それぞれの成長
生徒達の特訓に付き合う事数日、アスカは体幹を鍛えしっかり攻撃の攻めと受けの両方でしっかりとした姿勢を維持出来るようになっていた。
「はぁ!せぃや!」
重りを付けた竹刀を振ってアキトに打ち込み連撃もしてみせる。
「よし、体幹も良くなったし太刀筋は悪くない。個人技だけなら技を身につければ十分だろう」
「技…ですか」
少し恥ずかしそうにするアスカを見てアキトは前の世界の癖が出てしまいハッとする。
「まぁ、その、流派とかそういう技能だ。我流もいいが構えは学んどけ」
「成る程!座学も大事…学ぶのは苦手ですが頑張ります」
(奥義だとかスキルだとか言わなくて良かった…恥ずいなぁ…)
そんな考えをしながらアキトはグラウンドを走るススムを見つめる。
既にバテバテだった周回を何とか超えるだけ走り体力が身に付いてきたようで激励してやろうとアキトはススムに近づく。
「お疲れさん。休んでいいぞ?」
「もう少し走れます」
「いや、そろそろ実技を教える。まずは呼吸を整えろ」
遂に自分もアスカのようにアキトの指導を受けられるとススムは深呼吸して身体をクールダウンさせる。
模擬戦用の尖端に布を巻いた長い棒を持ちススムはアキトと対面する。前回軽く本物の槍を掴まれ呆気なく負けた事を反省し槍をリーチに合わせるように持ち場所を調整する。
「学んだな」
「自分なりにしっかり考えました」
アキトが踏み込めないように牽制の姿勢も取り槍の持ち味を活かすススム。イメージ通りだと顔付きに自信が溢れていてアキトも軽く頷く。
ススムは槍が届く範囲なら動く必要はないとアキトの動きに合わせて牽制と持ち手をズラす動きを繰り返しつつ呪文を唱えて火の魔法でアキトを狙う。アキトはサッと回避しながら褒める。
「均衡を崩す一手、悪くないぞ」
褒めつつも木刀で軽く槍の尖端を弾いて挑発するアキト。観戦していたアスカは成長したススム相手に自分なりにどうすれば戦えるかをイメトレする。
(以前なら先生みたいに槍を軽く掴めば勝てたのに今じゃ強敵に見える…魔法覚えようかなぁ)
模擬戦とはいえ攻めあぐねるアキトにススムは痺れを切らして大きく突きを放つ。その時を待っていたとアキトは突きをギリギリで避ける。
「あっ!」
思わずススムの口から声が漏れてアキトに一本取られる。
「対人では辛抱も必要だな。だが外の環境なら攻めの姿勢は大事だ。個人戦とチーム戦そのイメトレも忘れるな?」
「は、はい」
ススムは少しせっかちな所があるなとアキトは理解しチームワークの乱れの起点になりかねないとサポート役の様子を見に行くことにする。
ーーーーー
弓道場、カスミが道着を来て必死に的を射ていた。
アキトが顔を覗かせたのを見てハッとし他の生徒達の邪魔にならない様に奥へ案内する。
「えっと…見学ですか?」
「まぁな、様子を見に来た」
どこまで立ち回りを覚えたかと尋ねるとカスミは頬を掻いて難しい顔をする。
「わ、私速射は苦手で…すぐに移動して放つなんて芸当出来なくて…」
どっしり構えて戦う事しか出来ないと語りつつその分しっかり策は練りましたとアキトを失望させないように弓を手に定位置につく。
高めに狙いを定め曲射を放ち的を見事に中央を射止めて見せて周囲の練習中の生徒達も目を丸くする。
(成る程曲射か、仲間の頭上を越えて敵を射る…どっしり構えるのが好みなら間違いは無いな)
「ど、どうでしょうか…?どうしてもステップ撃ち等が安定しなくて…」
「問題無い。しっかり前衛を固めているなら気にせず敵を狙える良いスナイパーだ」
ホッとするカスミ、他の生徒達はその極意が口から出るか期待していたが特に何も出ないのでワッとカスミに詰め寄りどうやったのかと聞き出そうとする。しかし天才肌なのかカスミの説明がアバウトでニュアンスで伝えていたので誰一人理解できる事は無かった。
ーーーーー
図書室、色々な兵法書を読み漁るエツコ。アキトはやっとの思いで見つけ出したエツコに声を掛ける。
「よぉ、熱心に読書して、勉強は苦手じゃないのか?」
「読書は好きです。私の人生に不要な勉学が嫌いなだけです」
無駄に多い数式やどこで使うのか分からない科学など覚える必要があるのかと誰しもが一度は思う物に興味が持てないと語るエツコは眼の前の蔵書を読み終えてアキトを睨む。
「何か用でしょうか?」
「冷たいな。で、どれぐらい覚えれた?」
「役に立ちそうな立ち回りなら全て…」
エツコは自信有り気に答えるがアキトはニヤニヤしながら質問する。
「自分だけじゃなく仲間がどれぐらい成長したか、癖なんか理解しているか?」
エツコは微妙な顔をしてアキトの言う言葉が挑発だと理解した上で答える。
「アスカは体幹も鍛えられていて前衛として申し分無く成長しています。ススムはまだ精神的に余裕は無い感じでカスミは立ち回りを変えられる程器用じゃないので…技を伸ばしてますね」
仲間達の成長を見ていたかのように答える。アキトは感心したように頷き観察をしていたのかと尋ねる。
「素養を知れば後は延長線上の事…私は…学ぶしかないから」
本を一つ手に取りページを捲り大規模な戦闘の陣形を小規模に落としてどう立ち回るのかというのを頭に叩き込んでいると語る。
「魔法なんてここ数十年の技術を落とし込むのは大変ですがそれなりに理解はしたはずです」
新情報である魔法の技術についての言及にアキトは「ほう」とつい関心を向ける。
「先生なのに学が無いのですね…歴史は私でも多少は覚えますよ?」
「魔法の歴史なんて…なぁ?」
魔法使えないしとアキトは戯けるがエツコは深く溜め息をつく。
「ダンジョンが生まれてから世は混迷を極め人々は新たな力に目覚めました。その一つが魔法…論理的に説明するのが難しい不思議パワーです」
「論理的でないと理解出来ないから俺魔法嫌い」
カタコトになりながら魔法を嫌うアキト。エツコはまた溜め息をつきながら本を閉じる。
「今なら先生との模擬戦も良い結果になりそうですが…」
「おいおい、対人でいくら頑張ってもダンジョンは攻略出来ないぞ?」
「そ、それは…そうですが…」
結局は対アキトを学んだだけだとエツコは肩を落としてダンジョン内なんて経験一度しか無くてパニックのまま終わって覚えて無いと答える。
「よし、じゃあダンジョン行くか!」
アキトはそれを聞いて軽くこう言い放つ。
半ばトラウマのダンジョンに軽々しく行こうと言い出すアキトを信じられないものを見るようにエツコは睨む。
「死ぬかもしれないんですよ!?」
「俺がいる!」
アキトの自信にまだ信用していないエツコは頭を抱える。
「皆死ぬんだ…まだ死にたくない…」
「俺に付いて来い。俺が居る限り誰も死なせやしない」
アキトは決めたと言い放ち絶望しているエツコの肩を叩いて激励しつつ図書室を去っていくのだった。
ーーーーー
翌日の朝礼。アキトがエツコと話したように全員でダンジョンへ行くことを告げる。全員が驚き恐怖に震える。
「いつかは行くことになる!今覚えておく必要のある事は覚える!安心しろ!俺がお前らを守る!」
教師としてアキトはそう言って生徒達を勇気付ける。
誰一人として死なさせないと言われてエツコ以外は少し安心した様子であった。
「という訳で放課後行くぞー、申請はしておくからなー」
アキトは軽い調子でダンジョンアタックをする旨を伝え有無を言わせずに朝礼を終わらせるのだった。
F班ダンジョンアタックする、その報は全ての班が嘲笑いどうせ全滅すると軽く見られる。
学長もアキトの「様子見」という軽い言葉に賛同するがアキトは攻略する気満々なのであった。




