第十話
またまた家康の自室である。
が、先程までと全く違う。
どこがかと言われれば、空気である。
武将の会談のような緊張したものではなく、桃色の空気なのである。
所謂、甘い雰囲気なのである。
家康の自室なのだから、家康本人が甘い雰囲気を醸し出している張本人の一人である。
そして、もう一人は二十歳程の若い女子である。
この二人がそれはそれは甘い雰囲気なのである。
傍から見れば、孫と爺でもおかしくないが二人の関係は夫婦なのである。
戦国の世の言葉でいうと、側室である。後世の言葉でいうと、愛人である。
この女子の名、お梶と言い、超のつくほど家康のお気に入りである。
現に関ヶ原の地に連れてきている。
家康はお梶の腿に頭をのせ、耳掃除をしてもらっている。
六十近い大の大人、というか大のおじいちゃんが膝枕で耳掃除をされている。
見苦しいこと、この上ない。
だがお梶は少しも嫌な顔をせず、むしろにこにこと微笑みながら優しく耳掃除をする。
「気持ちいいですか」
「よいぞ。お梶の耳掃除は最高じゃ」
「まぁ、お褒め頂き嬉しゅうございます」
本当にうれしいのだろうか。
「戦のほうは如何ですか?」
柔らかい物腰で家康に尋ねる。彼女の周りにはふわぁとかいう効果音がついてもおかしくない。
が、家康は何かが気に入らないようでむっとした顔をする。
その上お梶には背を向け、すっかり拗ねている様子である。
「どうされました?ご機嫌を損ねたご様子…」
眉を下げ、お梶が聞くと小さな声で答えた。
「今は戦の話はしとうない」
すっかり拗ねてしまっている家康の背を見て、くすりとお梶は笑った。
「何がおもしろいのじゃ」
顔だけ振り向き、問う。
「いつもは多くの兵を率いる大将なのに、今はまるで赤子のような甘えん坊であらせられる」
「お梶の前だけじゃ」
そう言いながら、お梶の膝に顔をすり寄せた。
それに応えるように、頭をゆっくりと撫でている。
見苦しいことこの上ない。
「今は戦の話はしとうない。お梶の膝で眠りたい」
「はい。お眠り下さりませ」
その後、家康が眠るまで頭をなで続けていた。




