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思い出は

波に揺られて船の上、これから数日掛けて帝国へ帰ろうという二人の間には気まずい沈黙が流れていた。いっそ船が難破して無人島生活を始めても良いとまで思うレインは深い溜め息をもらしてアキトに笑われる。


「船が遭難した方がいいなんて不吉な事考えてやいないか?」


図星なレインはうぐっと声を漏らして顔を(そむ)ける。


「他の人にも迷惑になるからやめろよ?」


「…はい」


しょんぼりするレイン、アキトは船の(へり)から地平線を眺めて今の限りある時間を楽しめと伝える。


「限りある…」


レインにとって残り数日とガックリする。

アキトは自分が消えるまでじゃなく残りの人生を語ったつもりであったがレインの深刻な顔を見て苦笑いするのであった。


ーーーーー


残り少ない逢瀬(おうせ)の時を覗き見する奥方一同は最初はレインを指差し笑っていたが自分達の今の状況と重ねて神妙な顔になっていた。


「最初はザマァとか言ってた姉さん達が何故か真剣な目になっている」


「死別と似た結末が待っていると知ると自分の場合と重ねて考えてしまって恋敵でも同情してしまうのよ」


「恋敵…姉さん達は結婚して一段階上から眺めてるじゃない」


結婚と恋愛は別物よと奥方達の言葉を受けて神鳴は他人事のように「そういうものなのかー」と呆ける。

放っておけば解決するものでもないと言われてハッピーエンド至上主義が揺らぐ。


「じゃあどうすれば!?」


「「神鳴が始めた物語でしょう!」」


もとを辿れば悪いのは焚き付けた神鳴じゃないとなって自分は悪くないはずだと何度目なのか分からない自己弁護をする。

わちゃわちゃと喧嘩を始める神様と奥方達なのであった。


ーーーーー


船旅も順調に進みこのまま行けば七日後位には帝都に着くだろうと予測出来た。

レインの憂鬱そうな表情にアキトは心配をするがどうしても別れが辛いと吐露されるがアキトにはどうする事も出来ず難しい表情になってしまう。寄り道出来る旅でもないしとアキトが呟くとせめて思い出をとカフス以上の何かを要求するレイン。


「思い出の品か、何が良い?」


「アキトさまが考えて下さい!」


レインの言葉にプレゼントの本質を真剣に考える事になる。


(特注品の武具…いやアクセサリー?カフスはそこいらのお土産品だしな…レインに合わせた武具か)


如意棒に代わる武器をアキトは用意出来るかと考える。割と難しそうだとアキトは自分のセンスを問われているのだと実感する。


(こういうの苦手なんだよなぁ、センスっていうのがイマイチってやつだ…)


今までの自分のやり口だと失敗しそうだと頭を抱えるが誰かに助けを乞うことも出来ないと幾つか候補を上げる。


「武器、そうだな、棒か槍か…持ってなさそうな槍がいいか?もしくは篭手(こて)、ガントレット。棒術だと素手は危ないしな…」


男臭いセンスだと自分でも笑ってアクセサリーの案を考える。


(ネックレスやブレスレット、長持ちしそうな金属製で宝石は…いや、キツいな資金が)


装飾品になった途端金額がとアキトは残りの資金を考えて結論を出そうとする。


(あ、どうせ帰るんだし金なんて全部使っていいんじゃん!)


天啓が降りてきて好きに散財できるとアキトは太っ腹になってレインの背中をバシバシ叩く。


「俺の残り少ない財産で遊んで帰ろうぜ!好きな物買ってやる!」


「はぁ…風情が無いですねぇ…」


センスがないと言われる所以(ゆえん)がはっきり分かるやり取りであった。


ーーーーー


実況席では…


「そうよ!心込めた贈り物が一番よ!」


「姉さん何か熱くなってる」


「だって遊んで過ごした日々も辛い思い出になるかもしれないのよー?良くないわよそういうの」


真面目故に間違った方向へ行こうとしていると豪語する姉に言われて仕方なく神鳴は助け舟を出してやることにする。


ーーーーー


旅行鞄が出現しアキトの後頭部を蹴り上げる。


「な、何する!…え?間違っている?」


「そうです!アキトさま!間違ってます!プレゼントは思い出よりも物が欲しいのです!」


レインも一緒になって抗議する。アキトは「物かぁ」と少し考えさせてくれと時間を掛けて考えることにするのであった。


ーーーーー


また日付が経ち船を降りて亜人の国を移動中、アキトはそれとなーくレインに色々と好きな色等を質問する。


「好きな色は…青ですけど…利き手?右手です。あの…下手くそですね聞くの…」


「観察眼には自信があるが聴取なんかは下手なんだよ…文句あるか?」


ストレートな質問にレインは呆れつつ幾つか質問に答える。得られた情報にアキトは頷きながらメモを取る。


「サプライズも何もありませんね…私も推理出来ますよ?」


レインは自分の与えた情報からアキトが何を買うのか想像が付くと言うとアキトはニヤニヤして当ててみなと笑う。


「そうですね、ストレートにするなら宝石のあしらわれたネックレス…違うとしても装飾品の(たぐ)い…あ、今私が言ったから変更しましたね?」


「いや?そう思うなら思ってるといい。答えは帝都に着いたらだな」


得意気な顔するアキトにレインは「むう」と膨れっ面になるのであった。


ーーーーー


亜人の国を三日掛けて通り抜けて帝国領に入る。久々の帝国の空気にレインは手を広げて満喫する。


「もう二度と帰ってこれないかもって思ってました」


「少しは気持ち落ち着いたか?」


「全然!寧ろもうすぐお別れと思うと寂しくて強がってないと壊れそうです!」


到底そうは思えないような口振りで壊れそうと語るレインにアキトは申し訳無さそうに微妙な顔をする。


「普段通り振る舞うのも難しいか?少し帝都で買い物していこうか」


「あ、プレゼントですね?正解はなんですか?今から考えます?」


レインは早口でまくし立てて不安を見せないようにする。


「取り敢えず一緒に行くか」


「はい、行きます」


昼過ぎ頃に帝都についてアキトは空を仰ぎ一泊していくかとレインに猶予を一日伸ばしつつ大通りを歩く。


「さあ、アキトさま!答え合わせは!?」


焦るようにレインはアキトを()かす。

風情がなくなっているレインに苦笑いしつつアキトは武具屋を指差す。


「武器ですか?今のコレよりも良いものを?」


「どっちかと言うと防具だな」


店の中を見て歩きアキトはレインにガッシリとした黒鉄(くろがね)の篭手を選ぶ。


「が、ガントレット?」


「ああ、お前の武器は鍔迫り合いが出来ない。だからこれを着ければ可能になる」


「えぇ…」


少し困惑しつつもピッタリフィットするその篭手をレインも少しして気に入る。ちゃんと宝石を装着するスペースも有り青い宝石を付けてもらいアキトは全財産を放出し切る。


「コレがアキトさまからのプレゼント…何だか思ってたのと違いましたが気に入りました」


「なら良かった。今日はケインズ領まで行くのはやめて明日行こうか」


二人は食事も取れる宿へ向かうのであった。

昔は同室でダブルベッドをお出しされて恥ずかしい思いをしていたが今は特に気にすることもなくなっていた。


ーーーーー


実況席も最終日だとして見ない事にしてアキトが帰って来る事に祝杯を上げつつ浮気した事をどう責めてやろうかと盛り上がっていた。


「明日雇い主からの解雇通知で旅は終わりよ!乾杯!」


「ふひひ、先生は酒癖悪いからお酒は駄目だよ?」


無礼講と大騒ぎする一同、神鳴はアキトがこれからどんな恐ろしい目に合わされるのか聞かされて戦々恐々とする。


(そ、そんな外道な…翔が干からびちゃう!)


もう二度と浮気しないように去勢まで話が出て流石にストップが入るまでアキトへの酷い虐めの話題は尽きることが無かったのであった。

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