有限の力
魔族四天王インとの戦い、空中から魔法を浴びせてくるインに対して手立てが殆ど無いアキト、大技を打ちたくても当たる保証はなく一撃必殺を決めなければ逃げられる状況。
(攻撃の予兆は見えるが反撃の策を練る暇がない!)
精霊が使えるなら楽が出来るのにと苦い顔をしながら水レーザーの攻撃を紙一重で回避し続ける。
当たらないイライラをぶつける様にインは両手に稲妻を走らせ水浸しになった戦場に広範囲の雷魔法を放つ。
(属性魔法のオンパレードかよ!)
広範囲技を避けるには瞬間的に移動するしかないと放つタイミングに合わせて加速、敵の背後に回り込み急斜面の山を素早く登り飛び上がり空中の敵に肉薄する。
(隙が出来た放つなら今!)
加速をやめて落ちる時間をゆっくりに操作し居合いのため時間を作り出す。
「消えた!?…っは!」
背後からの強い殺気にインは本能的に前に跳ねる。
距離は開いたが効果的な位置だとアキトは空中で奥義を放つ。
慣れない空中での奥義にアキトの予測を下回る威力でインに絶空の圧が襲い掛かり衝撃波により地面に叩きつけられる。
「仕留め損ねた!」
アキトは地面の上で苦しそうに藻掻くインを見て追撃をしようとするが上空から羽ばたきの音と共に注意を引く声が聞こえてくる。
「これでも食らえ!」
黒い靄が見えてアキトは咄嗟に人形を投げつける。その隙に魔族が一人飛竜にインを託してアキトの前に立ち塞がる。
「っち、逃がすか!」
投擲すれば間に合うと手裏剣で飛竜を狙うが魔物化した人形に防がれて全て悪い方向に転がる。
「イン様ここは任せてお逃げ下さい!」
(加速すればまだ!)
アキトは時を加速しようとするがインが力を振り絞り火の玉を放ち牽制してきてその隙に飛竜は空高く飛び上がってしまう。
「どうやら空は飛べないみたいだな!」
「っち、逃した魚は…大分デカいな…」
情報を多く持ち帰られてしまったとアキトは苦々しい顔をする。
もう今は目の前の敵を倒すしかないと木刀を構え直す。
「四天王イン様配下ハー、参る!」
剣を手にアキトに斬りかかる。アキトも応戦する様に剣の横っ腹を叩き攻撃を逸らさせる。
追撃を逃れるようにバックステップ。姿勢を整え直して仕切り直しとハーは奮起する。
「悪いがチャンバラに付き合うつもりはない、次で終わりだ」
「終わらせるものか!」
まだ時間を稼ぐとハーは力を溜めて渾身の一撃でアキトに斬りかかる。
加速、回避、背後を取るの鉄板ムーブでアキトはハーの空振りで隙だらけの後頭部を狙う。
ガツンッと来る激しい一撃、ハーは一瞬にして昏倒しアキトは追撃で完全に頭蓋を割りに掛かり弐撃決殺で仕留めるのであった。
決着がついたところで逃げられた事に変わりなくアキトは幾度もの加速に身体に軋みに似た痛みを感じる。
(やはり加速で過度の戦闘は負荷が来るか…)
時間の加速は空気抵抗や重力による負荷が大きく複雑な動作を要求される戦闘での連続使用は向いていない。
再度自覚させられる事実にアキトは何度目かの苦い顔をしてその場を離れる事にするのであった。
転送陣近くまで来てまた一人魔族の増援が現れる。
身体が痛みながらもゴーレム型の魔族の呼び出した魔物を相手取って大立ち回りする。
(くそ、転送陣を知られる訳にはいかない、ここで対応するしかねぇ)
ゴーレムを木刀で破壊したところで魔族が飛竜から降りてきて武器を構える。
「へっ、逃さねぇぜ!」
「面倒クセェな!」
脱出地点を目の前に敵との斬り結びを選んだアキトは仕方なく木刀を振りかぶる。
木刀が叩き切られないように器用に扱うアキトに敵は大きく舌打ちして思う様にいかないことに苛立っていた。
「当たれよ糞っ!」
「やられるかよ!」
四天王、その部下とランクダウンしていく相手に負けられるかとアキトは痛みに耐えつつ腹に一撃叩き込む。
そのまま兜割りする様に縦に一閃、敵を絶命させて踵を返し撤退するのであった。
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這々の体で帰還したアキトは関節をマッサージしながら背後の転送陣を監視する。
(敵には使われないって報告してるからな…使われるなんて事になったら困る…最悪消す必要があるな…)
痛みが和らいできてホッと一息つくと腹の虫が鳴る。
(使いすぎたか…まだ時間じゃねえのに空腹感が…)
ただ動き回った疲れからくる空腹を勘違いするくらいには能力を使ったと自覚し今の自分の限界を理解させられる。
「老いってヤツかー?いや、ちょっと弛んでただけか…」
ちゃんと戦闘での加速を怠っていたんじゃないかと関節を労るように揉む。
レインが戻るまでに不調を取り除いて転送陣を何とかしないとと険しい顔をするアキト、まだ見つかっていないのか向こう側から消された様子も侵入してくる様子も無く今は安堵して監視を続けるしかなかった。
夕刻になってレインが戻りアキトがジッと転送陣小屋の前から動かないのを見て何かやったなと女の勘というものを光らせる。
「アキトさまー?」
「うお、レインか。おかえ…」
笑顔の圧にアキトは「あー」と何かを察して頬を掻く。
「やらかしましたね?」
「いや、大丈夫。うん。ナニモシテナイヨー」
思わず棒読みになるがレインは騙されませんとアキトが自然と手揉みしている節々を確認する。少し腫れていた。
「ご無理をなさったご様子で…下見はあれほどするなと言っているのに…」
「すまん、どうしても道が無いか確認したくてな…」
そんなものは無く飛竜に乗っていたり魔術で浮いたりで解決する魔族を思い返して物理的に登るのはやはり不可能なんじゃないかと思い始めるアキト。
難攻不落とはまさにこの事とアキトも半ば諦めムードだったがレインはアキトを鼓舞する。
「まだ無理と決まった訳ではありませんし準備してから行きましょうよ」
「そうだな…まだ全てを諦めるには早計か」
アキトは一旦小屋に鍵を掛けて食事へ向かう事にするのだった。
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森の食堂では質素な料理が振る舞われていてレインは不服そうだがアキトは満足度の高いものだと評価している。
「ジビエ料理に近くて学びもあって満足してるんだがなぁ」
「焼いた川魚と野草のサラダじゃないですか」
「そこがいいんじゃないか。食べれる野草」
学びについて語るがグルメ的には美味しくないとレインは感想を述べる。
「ちょっと苦みというかエグみ?があって…酸味のあるドレッシングが欲しいですね」
「成る程、ちょっと提案してくる」
気軽にシェフと会話するアキトを見てプロデュースしてるのはアキトさまかと呆れるレイン。
「柑橘類のエキスだ」
持ってきたのはシンプルなドレッシング、レインは多少掛けてみて野草サラダを口に含む。
「やっぱりこっちの方が味に深みが増します。というかアキトさまが伝授したならもう少しマシな食事を用意させて下さいよ!」
「ちゃんと他人からの知見を得ないと分からないこともあるからな」
レインはパクパクと食べ進めて満足そうな顔になる。
「柑橘のエキスは魚にも合いますね。港側から肉もっと仕入れて下さいよ。どうせアキトさまが狩るんでしょ?」
「アレは梟用で狩りは…あー、一匹多く狩ればいいか」
一匹狩れば数日分は肉が取れるとアキトが言うとレインは嬉しそうにそうしましょうと手を取る。
すっかりゲテモノ食いにも慣れているなとアキトは苦笑いするのであった。
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食後、就寝するまでアキトは転送陣を気にして監視をする。
「動きは無しか…」
「逆に使ったら罠が発動するようにされてたりして」
レインが核心を突くような事を言うとアキトは「ありえる」と真剣に悩みだして就寝時間がズレそうになりレインはアキトの手を引いて早く寝ましょうと誘いアキトは施錠を確認し誘いに乗るのであった。




