第9話 地下へ――端末は殴れる
旧封鎖山域の地面が、ゆっくりと沈む。
崩落ではない。何かが“開けた”感覚だ。
冷たい空気が、下から吹き上げる。
「……地下だね」
アリエスは、迷わず翼を畳んだ。
落下ではない。
制御された降下。
翼で速度を殺しながら、暗闇へ入る。
――トン。
着地。
足元は石。だが、自然の岩肌じゃない。
加工された床だ。
周囲に、淡い光が灯る。
「遺跡……?」
視界が切り替わる。
《ステータス・オーバールック》
地点:旧封鎖山域 地下施設
推定年代:不明
機能状態:稼働中(部分)
(施設が“生きてる”)
胸の奥が、静かに高鳴る。
殴りたい衝動はあるが、焦りはない。
通路の奥で、音がした。
――カチ……カチ……
規則的な金属音。
アリエスは、ゆっくりと歩みを進める。
角を曲がった瞬間、
それは姿を現した。
人型。
だが、人ではない。
金属と石が組み合わさったような体。
胸部に、淡く光る核。
「……端末、ってやつ?」
視界に、断片的な情報が浮かぶ。
《ステータス・オーバールック》
対象:不明(端末)
分類:制御体/自律防衛
Lv:???
HP:???
MP:— —
特記事項:
・本体とリンク中
・破壊されても再起動の可能性あり
「レベルも見えない」
それだけで、厄介さが分かる。
端末が動いた。
――ギギッ!
腕部が展開し、刃状に変形。
次の瞬間、
突進。
「速っ!」
アリエスは翼で横へ跳ぶ。
刃が床を抉り、火花が散った。
反射的に、拳を叩き込む。
――ガンッ!!
硬い。
手応えはあるが、砕けない。
(……普通に殴るだけじゃ、足りない)
表示が、わずかに更新される。
補足情報:
・外装装甲:高耐久
・核部位:防御低下中(0.6秒)
「……そこか」
端末が、再び動く。
今度は、光弾。
――バシュッ!
アリエスは翼で弾く。
「当たらないよ」
間合いを詰め、
わざと刃を受けるフリ。
――ガキン!
刃が弾かれた、その瞬間。
「今!」
拳を、胸部の光へ叩き込む。
――ドォンッ!!!
衝撃が、通路全体に響いた。
端末が、膝をつく。
核の光が、不安定に揺れる。
核部位ダメージ確認
リンク遮断:30%
「再起動前に――」
二撃目。
――バギィッ!!
核が砕け、
端末の動きが止まる。
沈黙。
だが、アリエスは構えを解かない。
(終わりじゃない)
視界の端に、赤い警告が浮かぶ。
警告:
・同型端末、複数起動
・本体反応、強化中
「……やっぱり」
拳を握る。
胸の奥が、はっきりと軽くなる。
未知。
格上。
複数。
条件は、悪くない。
「本体、殴りに行こう」
アリエスは、地下のさらに奥へ歩き出した。
S級案件は、
ようやく本気で牙を剥いた。




