルほどもある巨体が浮き上がっていった。
「モ?モ?モォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!」
でかくて重そうな箱が実は発泡スチロールだったみたいな「うわっ軽っ」という変なビビリにも似た感覚。
まさにあの感じだ。
と共に見る見る浮いていくミノタウロスに、俺は心臓をバクバクさせながら自分の頭上にまで持ち上げる。
「で、・・・どうしようか」
「モモモゥ!!!モモモモグモゥ!!!」
お願い投げないでと、赤い瞳から涙を流し必死で訴えるミノタウロス。
だが、俺は他にいい考えが思いつかなかった。
「多分だけど、下に置こうとしたら地中深くまでめり込んじゃう気がするんだ」
俺は力加減の分かっていないスキル発動中の自分を自己分析し、今の状況を考えて「空に吹っ飛ぶか」「地中にめり込むか」の二択を与えた。
「モモウ!!」
え?
日本語でおk。
なんか目が「空の方がマシって言ってる?そうだよな。海とか湖に落ちれば被害は少ないもんな。じゃ、軽く投げるから」
俺は手に力を入れると、ミノタウロスの筋肉が断裂する感触が手に伝わった。
ブチブチブチブチッッッ!!!!
「ッッッッッッッッッッモグウウウウウウウウウウウウウ!!!!!!!!」
「あ、ごめんごめん!!!」
そこまでやりとりをしてようやく気付く。
「そう言えば、お前。俺の事殺そうとしてなかった?」
「モ、モモウ!!!」
今の、ち、違うだろ!!だんだん何言ってるか掴んできたぞ!!
史上最強の形勢逆転。
これ以上ないルーズベルトゲームを異世界で展開させる。
「モモモゥ!!!グモ、モモウ!!!!」
「え?お前に命令を出したやつがいた?」
なんかだんだん意思疎通もスムーズに出来るようになってる。
これもS級スキルのおかげなのか。
「誰だよ、それ」
「・・・、モウ」
「隠そうとしてんじゃねぇ、言えよ!!」
すると手首を捻られ涙目で空中で逆さまになっているミノタウロスが一人の男を指差した。
その男は、風呂から出てきた時に俺とリリラルの後ろでずっと見張っていた男だった。
「間違いないな?嘘つくなよ?」
「モウ!!」
ミノタウロスは必死に首を振る。
「じゃ、出来るだけ軽く投げるから」
「グモウッッッ、モモモウッッッ!!」
「約束が違う?知らんな」
と俺は軽く腕を上下させた。
「ゴモーーーーーーーーーーーーーー・・・・・・ン」
と絶叫と共に、ミノタウロスは夜空の彼方へ消えていく。
あれ?
なんか俺が悪役みたいじゃね?今回。




