第二話
文により、また風の噂により関ヶ原の地に集まり始める武将たち。
到着するのが特に早かったのは、池田輝政。
一番に到着し、ずっと城の中に入ったり門の前に立ってみたり、望遠鏡で遠くを見たりと
そわそわしていたそうだ。
何故、このように落ち着かないのか。
自分以外の武将が誰もいないことも不安の原因となり、そうしていたのではないか。
だが、私は違うと思うのだ。
何故なら、この次に到着したのが徳川家康だからである。
城の一室には池田輝政。関ヶ原に一番乗りをした男である。
だが、到着してから今までそわそわしっぱなしだ。
廊下をうろうろしたり、部屋のなかをぐるぐると歩き回ったりしている姿は、もはや一国の主ではなく
母の帰りを待つ子供そのものであった。
「もうすぐ、会える。この目であの美しき姿を…!」
そう呟いてはそわそわと。その繰り返しであった。
だが、ある者の到着で輝政の行動に変化が見られた。
徳川家康である。
いや、正確には家康の付き人である。
このとき、家康は自分の次女である督姫と、側室であるお梶の方を連れてきていた。
輝政の目的は督姫、ただ一人だけだった。
輝政の女性の好みは笑顔が可愛く小柄な女性といわれている。それにそのまま当てはまる督姫のことは、なんとしても手に入れたかっただろう。
東軍についたのは、最早督姫の為といっても過言ではないだろう。
今回の戦で総大将をつとめる家康に輝政は挨拶のため、家康の部屋に向かう。
が、その道中辺りをきょろきょろと見渡し誰もいないことを確認した後
早々と向かった場所がある。それは城の裏にある花畑であった。
先程とはうってかわって、満面の笑みで花畑のなかを歩く。
すると、そこには輝政が探していた人物である督姫が花を摘んでおられた。
「督姫!!」
輝政がそう呼ぶと、花を持ったままこちらに振り向く。
その振り向く姿は誠に、美しいものだった。
後世には、見返り美人といわれるものが描かれるがそのモデルとなったのは督姫なのではないか。
「池田様」
柔らかく微笑む彼女に、輝政は見とれていた。
その証拠に顔がゆるみきっている。
「督姫、久方ぶりでござるな」
輝政も微笑み返し、督姫の近くに寄りそう。小柄彼女は、輝政の胸にすっぽりとはまり、どこからどうみても、仲睦まじい恋仲である。
「お久しゅうございます」
「元気にしておったのか」
「はい。池田様もお元気そうで何よりです」
「輝政と呼んでくれ。そなたにはそう呼んでほしい」
「よいのですか。では、輝政様」
顔を赤らめながら、上目遣いで自分の名前を呼ばれるのはさぞ嬉しいことだろう。
そんな督姫を見て、輝政も顔を赤らめる。
この時が永遠に続けばいいと思うが、現実はそうもいかず。
もとはといえば、輝政は家康に挨拶に行くことが目的なのだ。
それをすっぽかせば、とんでもないことになる。
「督姫、某はもう行かねばならぬ」
「もう、でございますか」
「某とて、督姫と共にいたい!だがやらねばならぬこともあるのでござる」
「輝政様・・・」
そっと輝政の胸元に身を任せると、輝政も督姫を抱き寄せた。
「んん、ごっほん。ん」
桃色に包まれた雰囲気には、到底似合わないことをする者がいた。
二人が、そちらを見るとそこには家康がいた。
「父上!」
輝政のほうを鋭い眼光で睨みつけると、城のほうへと向かい帰って行った。
この後、挨拶に行かねばならない輝政は大きなため息をつき、心がずんと重くなったことであろう。




