第7話 S級の匂いがする
Bランク冒険者証は、思ったより軽かった。
だが、ギルドの空気は明らかに重い。
視線の質が、また一段変わった。
値踏みではない。
警戒と、遠慮だ。
アリエスは冒険者証を指で弾き、掲示板を眺めていた。
「Bランク以上指名可、っと……」
その時だった。
「アリエスさん」
受付嬢の声が、いつもより低い。
「……至急、こちらへ」
声色で分かる。
面倒じゃない。危ないやつだ。
胸の奥が、わずかに騒いだ。
(……いい感じ)
⸻
受付奥の小部屋。
分厚い扉が閉まる。
中には三人いた。
一人は、見慣れたギルド職員。
残り二人は――知らない制服。
片方は深緑の外套。
もう片方は、紋章入りの軍装。
視界が切り替わる。
《ステータス・オーバールック》
対象:不明(緑外套)
所属:他都市ギルド監察官
Lv:41
対象:不明(軍装)
所属:王国直属部隊
Lv:46
(……高っ)
アリエスの口元が、自然と緩む。
「初めまして、アリエスさん」
緑外套の男が名乗る。
「隣国ギルド連盟の監察官です」
軍装の男も続く。
「王国第三騎士団所属。
今回の件で、正式に派遣されました」
受付嬢が、書類を机に置いた。
「こちらが……指名依頼です」
紙を見た瞬間、
アリエスの視界が、はっきりと色を変えた。
《指名依頼(極秘)》
対象地域:旧封鎖山域
依頼内容:未確認超大型存在の調査・排除
想定危険度:測定不能
暫定ランク:S級相当
文字を追う前に、
匂いで分かった。
(……これ、ヤバいやつ)
胸の奥が、はっきりと騒ぎ出す。
逃げたい、じゃない。
殴りたい。
⸻
「通常、この依頼は複数Bランク、
あるいはAランクパーティで対応します」
監察官が言う。
「ですが……」
視線が、まっすぐアリエスに向いた。
「あなたは、例外です」
軍装の男が続ける。
「Bランク最上位を単独で無力化。
しかも、戦闘時間は十秒未満」
アリエスは首を傾げた。
「長かった?」
二人は、一瞬言葉を失った。
⸻
「本題に入ろう」
監察官が、静かに言う。
「この依頼には、他ギルド・他国も関与しています」
「つまり?」
「成功すれば、功績は計り知れない。
失敗すれば……記録から消える可能性もある」
アリエスは、書類を置いた。
そして、にっと笑った。
「それってさ」
指で紙を叩く。
「強いの確定ってこと?」
室内が、静まり返る。
軍装の男が、苦笑した。
「……怖くないのですか」
「怖い?」
アリエスは考え、首を振る。
「見えるし」
視線の先には、
すでに“何か”が表示され始めていた。
まだ詳細は見えない。
だが――格が違う。
それだけで、十分だ。
⸻
「受けます」
即答だった。
受付嬢が、息を呑む。
「ソロですか?」
「うん」
「支援部隊は?」
「いらない」
アリエスは、翼を軽く広げる。
「どうせ、殴るのは私だし」
監察官と軍装の男は、視線を交わした。
「……では、正式に依頼を」
その瞬間、
部屋の空気が、はっきり変わった。
世界が、アリエスを“主戦力”として認識した。
⸻
部屋を出ると、
ギルド内のざわめきが、一段大きくなる。
「国家案件だって……?」
「S級相当……?」
アリエスは、冒険者証をしまい、空を見上げた。
雲の向こう。
まだ知らない強者。
胸の奥が、完全に目を覚ました。
(……足りないって感じ、これだ)
翼が、無意識に震える。
「次は、本物だね」
天翼族ハーフ、十五歳。
Bランク冒険者アリエス。
世界は、
彼女を中心に回り始めていた。




