去る者と願い
三日後、発注する為の船が到着したと聞いてアキトは一応港まで様子を見に行くことにする。
新しい開拓民や冒険者達がやって来る中でアキトは荷降ろしの確認をする。
(事前に使えるものがあったら買うのも手だものな)
管理人が荷物の確認をする横でアキトは荷の中の雑貨を確認する。
「確認するのはいいが買うなら別で金を出せよ?」
発注した内容以外で購入するならと釘を刺されながら分かっていると鎖やら何やらとチェックする。
「幾つか事前に試したいが…うーん」
唸り額面とにらめっこする。既に発注している分と二倍の出費は痛いと流石に渋り同じ品物が来るのかと管理人に確認する。
「その予定だが…特注品が欲しいってか?」
「頼めるのか?耐久力とか高めで…とか」
「何に使うんだ…?」
アキトは山登りと遠くの山を指差すと管理人に笑われる。
「まず長さが足りねぇだろうな。更に金額乗せないとな」
今の出費じゃあ足りないと言われてアキトは困り顔になり渋々お金を出す。管理人は発注書に数字を書き足して「まいど」と答える。
「騙されてないよな?俺」
「適正価格だ。輸送費も馬鹿にならないって事さ」
船賃もそれなりと言われて大きな貨物船をアキトは眺めて「そういうもんか」と納得し呟くのだった。
食事をしようと食堂へ向かおうとするとどうやら新大陸を去るメンバーもいるようでタロスが別れの挨拶をしていた。
「そうか、去るのか…寂しくなる」
「俺の力量不足ッスから…帝国に戻ったら代わり探してみますから」
どうやらタロスの仲間で心の折れた冒険者のようだ。
哀愁漂う背中を見送ったタロスは本当に残念そうな顔をしていたのでアキトは声を掛ける。
「一杯奢るぞ」
「君か、志半ばで倒れる前に去るのも英断だが、もう少し仲間に相談して欲しかったものだ」
タロスはリーダーとして自分はまだ頼りないかと悔しさいっぱいの表情でアキトの誘いに乗るのであった。
先に食堂で酒盛りしていたマックス達王国組が暗い雰囲気のタロスを見て絡んでくる。
「去る者、逝く者の数を数えても仕方ないぞ!人は死ぬし変わる!」
「お前に俺の何が分かる…」
「分からん!が数多く冒険者を見てきた俺が言える事は…『気にするな』!」
マックスは酒が入っているのか赤い顔をしてタロスの背中をバシバシ叩く。
「別れもあれば新たな出会いもある。それが冒険者というものだ!」
「個人の集まりとチームとしてやって来たものは違う…俺はリーダーとしての資質を…」
「資質だぁ?ドンと構えられない男がリーダー気取るのか?」
大笑いされてタロスはカチンときたのかマックスと喧嘩を始めそうになりアキトが「まあまあ」と二人の間を取り持つ。
「友が去る時くらいはしんみりさせてやれよ。日付跨ぐまではさ?」
マックスもそこは理解したようで頷く。
「そうだな友が逝った時は俺も静かに酒を飲みたくなる…悪かったな」
「あ、ああ…」
タロスは気持ち悪いくらい素直に引き下がったマックスに不気味さを感じて若干引き気味に椅子に座り直す。
「ワインで頼む」
「小洒落た酒を嗜むんだな。分かった」
アキトは注文を取って自分もタロスから距離を置いて肉料理を頼み食べるのであった。
ーーーーー
「へぇ…港行ってたんですねぇ…」
青筋ピクピク立てるレイン、自分は呼ばれてないと笑顔で威圧してくる。
「す、すまん…私用で…」
「いいなぁ!食堂でお食事!この拠点の食事は質素だから飽きるんですよねぇ!」
不満を大にして口から放ちアキトに当たり散らす。
「悪かったって…ちゃんと明日休みやるから好きに港で湯浴みでもなんでもしてこいって」
「暴食してやるんですから!豪遊ですよ!」
ヤケになっているレインをどうにか宥めようと条件を並べるアキト。
「アキトさま?私のハッピーエンドの条件ってなんだと思います?」
「そりゃ幸せになれるなら…」
「こんな御時世の女の幸せなんて少ないんですよ?」
そういうなら男も少ないと口が裂けても言えないなと苦笑いするアキト。言いたいことは分かるがどうしてもアキトはその一歩を踏んだ場合の地雷っぷりを想像して萎えてしまう。
「時間は有限、そろそろ私も折れる時がきたようです」
「やっと諦めて…」
「私が負けを認め夜這いすれば万事解決ですね!たとえアキトさまが去ることになっても子供こさえて血を残せばきっとケインズさまもお喜びに…」
話の方向が違ってアキトは呆然とする。
「なに?子供を残す…?」
これ以上子供が増えても困るというか節操の無さの証拠に他ならないとアキトは青ざめる。
「何故逃げようとするのです?男として名誉では?」
「め、名誉か?」
「異世界に子を残す事が心配ですか?ご安心を貴族の保護がありますから!」
個人的な倫理観の問題とアキトは困り顔になるがレインは覚悟決まった顔をして今夜襲う宣言をする。
「いや、今夜は仕事だろ」
「出鼻を挫かれた!なら今すぐ!」
「ええい離せ!寝込みを襲うんじゃなかったのか!」
問答無用と押し倒してこようとするレインに力負けする訳もなくアキトは逆に押し倒すようにレインをベッドに倒す。
「いいか、時と場合を守りなさい!」
「守ったらいいんですね?」
「…答えづらい質問すんな」
警備の仕事だとアキトは呆れながら先に小屋を出るのであった。
ーーーーー
翌日休みを貰ってレインは湯浴み中にハッとする。
(もしかして私良いように距離置かれてませんか!?)
順序が逆だったが意図せず距離を離されていることに気付いてショックを受ける。
(こうなったら食べれるだけ食べるし買い物だってしちゃうんだから!)
謎の誓いを立ててフンスと鼻を鳴らすのであった。
ーーーーー
レインが不在の今ならとまた調査出来るとアキトはこっそり転送陣を使い山を見に来ていた。
(アイツの事だ、日が暮れるまで遊び倒すだろうから俺もそれぐらいまで登山口の目星を付けるか)
とぼとぼと歩いていると背後の上空から気配を感じる。振り向けば戦闘になるのは必至として攻撃されるまで気付いていないフリをして無視を決め込む事にする。
「ここら辺に登れる場所は無いかな…っと」
わざとらしい台詞まで吐いてウソっぽさが出ているが気配は変わらず追跡してくる。
(飛竜じゃないな…魔族か?)
羽ばたく音がしないとアキトは正面の上空を見上げる。今日は前回のように邪魔が入りそうにないなと考えながらまた歩き始める。
暫く歩いても急斜面は変わらず険しい顔山肌にはやはり敵わないとアキトはそろそろ振り返るかと軽く溜め息をつく。
「なぁ?」
振り返ると魔族の女が浮いていて今にも魔法を放つように右手人差し指の先端を光らせくるくるさせていた。
「やっと気付いたか?」
「いや、ずっと無視してた。魔族って飛べるたのか」
「魔法の一環だ。貴様…最近ここらで暴れていた人間だな?」
暴れていたのはバレバレだったかとアキトは頬を掻いて多分と肯定する。
「そうか、死ね!」
魔族は動かしていた指を止めて思い切り腕を振ると野球ボール大の火の玉が複数アキト目掛けて飛ぶ。アキトは木刀を抜いて火の玉を打ち払い回避する。
噂に違わぬ実力に魔族の口角も上がる。
「コレならどうだ!」
次は両手を振ってバスケットボール大の火の玉を放つ。アキトはそんなものと先程と同じ様に弾き飛ばす。
「火だけではないぞ!」
指をアキトに向け水のレーザーを放つ。敵の動きを注視していたアキトは時の加速でそれを見切り素早く回避する。
「ムッ、妙な動き…やはり只者ではないな。私は魔族四天王イン!覚悟!」
四天王を名乗る空飛ぶ敵にアキトは防戦一方で攻めあぐねてしまうのであった。




