第十二話
小早川秀秋に味方につくよう、話をつけた家康。
その場での返事はもらえなかったが、秀秋の反応を見たところまずまずの出来といったところだろう。
だが、家康はまだ満足していなかった。
「徳川殿~」
阿呆のような声で、家康の部屋に入ってきたのは宇喜多秀家。
西軍の武将である。
当然、部屋に呼んだのは東軍へ味方についてほしいと説得するためである。
だが、関ヶ原の合戦には直接参加はしていない。
そんな人物を何故、部屋に呼んだのか。
参加していないとはいえ西軍の有力武将である宇喜多秀家が、東軍の味方についてもらえれば、損はない。むしろ、三成に精神的ダメージを与えることが出来るかもしれない。
「おぉ、宇喜多殿。こちらへ来てくだされ」
「じゃあ、失礼してっと」
家康の前に座った秀家。家康とは対面している。
そして、相変わらずヘラヘラとしている。
「じつは宇喜多殿には話があるのじゃ」
秀家の軽い態度に合わせ、家康も軽い口調が話す。
だが、秀家は家康の想像以上にこの状態を理解していなかった。
「ねぇ、これ食べていい?すごくおいしそう」
目の前にある鍋を指し、満面の笑みでいう。当然、家康の話など聞いていなかった。
家康もここまでとは思っておらず、少し戸惑いながらも、話を進めようとする。
「も、もちろんよいぞ。ところでじゃ、秀家殿」
「ん~この白菜はおいしいなぁ」
「それよりじゃな」
「お豆腐も最高だなぁ」
とにかく秀家はいろいろと家康の想像以上であった。
家康の話など聞かず、ずっと鍋を食べ続けた秀家は、とうとう鍋を完食してしまった。
やっと話が出来ると思い、口を開こうとしたがまたしても秀家に妨げられた。
「いやぁとてもおいしかったよ、徳川殿。わざわざ呼び出されたから何かと思えば、こんなにおいしい鍋を御馳走してくれるなんて!それじゃ、僕はもう行くよ。御馳走様でした」
満足した表情でそう言い、部屋を立ち去ろうとする秀家。
これには家康も開いた口がふさがらない。
驚きのあまり本来の意味さえ忘れかけていた家康だが、まぬけに口を開いたまま秀家の背中を見送るわけにはいかない。回りくどくいっても意味がない。背中に向けて、簡潔に伝えた。
「東軍の味方についてほしいのじゃ」
先程までの軽い口調とは違い、重く真剣である。
さすがの秀家もしっかりと聞こえたのか、襖を開ける手を止め立ち止まった。
少しの間沈黙が続き、秀家が口を開いた。
「やだね」
たった一言で、返事をした。
長ったらしい、回りくどいことが嫌いな秀家らしい答えである。
「僕は西軍だ、って三成に言っちゃったからね」
少し困った表情を見せ、頭をポリポリとかきながら部屋を出て行った。
これには家康も驚き、それ以降東軍へ、と誘うことはなかったという。




